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ダルマータ国
53. 面会 5
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ヴィヴィアンはカトリーヌのそばに近寄ると、力の抜けた手を握りしめる。
「ああ……」
カトリーヌの価値はカトリーヌ自身が思うよりも遥かに尊いのだ。
それが世間の評価だが、サファイア家ではそうではなかった。だから、今回カトリーヌが無理をしたのだが、そのおかげもあってか、マルゲリータの救出に成功した。
ヴィヴィアンはカトリーヌの手をそっとベッドに置くと、己の気持ちを落ち着かせるために、深く息を吐く。
「取り乱しまして、申し訳ございません」
(カトリーヌ様がここまでしたのに、王は……マルゲリータ様を処刑する気なのに……)
ヴィヴィアンの心の声が漏れ聞こえ、思わぬ報酬を得たので、ヨシュアとリルルの眉がぴくり、と動いた。
「いえ、お気になさらず。妻のことを案じていただき、心よりお礼申し上げます」
ヨシュアは慎重にヴィヴィアンに返答すると、ヴィヴィアンをベッドの横にある椅子に座るよう促し、リルルへ目配せをする。
リルルはその意図を察知し、頭を下げ、茶の準備を始める。
ヴィヴィアンは勧められるがまま、椅子に腰を下ろし、小さく息をつく。
「ありがとうございます」
(王は翌夜にでもマルゲリータ様を捕えるつもりだと、お姉様がおっしゃっていた。私が今、ヨシュア様にお伝えすることは……ダメなことなのかしら)
リルルはテーブルのヴィヴィアンの前にティーカップを置いた際、カチャリと音が鳴ったので、ヴィヴィアンは思わずリルルを見上げた。
(この人……エドワード様の従者なのよね。それなら、エドワード様からお伝えできないのかしら……)
ヴィヴィアンの心が揺らぎ、リルルもそれに応えるように笑顔を向けた。
しかし、ヴィヴィアンは口を閉ざした。
(言えないわ。だって………、間接的に王妃様を裏切ることになるもの……。王が明日の朝に来なければ、殺してしまうなんて、言えないわ……。姉さまが言うには王が王冠の手入れをさせているそうだから、おそらく………、マルゲリータ様を処刑しない、という選択肢はないはずなのに)
「あ、王冠の修理には、先日、主人の屋敷にきてくださったルーイさんが行うようですね。先ほど、王城でお会いして、伺いました」
リルルの言葉にヴィヴィアンは一瞬だけ、顔をこわばらせ、すぐに笑顔の仮面を貼り付けた。
(うそ………)
「そう…‥なのですね。名誉なことですわね」
名誉なことなどない。王家の宝石を触るものは、王城から出ることを禁止される。それは王家の秘宝を他の宝石へ挿げ替えるのを禁止するためだ。
そして、それは死ぬまで続くのだ。だから、結婚はできない。身内は少ない方が良い。面倒ごとが生じるリスクが減るからだ。
「私…‥長居し過ぎたようですわ。カトリーヌさまが早く元気になるよう祈っております」
別れの挨拶もそこそこに、ヴィヴィアンは退席をしたので、ヨシュアがリルルに「追いかけなくていいのかい?」と、促した。
「貴方さまの従者が追っているでしょう」
「それもそうだね」
何かを言いたげなヨシュアの笑みを見ると、リルルは深く息を吐く。
「今は距離が近すぎるので、後を追いますよ。当然」
「だろうね」
リルルは水差しから荒っぽく水を注ぐと、コップをつかみ一口飲んで、部屋を後にした。
「僕は随分と嫌われているのだな」
ヨシュアは自分を納得するように、呟き、眠っている妻の頬にキスをする。
「年若いお嬢さんを騙すのは、心苦しいね」
妻の冷たいそっと頬を優しく撫でて、席を立った。
扉が閉まる音を確認すると、カトリーヌは目を開いた。
