【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

文字の大きさ
9 / 63
ダルマータ国

8. 目的

しおりを挟む
 クリスタは握手をした手を放し、エドワードとリルルをじっと見る。

「私がこの街へ来た理由は、二つですよ。一つはエドワード様へこの手紙を渡すため。もう一つがパルクルトの港の北東にある海底火山を確認するため、です」

「なるほど……。それで、海底火山の結果は?」

 クリスタはハッと息を噴き出して笑った。
「私が確認したあとだと、どうして思うのですか?」

 エドワードは手紙についている焔の揺らぎを見ながら応える。

「君は出会い頭に、私にエメラルド家の地下室に行ったのだろう、と言った。それは、私を味方につけるためなのかもしれないが、私の目的がキミの目的と同じことを指す、ということだともとれる。我々がいつパルクルトに訪れるか、はたまた来ないかもしれない。それにも関わらず、キミはもう一つの目的を果たさず、ただ待っているだけの男とは思えないからだ。違ったかな?」

「ご推察の通り、ですよ」

 クリスタは一度席を外すと、壁にかけている絵に触れ、壁から額縁ごと剥がし、裏返す。
 すると、そこにはパルクルトの街の地図が出てきた。

 地図を額縁から引き剥がし、ゆらゆらと炎が燻っているテーブルのそばに置いた。
 
 リルルとエドワードはテーブルに置かれた地図を凝視する。
 何ら変哲のないパルクルトの街の地図だ。

「精霊の国と人々の暮らす国は表裏一体だということはマルゲリータ様の手紙に記されている通り、お分かりですね? ですが、土地の形式までは同じではないのです。したがって、この街では海底火山でも、聖霊の国では、海底にあるとも限らない、という事です」

「ああ、続けてくれ」
「ダルマータ創世記では海底からサファイアが見つかった、とされてますが、それは精霊国の火山なら発掘したサファイアをこのパルクルトの街の海底火山から出したことにしたのでしょうね。サファイアはこの国にはなかった。では、どのようにすれば精霊の国へ行けるでしょうか?」

 クリスタの問いに、エドワードは答えを持ち合わせていない。

「それは、私に聞かれても……」
「私は、海底とは限らないが、精霊国にも火山があると踏んでます。その火山が今は噴火していないことを願いますが」

 リルルが自身の艶やかな髪を肩にかけると「そこで、わたしですか?」と、言った。

「はい。リルルさんは探索が得意でいらっしゃる。例えあなたが、このパルクルトからこちらの世界に来ていないとしても、あなたならば、他の妖精がどのようにして現れるのか、それを調べるのは容易いのではないですか?」

 リルルは汚い者でも見るように、目を細めて、クリスタをみる。
 とてつもなく嫌そうに。

「精霊痕がないと、うまくいきませんよ」
「そこは問題ありません。精霊を捕まえておりますから」

 クリスタの発言にリルルが青ざめた。

「精霊をつかまえたのですか?」
「はい。まあ、私は精霊との混血児であるエメラルド家の者ですよ? あなた方がいつくるかもわからないのに、ぼーっと時間だけを費やすのはナンセンスですから。そこら辺は心得ていますよ」

 クリスタは少しだけ寂しそうに自身の手を見つめ、ソファから立ち上がった。
「すぐ、連れてきます」

 エドワードはクリスタが扉を閉めたことを確認すると、リルルに小声で訊ねる。
「私、というより、リルルの力を確認するために、マルゲリータに仕組まれたようだな」
「だろうね」

(王室図書館でのダルマータ創世記の探索も、おそらくマルゲリータ嬢によるものだろう。このミッションが成功させるにたる能力をゆうしているか、の)

 リルルはパルクルトの地図を見ながら、顎に手を置く。

「不思議なのが、サファイア家のことを嫌っていながら、なぜ皇太子と婚約したんだろうね。普通ならそんなことする必要がないだろう?」
「なら、婚約したとはマルゲリータは言ってない」
「ええ、殿下が言ってたから、ここに僕らがいるんだよね」
「百歩譲って婚約していたとして、嫌々でもしなければならない理由があった、ということだろう」

