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ダルマータ国
41. 精霊国にて1
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マルゲリータとリュカスが精霊国に来たのは、エドワードに頼んでエメラルド邸の屋敷の処分が終わってすぐのことだった。
精霊国とダルマータ国をつなぐ扉がいくつかあるのだが、本当はジョルジュの森から精霊国に抜ける扉がある。それを使うのが最も最速だが、ジェット家の領地であるモルトナから向かうことにした。
モルトナの街はダルマータ国の南西部に位置する農作物が豊富な街だ。
のどか、という言葉がよく合う。
街には宿がたった一つ。その宿屋もアットホームな雰囲気漂い、マルゲリータには心地よかった。
「街の東には果樹園があります。この果樹園は林檎の栽培が有名で、今日は収穫祭が開かれるそうですよ」
「そう……なら、ちょうど良かったわね」
「私は精霊国では国王なので、ジョルジュの森から精霊国に行くことはできないのです」
「理とか、そういう関係?」
「そうです。王としての私個人では、世界樹との契約は継続していますが、マルゲリータの従属精霊としては契約していないので、あなたが精霊国へ行く分には理に反しない、という理屈です」
マルゲリータは宿家の二階の窓からモルトナの街を見下ろして、黒色の建物が並び、子供が駆け回る姿を目で追っている。
両手に林檎が山盛りに入った籠を抱えていて、前が見えないのだろう。ゆっくりと歩いている。
「こういう光景も見えなくなるの?」
リュカスはマルゲリータの背後から覗き込む。
「はい……」
悔しいのだろう。それが滲み出るような声だった。
子供のおぼつかない足取りを見かねたのだろう。近くにいた男が子供の持っていた籠をひょいと持ち上げると、子どもの横を歩く。
「なら、急いだほうがいいわね」
子供の家に着いたらしい。男は黒壁の家から出てきた小柄な女性に林檎の籠を渡すと、子供の頭をくしゃくしゃと撫でる。
女性が男にぺこぺこ頭を下げているが、男は照れ臭そうに笑って、その場を後にした。
「じゃあ、行きましょう」
マルゲリータは窓のそばから離れると、リュカスに道案内するように目配せをする。
リュカスはマルゲリータの体の中に入り込み、表向きはマルゲリータ一人の状態で、2人は街中を抜け、林檎畑も通り過ぎた村のはずれに辿り着いた。
そこには小さな古びた小屋があり、リュカスは周りに人がいないことを確かめた後、マルゲリータの身体から出ると、フーと息を吐くと小屋の扉を開ける。
「埃があると思いますが、どうぞ」
リュカスはキーと音を鳴らした木製の扉を開けると、マルゲリータが入るようにと中へ案内する。マルゲリータはリュカスの言うまま小屋の中に入る。
小屋の中は6畳ほどだろうか。台所も風呂もなく、テーブルと真っ黒な井戸があったので、マルゲリータはその井戸を覗き込むが、中は外側よりもさらに暗くて見えなかった。
「とても暗いのね……」
「こうすれば、見えますよ」
リュカスは魔法で炎を出してくれた。その炎が真っ白の光を放ったからか、真っ黒な井戸の中が反射し、炎を口から放つトカゲのような模様が井戸の底から見えた。
「何? これ」
「それが入り口ですよ」
リュカスはそう言って、マルゲリータの体の中に戻ると、マルゲリータの心に直接話しかける。
「さあ、行きましょう。私の娘が作った扉です。貴方ならば、問題ないでしょう」
「そんなこと言ったって、井戸の中に入る、ということ?」
「はい。光があるうちにいかなければなりません」
仄暗く光る水底に向けて身を投げると、体と水が接触した瞬間、体にまとわりつく水の感覚がぬるま湯のように心地よく感じた。
「目に入る」