「私も」
カトリーヌはベッドから起き上がろうとした時、視界にありえないものが映った。
ヨシュアが美しいブルーのドレスを持ち、立っていたのだ。
「あなた、出て行ったのではなくて?」
「だから言ったろう。『年若いお嬢さんを騙すのは、心苦しい』と」
「私は、『年若く』も『お嬢さん』でもないです」
「僕にとっては、いつまでも出会った頃の可憐なお嬢さんだよ」
カトリーヌは呆れ顔を見せると、ベッドから立ち上がり、寝巻きを手早く脱ぎ捨て、洋服ダンスの中にあったコルセットを自ら手早くつけていく。自分で気つけられるタイプのコルセットを事前に用意していたのだ。
「いつから気づいていましたか?」
「コルセットが、自分で着脱するタイプだったから。君みたいなご令嬢が、他人を介さないものを用意させているのは、裏があると思うのは自然な流れだよ」
「そう……ですか」
「それでも誤算はあったのだろう?」
カトリーヌはコルセットの紐を腹部の下で縛ると、夫が用意したドレスに袖を通す。
「まあ、概ね順調です。王冠とマルゲリータのことはリルルたちに任せるとして、私は王の従姉妹としての役目をいたします」
「頼もしいね。うん。似合ってる」
カトリーヌは耳を真っ赤に染めて、髪の毛で表情を隠す。
「馬鹿げたことを」
髪を結い上げたいが、侍女は出払っている。このままでも良いか、とカトリーヌは思ったが、ヨシュアと目があったので、思わず聞いてしまった。
二十年も前の昔の記憶があった。花嫁衣装を纏ったマルゲリータの髪を結い上げたいと、ヨシュアが侍女の代わりに髪をセットしてくれた。
だから、思わず聞いてしまったのだ。幸せに満ちていたあの時代に戻りたいと、常に思っていた。
はからずしも、膠着していた関係に良い兆しが出てきたから。
「できますか?」
「ああ」
言葉通り、ヨシュアは器用に妻の髪を結い上げていた。
それは二人の関係性を修復するように、一房、一房丁寧に結う作業は儀式のように厳かな雰囲気を纏っていた。
「ああ……」
カトリーヌの価値はカトリーヌ自身が思うよりも遥かに尊いのだ。
それが世間の評価だが、サファイア家ではそうではなかった。だから、今回カトリーヌが無理をしたのだが、そのおかげもあってか、マルゲリータの救出に成功した。
ヴィヴィアンはカトリーヌの手をそっとベッドに置くと、己の気持ちを落ち着かせるために、深く息を吐く。
「取り乱しまして、申し訳ございません」
(カトリーヌ様がここまでしたのに、王は……マルゲリータ様を処刑する気なのに……)
ヴィヴィアンの心の声が漏れ聞こえ、思わぬ報酬を得たので、ヨシュアとリルルの眉がぴくり、と動いた。
「いえ、お気になさらず。妻のことを案じていただき、心よりお礼申し上げます」
ヨシュアは慎重にヴィヴィアンに返答すると、ヴィヴィアンをベッドの横にある椅子に座るよう促し、リルルへ目配せをする。
リルルはその意図を察知し、頭を下げ、茶の準備を始める。
ヴィヴィアンは勧められるがまま、椅子に腰を下ろし、小さく息をつく。
「ありがとうございます」
(王は翌夜にでもマルゲリータ様を捕えるつもりだと、お姉様がおっしゃっていた。私が今、ヨシュア様にお伝えすることは……ダメなことなのかしら)
リルルはテーブルのヴィヴィアンの前にティーカップを置いた際、カチャリと音が鳴ったので、ヴィヴィアンは思わずリルルを見上げた。
(この人……エドワード様の従者なのよね。それなら、エドワード様からお伝えできないのかしら……)
ヴィヴィアンの心が揺らぎ、リルルもそれに応えるように笑顔を向けた。
しかし、ヴィヴィアンは口を閉ざした。