「ええ、どんな?」
「わかるだろ、そこらへん」

 リルルは地図からエドワードに視線を移す。エドワードの髪がすっかり銀髪に戻っており、その銀髪が窓から差し込む光を反射して、エドワードの表情を確認することはできなかった。

 ただ、エドワードのまとう空気がどことなく、重苦しく感じ、リルルはこれ以上、マルゲリータの話をすることは気が引けてしまった。

(エドがあんな女にいいように利用されていたなんて、考えるだけでも気持ち悪いのに……。でも、それ言うと、エドワードが悲しむから、話せないじゃないか)

 リルルはエドワードに話を突っ込めない代わりに、地図をじーっと睨みつける。

「あ」
「何だ?」

 リルルは地図をトントンと叩く。すると、うっすらと地図の端に文字が浮かび上がっていることに気がついた。

「おそらく果実酒か、何かで、地図に文字を書いているきがする。火を当てたら文字が浮かび上がるように、なっていたんだね」
「ああ、さっきの火か……。でも、それ、精霊痕関係なくないか?」

 リルルも首を縦に振る。

「ぶっちゃけ、精霊痕があっても広範囲から見つけるのは骨が折れるし、見つからない可能性もあるから、ある程度絞っておきたいところではあるけれど……。エドワードの好きな子はサディスティックだね」

 ぐうの音も出ない。

「全てがテストというわけ、だな。手紙を燃やさなければ、この絵も出ない。この絵の謎も解かなければ、精霊も出さない、という事だろうからな」

(では、断っていたら?)

 たらればを、考えても詮無いことだが、マルゲリータはおそらく私を滅していたのかもしれない。

 そう考えると、エドワードの背筋に寒気が走る。

 エドワードは念のため火から少しだけ距離をとり、地図の他のところにも文字が出ないかを調べた。
 案の定、海を位置する場所に罰印が出てきた。

「その地図の件は簡単すぎでしたか?」
 紫色の瞳をした小さな馬のような精霊を連れてクリスタが戻ってきた。

「お宅のお姫様を連れ帰るのが、本来の目的なんでね、そっちについてもヒントが欲しいくらいだわ」

 リルルが読み解いた地図を見るよう、クリスタを促す。

「そのうち、出てきますよ」
「だといいけど……」

 エドワードは二人のやりとりを眺めながら、思案する。

 本当に、マルゲリータは何を考えているのだ。
 王族に手を挙げることは死を意味する。エメラルド家はこの計画のために資材を投げ打っている。
 つまり、没落し、王族、旧六帝の括りから逸脱する存在となる。

 では、もし、命の危険を伴う場合、失踪だけで事足りるだろうか?
 答えはNOだ。
 エドワードは次男である。エドワードに爵位は与えられない。

 故に、己の立場が守られて、エドワードが誰とも結婚せず、パール家から離れていない状態でなければ、この計画は命を落とすリスクが高い。

 殿下との婚約はマルゲリータが命を守る上で致し方ないことなのかもしれない。

 リルルなら、いや、本当に好き合っているかもしれないじゃないか、とツッコミを入れそうだが……。

 エドワードは首を横に振り、考えを続ける。

 では、なぜマルゲリータは私を頼っているのか。
 自分で計画を実行する方が、容易い上に確実だ。リルルの能力はあれど、エメラルド家は元より精霊を巧みに使う一族。
 リルル一人を使わずとも、よほど効率が良いと思える。

 答えは一つだ。

 マルゲリータは命の危険がある状況にある、ということだ。
 遂行できないかもしれない。反逆罪は一族郎党皆殺しだ。それは公爵家も変わらない。エメラルド家はたった一人になるその時まで待っていたのに、妃殿下となれば、妃殿下を罰することはなかなかできない。
 
 ならば、ここで私を巻き込む理由はなんなのだ。
 もしかしたら、ここも誰が聞いてるとも限らないというのに。

 証拠を確実に抹消できるから、か。

 エドワードは戻ってきたクリスタの顔色を確認する。
 涼やかな目もとだが、どことなく、目の下にクマがうっすらとある。
 何日も寝ていないのだろう。


 なんとしても、このミッションをクリアしないといけない、という事をエドワードは悟ったのだった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

処理中です...