そう思ったら、マルゲリータは思わず瞼を閉じる。すると体が捻れるような感覚を覚えたが、気持ち悪い。そう思った瞬間、床の下から幾つも草の生えたボロボロの小屋にあったテーブルの上に叩きつけられた。
「うっ、いったあ」
テーブルから、降りると、マルゲリータは目を開いて息を吐く。
先程の小屋の様子はあまり覚えていない。けれども、少なくとも床から雑草は生えていなかった。
マルゲリータは「うまくいった」と感じていた。小屋の扉を開けるとそこはマルゲリータが見たこともない世界だった。
空にはドラゴンやグリフォンがおり、魚も飛んでいる。
大地にはケンタウロスが駆けていた。
「驚きましたか?」
「かなり」
マルゲリータは緑の大地に寝転がると、大の字になった。
「素晴らしい世界だわ」
その顔はワクワクした好奇心を隠せない子供そのものだった。
鳥の囀りが頬をさすり、緑の草の匂いが鼻を掠める。
「とうとう、ここまできたわね。それじゃあ、世界樹へ行きましょう」
足を勢いよく宙へ降ったあと、上体を起こしたマルゲリータは、大地を蹴る。
リュカスが言うには、ダルマータ国と精霊国をつなぐ扉がいくつかあり、その点扉を精霊国またはダルマータ国の王族が己の印を残すことで、扉が開くのだと言う。
マルゲリータの目的はダルマータ国にいるクリスタを王位につけることだ。リュカスが世界樹との約束をしているために、精霊国に来るのに苦労した。だが、精霊国に入ってさえしまえば、クリスタがダルマータから精霊国に入るための扉を開ける手助けができる。
だから、マルゲリータはダルマータと精霊国をつなぐ扉を開かなくてはならない。
「仮王はこの王帝だけが持つ能力のことを知っているの?」
「知らないはずですね。アレキサンドライトがないと認識しない、そう言う手はずですから」
「そっかあ。こちらにも分がありそうで、安心だわ」
マルゲリータは芝生から立ち上がると、リュカスを下から見上げる。
「それじゃあ、行きますか」
無邪気に歯を見せて笑うこの少女を尊敬する。そして、リュカスは心の底からマルゲリータに感謝をした。
ありがとう。我が国のために尽力してくれて。
精霊国とダルマータ国をつなぐ扉がいくつかあるのだが、本当はジョルジュの森から精霊国に抜ける扉がある。それを使うのが最も最速だが、ジェット家の領地であるモルトナから向かうことにした。
モルトナの街はダルマータ国の南西部に位置する農作物が豊富な街だ。
のどか、という言葉がよく合う。
街には宿がたった一つ。その宿屋もアットホームな雰囲気漂い、マルゲリータには心地よかった。
「街の東には果樹園があります。この果樹園は林檎の栽培が有名で、今日は収穫祭が開かれるそうですよ」
「そう……なら、ちょうど良かったわね」
「私は精霊国では国王なので、ジョルジュの森から精霊国に行くことはできないのです」
「理とか、そういう関係?」
「そうです。王としての私個人では、世界樹との契約は継続していますが、マルゲリータの従属精霊としては契約していないので、あなたが精霊国へ行く分には理に反しない、という理屈です」
マルゲリータは宿家の二階の窓からモルトナの街を見下ろして、黒色の建物が並び、子供が駆け回る姿を目で追っている。
両手に林檎が山盛りに入った籠を抱えていて、前が見えないのだろう。ゆっくりと歩いている。
「こういう光景も見えなくなるの?」
リュカスはマルゲリータの背後から覗き込む。
「はい……」
悔しいのだろう。それが滲み出るような声だった。
子供のおぼつかない足取りを見かねたのだろう。近くにいた男が子供の持っていた籠をひょいと持ち上げると、子どもの横を歩く。
「なら、急いだほうがいいわね」
子供の家に着いたらしい。男は黒壁の家から出てきた小柄な女性に林檎の籠を渡すと、子供の頭をくしゃくしゃと撫でる。
女性が男にぺこぺこ頭を下げているが、男は照れ臭そうに笑って、その場を後にした。
「じゃあ、行きましょう」
