【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

文字の大きさ
55 / 63
ダルマータ国

54. 面会6(リルル×

しおりを挟む
 リルルは王城の廊下を歩きながら、手のひらに爪が食い込むほど、拳をきつく握っていた。

(アビー)

 できることならこのままダルマータ国の王を屠りたい。だが、そんなことをしてどうなる?
 そんなことをして、マルゲリータが助かるのか? アビーが助かるのか? 否。

 それならば、やることは一つだ。宝石を奪還する。そして、精霊国にいるアイツに任せるしかない。
 いや、アイツなんて言ったことはない。あの方、と言う方が正しい。

 万事うまくいってると願う。リュカス。

 リルルは王城を出たヴィヴィアンを追うのをやめると、洗濯場にあっだ侍女の服を拝借し、大胆にも王城内を闊歩した。

(私がこちらに来ることなど、ヨシュア様は予測済みだろう。だから、ニーブに後を追わせているし、彼の方が確実だ)

 扉を一つ一つ開けると怪しまれるので、リルルは自身の追跡の能力を使いつつ、とある人物の足跡を探していた。

 サファイア家は魔法が使えない。ある制約のせいで使えぬ体となったそうだ。この国のダルマータ創世記にも載っている。
 だが、精霊はどうだろうか。
 その点についてはダルマータ創世記に記載はなかったが、魔力がなければ精霊はサファイア家にはつかない。主人の死後に手に入れられる魔力がなければ、精霊にとっては価値がないからだ。
 だが、別の対価があり、サファイア家についている場合だってある。
 そう言う奴は大概、多くの力を既に持っており、その先の何かを得るための駆け引きだ。

 精霊国でアビーを封印できるだけの力を有し、300年封印し続けることができるその力の持ち主は、おそらく、この国を手中に収めようと企んでいるのだろう。
 
 そして、精霊であるならば気づいているはずだ。リュカスが再び王位についたのであれば、衰えていたアビーが盛り返すことも。
 正しき王が収めた治世は安寧と化すから、自ずと精霊国の民は等しく恩恵をうけるのだ。

 もし、リルルの想像が正しければ一人しかいない。
そして、その者とは二度ほど面識があるから、今、追跡をしているのだ。

(リュカスの時は二週間後の追跡だった。今回はそれほど時間も経っていない。それに、本人がここにいる)

 錆びた銅のような色の扉の前にその痕跡はあり、リュカスは吸い寄せられるようにぴたりと足を止めた。

(ここだ)

 はやる気持ちを抑えるように息を整える中、走馬灯のように出来事を振り返ってくる。

(カトリーヌ様がわざわざ道を作ってくださった)

 王冠にあるサファイア家の宝石は、必ず王城にある。
 故に王城にある程度怪しまれずに留まる必要があった。
 だから、マルゲリータを助けるためにカトリーヌが精霊国に行き、サファイア家の娘であるカトリーヌが負傷をするか、体力の限界まで達し、王城で保護してもらう形を取らなければならなかった。
 国の宝石である王の内籍を軽んじる者などこの国にはいない。
 カトリーヌの世話のために、普段は足を踏み入れない洗濯場や調理場などを自由に動き回ることができた。
 そうでなければ王城といえど、裏方の部分は易々の入れないし、世話役として王城内をうろついて把握するなど荒唐無稽な出来事であった。

 息がある程度整い、リルルは息を吐きながら重苦しい扉を押した。
 中には一人の宝石商が王冠を持っているところだった。

「おや、リルルさん、どうかされましたか? その姿は珍しいですね」
 その男はリルルに微笑みかけた。

 リルルは侍女の服を床に脱ぎ捨て、ズボンにシャツと言うラフな姿になり、男へ近づいていく。

「流石に動きにくいので、いくつか脱ぐことにしたよ」
「そうですか……。しばらく見ぬ間に趣向が変わったのか、と思っていたのですが、残念です」

 男は王冠を手から滑り落ちそうになり「おっと」といって、別の手でキャッチをする仕草をしたので、リルルの眉がよった。

「落としたら解雇どころではないぞ?」
「直せば、わかりません」

 男は王冠を指でくるくるもて遊びながら、リルルを舐めるように上から下まで見る。

「何年前でしたかねぇ。あなたにお会いしたのは。その頃のあなたは、ごろつき風情で、いえ、ごろつきだったのですが、すっかりうまいことやって、嫁ぎましたよね……」

 男は王冠の中央で鎮座している青色の石に目を落とした。

「あのころ、私があなたに依頼した内容って覚えていますか?」
「ああ」
「ティアラ………、ついには持ってこなかったですよね、リルル」

 その一言で、空気が変わった。
 王冠は男の手から離し、地面に吸い込まれるように落ちていく。

 その間、リルルは王冠を取ろうと走り出し、男は懐から鋭い刃物を取り出し、リルルめがけて走り出した。

(刺される)

 地面に叩きつけられたからとて、宝石は割れないだろう。それより自分の身を守る方が大切だ。そんなことはわかっていた。
 けれども、感情は別なのだ。

 リルルの指先が王冠に触れ、そして、男がリルルの背中に尖った切先を刺すべく、振りかぶったその時、地面に青色の光が放たれ、目も眩むようなその光に男は思わず目を瞑った。

 その一瞬、リルルは王冠を空中でキャッチし、体を翻し、攻撃に備えた。

(なんだ?)

「ダルマータ創世記には記していないことがある」

 青色の光が消えた後、深いそして低い声が聞こえてきたので、男とリルルは咄嗟に声の主を見た。

わたしも魔法が使える、ということだ」

 声の主の頭上には王冠が輝いていた。

「そして、私はダルマータ創世記に従うつもりがない、王だということだ」

 傭兵を幾人も携えたダルマータ国、現王帝がそこにはいた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

処理中です...