(言えないわ。だって………、間接的に王妃様を裏切ることになるもの……。王が明日の朝に来なければ、殺してしまうなんて、言えないわ……。姉さまが言うには王が王冠の手入れをさせているそうだから、おそらく………、マルゲリータ様を処刑しない、という選択肢はないはずなのに)
「あ、王冠の修理には、先日、主人の屋敷にきてくださったルーイさんが行うようですね。先ほど、王城でお会いして、伺いました」
リルルの言葉にヴィヴィアンは一瞬だけ、顔をこわばらせ、すぐに笑顔の仮面を貼り付けた。
(うそ………)
「そう…‥なのですね。名誉なことですわね」
名誉なことなどない。王家の宝石を触るものは、王城から出ることを禁止される。それは王家の秘宝を他の宝石へ挿げ替えるのを禁止するためだ。
そして、それは死ぬまで続くのだ。だから、結婚はできない。身内は少ない方が良い。面倒ごとが生じるリスクが減るからだ。
「私…‥長居し過ぎたようですわ。カトリーヌさまが早く元気になるよう祈っております」
別れの挨拶もそこそこに、ヴィヴィアンは退席をしたので、ヨシュアがリルルに「追いかけなくていいのかい?」と、促した。
「貴方さまの従者が追っているでしょう」
「それもそうだね」
何かを言いたげなヨシュアの笑みを見ると、リルルは深く息を吐く。
「今は距離が近すぎるので、後を追いますよ。当然」
「だろうね」
リルルは水差しから荒っぽく水を注ぐと、コップをつかみ一口飲んで、部屋を後にした。
「僕は随分と嫌われているのだな」
ヨシュアは自分を納得するように、呟き、眠っている妻の頬にキスをする。
「年若いお嬢さんを騙すのは、心苦しいね」
妻の冷たいそっと頬を優しく撫でて、席を立った。
扉が閉まる音を確認すると、カトリーヌは目を開いた。
「私も」
カトリーヌはベッドから起き上がろうとした時、視界にありえないものが映った。
ヨシュアが美しいブルーのドレスを持ち、立っていたのだ。
「あなた、出て行ったのではなくて?」
「だから言ったろう。『年若いお嬢さんを騙すのは、心苦しい』と」
「私は、『年若く』も『お嬢さん』でもないです」
「僕にとっては、いつまでも出会った頃の可憐なお嬢さんだよ」
カトリーヌは呆れ顔を見せると、ベッドから立ち上がり、寝巻きを手早く脱ぎ捨て、洋服ダンスの中にあったコルセットを自ら手早くつけていく。自分で気つけられるタイプのコルセットを事前に用意していたのだ。
「いつから気づいていましたか?」
「コルセットが、自分で着脱するタイプだったから。君みたいなご令嬢が、他人を介さないものを用意させているのは、裏があると思うのは自然な流れだよ」
「そう……ですか」
「それでも誤算はあったのだろう?」
カトリーヌはコルセットの紐を腹部の下で縛ると、夫が用意したドレスに袖を通す。
「まあ、概ね順調です。王冠とマルゲリータのことはリルルたちに任せるとして、私は王の従姉妹としての役目をいたします」
「頼もしいね。うん。似合ってる」
カトリーヌは耳を真っ赤に染めて、髪の毛で表情を隠す。
「馬鹿げたことを」
髪を結い上げたいが、侍女は出払っている。このままでも良いか、とカトリーヌは思ったが、ヨシュアと目があったので、思わず聞いてしまった。
二十年も前の昔の記憶があった。花嫁衣装を纏ったマルゲリータの髪を結い上げたいと、ヨシュアが侍女の代わりに髪をセットしてくれた。
だから、思わず聞いてしまったのだ。幸せに満ちていたあの時代に戻りたいと、常に思っていた。
はからずしも、膠着していた関係に良い兆しが出てきたから。
「できますか?」
「ああ」
言葉通り、ヨシュアは器用に妻の髪を結い上げていた。
それは二人の関係性を修復するように、一房、一房丁寧に結う作業は儀式のように厳かな雰囲気を纏っていた。
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