【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

文字の大きさ
41 / 63
ダルマータ国

40.顔合わせ

しおりを挟む
 秋の青空が心地よいある日の午前、パール家の本邸にはエドワードとその友人が集まっていた。
 母の自慢の庭園内に置かれたテーブルと椅子はいつでも休憩できるように使用人たちが清掃してくれているので、埃ひとつない。

 エドワードはリルルとクリスタへ父ヨシュアと母カトリーヌが協力してくれる旨を夕食時に話した。
 近々、顔合わせと作戦会議のため、本宅を訪れてほしいことも伝え、二人は了承したが、リルルは複雑そうな顔を浮かべた。

(確執がとれたわけではないのだろう、と言いたげだな)

 エドワードはリルルの言いたいことがわかったが、敢えて口にしなかった。
 そんなことは、エドワード自身がよくわかっている。
 バラバラになったピースが元通りになるわけではない。長い年月によって、紛失したピースもある。

(それは、お前も同じだろう)

 気が緩んだら、そんな言葉が口から溢れ出てしまう。だから、エドワードはあえてそれ以上、口にしないのだ。
 感情に任せて口にすると、配慮を欠いて互いを罵り合って、後悔しかない気がする。そんな後悔はしない方が好ましい。

 顔合わせの時には、頼んでいた腕時計が届いていたので、クリスタの腕に納まっていた。

 まだ、傷すらないその時計を新調に扱うクリスタを見て、エドワードは存外に嬉しさが込み上げた。

「時計は時間を確認するものだ。壊れなければ、そんなにおずおずと扱う必要はない」
「盤面の裏にはとてつもない宝石が埋め込まれているんですよ。怖々なりますよ」

 アレキサンドライトを盤上に載せなかったのは盗難防止以外に理由はない。
 だが、盤面裏に宝石をつけたせいで、クリスタの腕時計は分厚くなり、使い勝手は格段に落ちている。
 だから、多少ぎこちない使用感だったとしても、不恰好な時計のせいだと皆、納得するだろう。

 贈り物をして、大切に使われている姿を見るのは存外に気分が良いものだ。

 だからだろう。エドワードは少し浮かれていた。それ故に、母カトリーヌが自身の眼前に腰掛けていることすら気が付かなかった。

「随分とご機嫌のようですね」

 少し低めの声が耳に入り、エドワードは恐る恐る視線を動かすと、茶色の髪を結い上げたあの特有の青い瞳が見えた。

「母上」
「怯えずとも私はあなたへ何にもしませんよ。それに、お父様から話があります。とは言っても、あなたの気持ちを汲めぬような母ではありません」

 本当にそうなのだろう。息子の気持ちが汲めぬような女ではない。
 それならば、なぜ、パール家はこれほどまで、バラバラになったと言うのだ。

「えーと、話していいかい?」

 父ヨシュアが苦笑いをして、エドワードとカトリーヌを見やる。
 どうにも、この親子は我の張り合いばかりをしている。そのせいで好転などしてこなかったというのに、未だに二人とも直そうとしない。

 腹の中に言葉を飲み込み、にこりと笑って、ヨシュアは場を仕切る。こういう場の主導権を握るのは得意だ。

 ヨシュアはパルクルトの教会の地下聖堂の壁画について説明をした。
 あの壁画自体はヨシュアの父である前パール公が妻の実家のために作ったらしい。

 エメラルド家の秘密を知ったからだそうだ。エメラルド家に使えるリュカスのこと、精霊国のこと、それらを婚約した日に妻から報告を受けた。
 婚約を破棄するならば、今のうちですよ、と母が言ったそうだ。

 ヨシュアはかつて父から言われた言葉を思い出しながら、伝えた。もう30年も前の出来事だというのに、今でも覚えていた。

「ダルマータ国が傾きかけていたのは、各公爵どころか国民が知っていることだから、エメラルド家の性格から言って、なんとかしたかったんだろう」


 自分達の私財を投げ打ってでも、なんとかしたい、というのはいかにも、博愛主義のエメラルド家らしい考えだ。

「精霊国の主人を国へ返さなければ、と思ったんだろうね」
「国へ帰る方法がなかったのですか?」
「なかった。いや、あったのだが、今まではなかった」

 なんとも言えない緊張感が漂った。この緊張感をカトリーヌが打破した。
「王冠に施されている宝玉の中にリュカスの娘が

 なるほど。母の言葉にエドワードは妙に納得した。そして、やっとマルゲリータが生まれ、ダルマータ国の王妃となれば、精霊国の王の末裔がダルマータ国の玉座に座る。
 

 そしてエメラルド家を解体すれば、精霊王リュカスが精霊国に帰れる、と考えたのだろう。

「現状を整理するとリュカスはマルゲリータ嬢と精霊国に戻った。それは確かなんだね?」
「はい。ニーブが見ております」
「なるほど……。では、アビー王女はおそらく……」

 エドワードはヨシュアの声にリルルが眉を動かしたような気がした。

「もしくは、皇太子との婚約後に私財を処分したからこそ、エメラルド家の末裔はいなくなった、と判断した可能性もあるね」
「そうだと思います。私は300年も生きているので、母が短命とは思えないです」
「そうだね」

 クリスタの自信に溢れている言葉にリルルの顔色が良くなった。

「とりあえず、この大人数で動くのもどうかと思うから、チームに分かれて探索をしよう。少なくとも、我々が精霊国へ行く手立ては今のところないのだし、どちらかの国を平定するなら、リュカスに王冠を返す方が楽だろうからね」
「我々がリュカスとコンタクトをとる、ということですか?」

   ヨシュアは首を縦に振る。
「場合によっては、君が王冠を掴んでも良いのではないかい? いずれにせよ、打てる手が多いに越したことはないよ」
 クリスタはヨシュアに説得され、手首に巻いている腕時計に視線を落とした。
 あれは、目立ってしまう。見た目が若い彼がつけているにはあまりにも分不相応の代物だ。

 だが、もし、それを相応とする手立てがあるとするならば、それはただ一つ。
 ヨシュアはカトリーヌの顔を見た。カトリーヌも同じことを考えているらしい。

「クリスタ、君はカトリーヌと共にジョルジの森へ行ってくれ」

 父の提案にエドワードが何か言いたげだったが、ヨシュアは続ける。
「ジョルジの森に入れるのはサファイア家のみ。カトリーヌはサファイア家の血を引く。怪しまれずに入れる上に、最短で精霊国へ行けるだろう。2人とも良いかな?」
「はい」
「ええ」

 エドワードが口を挟む前に話がまとまった。だから、エドワードはもやもやした気持ちと一緒に言葉を腹の中へと押しやる。

 父、ヨシュアは更に続ける。

「私が、公爵家ここから離れてウロウロすると目立ってしまう。私は司令塔として、ここにいる。だが、エドワード、リルル、お前たちは引き続き、アルフィアス殿下と接触をし続けてくれ」
 ヨシュアは指笛を吹き、窓を開けた。
「ニーブを伝達役として使うから、問題ないだろう」

 指笛に反応したのか、一羽のハヤブサが、窓の外から現れ、ヨシュアの肩に止まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...