【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

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ダルマータ国

19. 思い出2

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 リルルが王城に潜伏して四ヶ月が過ぎた頃、王女の誕生祭の催し準備で城内は騒がしかった。
 成人したばかりの王女の成人の儀を執り行うことになっており、城内は飾りつけやら、ドレスや宝飾品を取扱う業者の出入りがにぎやかだった。

 なんでも、王女は父親譲りのたおやかな黄金色の髪に、母親譲りの翠色の瞳をもつという。玉のように大切に育てられた一人娘の成人の儀ということで、王も力が入っているのだろう。
 いつも以上に清掃への指示が細かい。

 王女の誕生祭当日、快晴の空には花火があがり、賑やかな音楽がなりひびき、国中の貴族が訪れダンスをし、テーブルには豪華な食材が並び、皆が盛大に祝福していた。

「王女のティアラには皇帝の石が施されているのよ」

 皇帝の石ーーアレキサンドライト。
 太陽光では緑色に光り、太陽光のない場所では赤色の宝石で、変色する石で、昼はエメラルド、夜はルビーと称される。
 精霊国では、王族以外は纏うことを禁止されており、王でさえも、生涯のうち、一度だけ下賜することが認められている貴重な石である。
 その貴重さゆえに、王の戴冠式で妻たる王妃に贈る機会が多いのだが、リュカスは妻にアレキサンドライトを贈らず、エメラルドを送った。

 それはリュカスの妻は人間であり、エメラルド家の娘だからなのかもしれない。
 はたまた、その石の意味かもしれない。

 エメラルドは幸運、夫婦、希望を意味する。アレキサンドライトは秘めた思い、高貴、誕生を意味する。

 奇しくもルビーはリュカスの王冠を彩る彩色だ。
 
「昼はエメラルドのように緑色を放ち、夜はルビーのような赤い石か」

 この娘が生まれた時から、リュカスはアレキサンドライトを送るつもりだったのだろう。
 自身を象徴するルビーと母のエメラルドを併せ持つこの石を、子供にあげるつもりだったのだ。

 式典の最中、使用人たちは、裏で忙しくしていた。その細やかな御礼として、王が城内の使用人のために、パーティを開いてくれた。

 ただで酒が飲めて、ご馳走が食べらるなら、とリルルもパーティ会場に訪れた。
 
 パーティホールに入ると、リルルは王と王女の姿を捉えることができた。

 王女の艶やかな黄金色の髪にリルルは見覚えがあった。
 だからなのだろう。やたらと心拍があがり、無駄に胸が早鐘を打つ。

 最前列で椅子に座っている二人だが、王は赤色のビロードの生地に黒や金色の装飾を施した服を着て、黄金の髪に赤色の瞳を持っていることが見てとれたが、その隣の王女は白色絹のロングドレスを纏っているのはわかるが、そのご尊顔は黄金の髪に隠れてリルルからは、はっきりとは見えなかった。
 遠目からそれも髪の間から見えた瞳がリルルの知っている翠ではなく、真っ赤な色だった。

(勘違いか)

 あの洗濯場であった侍女が実は王女なのではないか、そんな気持ちがあった。あの獅子の立髪にも似たたおやかな黄金色の髪はそうそうお目にかかることはない。
 だが、瞳の色が違った。

 王の娘は人との混血のため、人の血が濃く生まれたらしい。そのため、噂では、王女の魔力はとても弱いと聞く。
 侍女の魔力はほぼ感じられなかったが、この王女からは侍女の数倍、魔力を感じる。
 それでも、瞳の色を変えるだけの魔力はない。
 
 瞳の色を自由に変えるのはかなり魔力を要するので、そのような高等なテクニックを王女ができるとは思えない。ましてや自分の魔力を少量のように見せかけるのは、王女の隣にいる王だけだろう。

 もちろん、人の中でも魔力が強い者もいる。だが、王女はそうではないようだ。

 あの侍女と瞳の色が違うということは他人の空似なのだろう。
 リルルはたらふく食べるだけ食べて、酒を飲みあさると、そのまま、パーティ会場を後にした。


 翌朝、パーティの恩恵を受けたというのに、侍女たちは、ハメを外し過ぎたのだろう。泥酔状態の者も多く、人型を保てない者も多かった。

 そんなこんなで、王女を起こして、朝の支度をするようリルルが任された。
 なんでだよ、と悪態をつきたかったが、そんなことをしたところで、なんの意味も持たない。
 リルルは諦めて、王女が暮らす南向きの部屋を訪れた。

 重厚な扉をノックしても返事がなかった。それでも廊下で待つが、いくら待っても出てこない。
 
 不敬と思いつつ、リルルはゆっくりと王女の部屋の扉を開けると、ベッドの中にも、クローゼットの中にも、風呂にやトイレにも王女はいなかった。
 
「はあ? どこいるんだよ!」
 リルルは扉を開けながら、悪態をつくが、王女はどこにもいない。
 渋々、魔力を使って探索をすると、風呂場やトイレ、カーテンには痕跡があるのだが、部屋の大部分に痕跡など何もな見つからなかった。
「魔力つけてないのかよ」

 リルルは窓の下を睨み、高さを確認する。
 外は芝生があり、芝生の上には大きな木があり、おそらく王女はこの木を使って下に降りたのだろう。魔力がなくとも、この木から上り下りは可能だ。

 王女の部屋は三階で、リルルがこのまま降りるのはリスクが高い。いや、降りることはできる。だが、侍女が猿のように降りるのは違和感しかない。

(俺は女、女、女)

 リルルは諦めて、正攻法で外にでて、王女の痕跡を追うことにした。
 階段を使って下まで降りて、王女の部屋の下に行く。
 リルルがめんどくさそうに歩いていると、あの侍女にあった。

「あ」
 リルルの声に気がつき、侍女は空の洗濯籠を持っていたのだが、籠を地面に置いて、リルルに微笑む。
 日差しが眩しいのか、侍女の翠の瞳が細くなる。

「お前、王女見なかった?」
「王女?」
「見てなかったらいい」

 リルルは侍女に尋ねるが、侍女はわからないと言わんばかりに首を傾げる。

「悪かった」
 リルルはそう言って、その場を去ろうとする。


 それにしてもこの髪は本当に王女と似ている。侍女とは言え、きっと身分が高いのだろう。
 身分の高い者が私生児を持ち、私生児を侍女として勤めさせることは往々にしてある。そこで王の目に止まれば、一生安泰だ。
 元を辿れば王女と同じ血統かもしれない。それならば頷けるレベルだ。

 その時、突風が吹いて、灰色の雲が流れてきた。徐々に流れてきた雲は先刻までの強い日差しを覆い隠し、翳りを見せたはじめる。
 このまま雨になるのだろうか。その前に王女を見つけなければ。
 突然雨が降ったら、洗濯物もきっとびしょ濡れになるな、そんなことをリルルは思った。

(踏み台は、持っていなかった)

 王女を探すのが先だ。だが、洗濯籠を持っていた侍女の姿が気になり、振り返る。
 
「なあ、お前ーー」

 雲が流れて、日当から日陰に代わる瞬間、侍女の瞳が翠から赤へと変わった。
 そう、まるで昨夜の王女のような真っ赤な瞳で、リルルを見ている。

(ああ、やはり……)

 なぜ、王女の魔力の痕跡が一部しかないのか、その時リルルは合点がついた。
 そして、王がなぜアレキサンドライトを送ったのかも。

 四ヶ月前、リルルの腕を掴んだ男が言った。
『次は王女のティアラを持って来い』

 悪い予感というものはあたってしまうのだ。



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