マルゲリータは窓のそばから離れると、リュカスに道案内するように目配せをする。
リュカスはマルゲリータの体の中に入り込み、表向きはマルゲリータ一人の状態で、2人は街中を抜け、林檎畑も通り過ぎた村のはずれに辿り着いた。
そこには小さな古びた小屋があり、リュカスは周りに人がいないことを確かめた後、マルゲリータの身体から出ると、フーと息を吐くと小屋の扉を開ける。
「埃があると思いますが、どうぞ」
リュカスはキーと音を鳴らした木製の扉を開けると、マルゲリータが入るようにと中へ案内する。マルゲリータはリュカスの言うまま小屋の中に入る。
小屋の中は6畳ほどだろうか。台所も風呂もなく、テーブルと真っ黒な井戸があったので、マルゲリータはその井戸を覗き込むが、中は外側よりもさらに暗くて見えなかった。
「とても暗いのね……」
「こうすれば、見えますよ」
リュカスは魔法で炎を出してくれた。その炎が真っ白の光を放ったからか、真っ黒な井戸の中が反射し、炎を口から放つトカゲのような模様が井戸の底から見えた。
「何? これ」
「それが入り口ですよ」
リュカスはそう言って、マルゲリータの体の中に戻ると、マルゲリータの心に直接話しかける。
「さあ、行きましょう。私の娘が作った扉です。貴方ならば、問題ないでしょう」
「そんなこと言ったって、井戸の中に入る、ということ?」
「はい。光があるうちにいかなければなりません」
仄暗く光る水底に向けて身を投げると、体と水が接触した瞬間、体にまとわりつく水の感覚がぬるま湯のように心地よく感じた。
「目に入る」
そう思ったら、マルゲリータは思わず瞼を閉じる。すると体が捻れるような感覚を覚えたが、気持ち悪い。そう思った瞬間、床の下から幾つも草の生えたボロボロの小屋にあったテーブルの上に叩きつけられた。
「うっ、いったあ」
テーブルから、降りると、マルゲリータは目を開いて息を吐く。
先程の小屋の様子はあまり覚えていない。けれども、少なくとも床から雑草は生えていなかった。
マルゲリータは「うまくいった」と感じていた。小屋の扉を開けるとそこはマルゲリータが見たこともない世界だった。
空にはドラゴンやグリフォンがおり、魚も飛んでいる。
大地にはケンタウロスが駆けていた。
「驚きましたか?」
「かなり」
マルゲリータは緑の大地に寝転がると、大の字になった。
「素晴らしい世界だわ」
その顔はワクワクした好奇心を隠せない子供そのものだった。
鳥の囀りが頬をさすり、緑の草の匂いが鼻を掠める。
「とうとう、ここまできたわね。それじゃあ、世界樹へ行きましょう」
足を勢いよく宙へ降ったあと、上体を起こしたマルゲリータは、大地を蹴る。
リュカスが言うには、ダルマータ国と精霊国をつなぐ扉がいくつかあり、その点扉を精霊国またはダルマータ国の王族が己の印を残すことで、扉が開くのだと言う。
マルゲリータの目的はダルマータ国にいるクリスタを王位につけることだ。リュカスが世界樹との約束をしているために、精霊国に来るのに苦労した。だが、精霊国に入ってさえしまえば、クリスタがダルマータから精霊国に入るための扉を開ける手助けができる。
だから、マルゲリータはダルマータと精霊国をつなぐ扉を開かなくてはならない。
「仮王はこの王帝だけが持つ能力のことを知っているの?」
「知らないはずですね。アレキサンドライトがないと認識しない、そう言う手はずですから」
「そっかあ。こちらにも分がありそうで、安心だわ」
マルゲリータは芝生から立ち上がると、リュカスを下から見上げる。
「それじゃあ、行きますか」
無邪気に歯を見せて笑うこの少女を尊敬する。そして、リュカスは心の底からマルゲリータに感謝をした。
ありがとう。我が国のために尽力してくれて。
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