【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

文字の大きさ
42 / 63
ダルマータ国

41. 精霊国にて1

しおりを挟む
 マルゲリータとリュカスが精霊国に来たのは、エドワードに頼んでエメラルド邸の屋敷の処分が終わってすぐのことだった。

 精霊国とダルマータ国をつなぐ扉がいくつかあるのだが、本当はジョルジュの森から精霊国に抜ける扉がある。それを使うのが最も最速だが、ジェット家の領地であるモルトナから向かうことにした。

 モルトナの街はダルマータ国の南西部に位置する農作物が豊富な街だ。
 のどか、という言葉がよく合う。
 街には宿がたった一つ。その宿屋もアットホームな雰囲気漂い、マルゲリータには心地よかった。

「街の東には果樹園があります。この果樹園は林檎の栽培が有名で、今日は収穫祭が開かれるそうですよ」
「そう……なら、ちょうど良かったわね」

「私は精霊国では国王なので、ジョルジュの森から精霊国に行くことはできないのです」
「理とか、そういう関係?」
「そうです。王としての私個人では、世界樹との契約は継続していますが、マルゲリータあなたの従属精霊としては契約していないので、あなたが精霊国へ行く分にはことわりに反しない、という理屈です」

 マルゲリータは宿家の二階の窓からモルトナの街を見下ろして、黒色の建物が並び、子供が駆け回る姿を目で追っている。
 両手に林檎が山盛りに入った籠を抱えていて、前が見えないのだろう。ゆっくりと歩いている。

「こういう光景も見えなくなるの?」

 リュカスはマルゲリータの背後から覗き込む。
「はい……」
 悔しいのだろう。それが滲み出るような声だった。

 子供のおぼつかない足取りを見かねたのだろう。近くにいた男が子供の持っていた籠をひょいと持ち上げると、子どもの横を歩く。

「なら、急いだほうがいいわね」

 子供の家に着いたらしい。男は黒壁の家から出てきた小柄な女性に林檎の籠を渡すと、子供の頭をくしゃくしゃと撫でる。
 女性が男にぺこぺこ頭を下げているが、男は照れ臭そうに笑って、その場を後にした。

「じゃあ、行きましょう」

 マルゲリータは窓のそばから離れると、リュカスに道案内するように目配せをする。

 リュカスはマルゲリータの体の中に入り込み、表向きはマルゲリータ一人の状態で、2人は街中を抜け、林檎畑も通り過ぎた村のはずれに辿り着いた。

 そこには小さな古びた小屋があり、リュカスは周りに人がいないことを確かめた後、マルゲリータの身体から出ると、フーと息を吐くと小屋の扉を開ける。

「埃があると思いますが、どうぞ」
 リュカスはキーと音を鳴らした木製の扉を開けると、マルゲリータが入るようにと中へ案内する。マルゲリータはリュカスの言うまま小屋の中に入る。

 小屋の中は6畳ほどだろうか。台所も風呂もなく、テーブルと真っ黒な井戸があったので、マルゲリータはその井戸を覗き込むが、中は外側よりもさらに暗くて見えなかった。

「とても暗いのね……」
「こうすれば、見えますよ」

 リュカスは魔法で炎を出してくれた。その炎が真っ白の光を放ったからか、真っ黒な井戸の中が反射し、炎を口から放つトカゲのような模様が井戸の底から見えた。

「何? これ」
「それが入り口ですよ」

 リュカスはそう言って、マルゲリータの体の中に戻ると、マルゲリータの心に直接話しかける。

「さあ、行きましょう。私の娘が作った扉です。貴方ならば、問題ないでしょう」
「そんなこと言ったって、井戸の中に入る、ということ?」
「はい。光があるうちにいかなければなりません」

 仄暗く光る水底に向けて身を投げると、体と水が接触した瞬間、体にまとわりつく水の感覚がぬるま湯のように心地よく感じた。

「目に入る」
 そう思ったら、マルゲリータは思わず瞼を閉じる。すると体が捻れるような感覚を覚えたが、気持ち悪い。そう思った瞬間、床の下から幾つも草の生えたボロボロの小屋にあったテーブルの上に叩きつけられた。

「うっ、いったあ」
 テーブルから、降りると、マルゲリータは目を開いて息を吐く。

 先程の小屋の様子はあまり覚えていない。けれども、少なくとも床から雑草は生えていなかった。

 マルゲリータは「うまくいった」と感じていた。小屋の扉を開けるとそこはマルゲリータが見たこともない世界だった。
 
 空にはドラゴンやグリフォンがおり、魚も飛んでいる。
 大地にはケンタウロスが駆けていた。

「驚きましたか?」
「かなり」
 マルゲリータは緑の大地に寝転がると、大の字になった。
「素晴らしい世界だわ」
 その顔はワクワクした好奇心を隠せない子供そのものだった。

 鳥の囀りが頬をさすり、緑の草の匂いが鼻を掠める。

「とうとう、ここまできたわね。それじゃあ、世界樹へ行きましょう」

 足を勢いよく宙へ降ったあと、上体を起こしたマルゲリータは、大地を蹴る。

 リュカスが言うには、ダルマータ国と精霊国をつなぐ扉がいくつかあり、その点扉を精霊国またはダルマータ国の王族が己の印を残すことで、扉が開くのだと言う。

 マルゲリータの目的はダルマータ国にいるクリスタを王位につけることだ。リュカスが世界樹との約束をしているために、精霊国に来るのに苦労した。だが、精霊国に入ってさえしまえば、クリスタがダルマータから精霊国に入るための扉を開ける手助けができる。
 だから、マルゲリータはダルマータと精霊国をつなぐ扉を開かなくてはならない。

「仮王はこの王帝だけが持つ能力のことを知っているの?」
「知らないはずですね。アレキサンドライトがないと認識しない、そう言う手はずですから」
「そっかあ。こちらにもがありそうで、安心だわ」

 マルゲリータは芝生から立ち上がると、リュカスを下から見上げる。

「それじゃあ、行きますか」

 無邪気に歯を見せて笑うこの少女を尊敬する。そして、リュカスは心の底からマルゲリータに感謝をした。

 ありがとう。我が国のために尽力してくれて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

処理中です...