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ダルマータ国
59. 憂鬱と提案
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リルルはエドワード邸の庭の掃除をしながら、ため息をついていた。
マルゲリータも見つかり、アビーも見つかり、何ため息をついているんだって?
聞いてくれるだろうか。
アビーはしばらく、リハビリのためにカトリーヌ様の邸宅で暮らしているが、1日に何回か顔を見える機会を設けてくれている。
そこに不満はない。不満どころかありがたい限りだ。
カトリーヌ様のそういう隙がなく、そつなくフォローするあたりはやはり見事と言った風情だ。
独特の雰囲気だったり、威圧感のような空気を纏っているのは、彼女の出自や境遇、これまで経験したものから醸し出されているのだろうが、この目に見えぬ空気をエドワードは苦手のようで、いまだに避け続けている。
マルゲリータの失踪の一件で以前よりは幾分かマシになったが、それでも、まだぎこちなさがある。
長年の距離を急に詰めることは不可能なようだが、そのうち歩み寄っていくのだろう。
人生は長いのだから。
そんなこと思っているお前はどうなんだって?
そう、それで頭を抱えているから、ため息が溢れた。
正直言って300年、子供と妻と離れ離れになっていた。夫婦でいた期間より、離れて暮らしていた期間の方が長い。
たかだか20年経つか経たないかくらいの期間で、しかもこんな近い環境で拗らせている奴より、俺の方がよっぽど深刻ですわ。
会話をどうすりゃいいのか、精霊国に戻ろうにも、あれは王族しか扉を開けない仕組みになっているし、少なくとも、俺は無理だし、じゃあクリスタはどうか、ってなるけれど、あの子もあの子で忙しいから、マルゲリータの失踪とか王冠の件がひと段落したら、飛ぶように帰って行った。
親子の会話は? いや、ほら、出会いは最悪だったから、ひと段落してから、離れていた期間どうだったとか、聞こうとしたわけだが、そんな気持ちは俺だけのようだった。
クリスタには親子の会話をしようなんて気持ちが微塵も生まれず、サクッときてサクッと帰る、次の仕事があるんで、じゃあ、ってな感じで、帰って行った。
じゃあ、アビーと300年という長い時間を埋めようとしたのだが、アビーはずーーーーーーっと寝ていたから、いうなれば、俺は昨日も会ったじゃん、的な感じだ。
だから、俺なんかよりも、ダルマータ国の文化、服装、景色、風習そういう今まで触れてきたことがないものに興味があるらしくて、カトリーヌ様に沢山質問をしていてる。
カトリーヌ様はカトリーヌ様で成人した息子よりも何でも聞いてくれるアビーが新鮮なのか、時間を割いて教えてくれる。
アビーがすぐに吸収するのも楽しいのだろう。
つまり、俺は掃除に熱を入れるしか今のところなく、掃除のスキルが上達していく。
これがため息をついた理由だ。
「暇だなあ」
ふと、リルルがそう呟いた。
「忙しい方が好きなの?」
背後から声をかけられ、振り返るとニコニコと笑ったヨシュアがそこにいた。
「いえ、その、あまりにも落差がありましたので」
「まあ、そうだよね。それは僕も同感だ。ひと息ついたのだから、妻と旅行と思っていたが、妻はゲストに夢中のようで、僕も君と同じく手持ち無沙汰なのだよ」
「すみません」
「いやいや、イキイキとしている姿を見れるのはこちらとしても嬉しい。とはいえ、先送りにしていた件を片付ける時が来たようで、君にも手伝ってもらえるかな?」
リルルはひと時考えてから「私はエドワード様の配下ですが?」とヨシュアに返答する。
「だからだよ。君もエドワードもマルゲリータ嬢が戻って安心、全て丸く収まった、とか思っているだろうが、エドはヴィヴィアン嬢と婚約をしているのだから、未婚の女性を邸宅に何日も置いておくのはマルゲリータ嬢にもヴィヴィアン嬢にも悪いだろう。もちろんエドワードにとっても良くないことだ」
「ヴィヴィアン様との婚約は破棄されるのではないのですか?」
ヨシュアは首を横に振った。
「なぜだい? 公爵家の第二子は爵位を継がないから、誰と結婚しても構わない、そう思っているのかい?」
「いえ、その」
「爵位に関係なければ誰と婚姻しても構わない、とするならば、最初から、シトリン家と婚約などさせないよ。得るものがあるから、契約をするんだよ」
先程までの平和そのものと言った空気が、変わり、張り詰めていく。
「私に頼みたいこと、とは、マルゲリータ様のことですか?」
「察しが良いね」
この展開でそれ以外の選択肢があると?
「市井に置いたら彼女は暮らしていけませんよ」
「じゃあ、いつまでもここにいる事は良い事なのかな?」
「それは、ですが、あと少しくらい」
「あと少し、あと少しとなって、それが、世間に知れたらどうなる?」
「……」
リルルは何も返答しなかった。無言の同意と捉え、ヨシュアは続ける。
「だから、女性に見えるキミに依頼しているのだろう」
「ですが」
「マルゲリータ嬢にはキミから伝えたら良い。彼女ならば言わずとも気づくとは思ったが、まあ……」
リルルはため息をついた。
「またいなくなったら、エドはきっとこの家を出ていってしまうのに」
アビーとも会えなくなる。リルルは深く息を吐いてマルゲリータのいるエドワードの邸に足を向ける。
庭の木の影から、ヨシュアとリルルの会話誰かが聞いていたなど知る由もなく、気重な気分で地面を蹴っていく。
マルゲリータも見つかり、アビーも見つかり、何ため息をついているんだって?
聞いてくれるだろうか。
アビーはしばらく、リハビリのためにカトリーヌ様の邸宅で暮らしているが、1日に何回か顔を見える機会を設けてくれている。
そこに不満はない。不満どころかありがたい限りだ。
カトリーヌ様のそういう隙がなく、そつなくフォローするあたりはやはり見事と言った風情だ。
独特の雰囲気だったり、威圧感のような空気を纏っているのは、彼女の出自や境遇、これまで経験したものから醸し出されているのだろうが、この目に見えぬ空気をエドワードは苦手のようで、いまだに避け続けている。
マルゲリータの失踪の一件で以前よりは幾分かマシになったが、それでも、まだぎこちなさがある。
長年の距離を急に詰めることは不可能なようだが、そのうち歩み寄っていくのだろう。
人生は長いのだから。
そんなこと思っているお前はどうなんだって?
そう、それで頭を抱えているから、ため息が溢れた。
正直言って300年、子供と妻と離れ離れになっていた。夫婦でいた期間より、離れて暮らしていた期間の方が長い。
たかだか20年経つか経たないかくらいの期間で、しかもこんな近い環境で拗らせている奴より、俺の方がよっぽど深刻ですわ。
会話をどうすりゃいいのか、精霊国に戻ろうにも、あれは王族しか扉を開けない仕組みになっているし、少なくとも、俺は無理だし、じゃあクリスタはどうか、ってなるけれど、あの子もあの子で忙しいから、マルゲリータの失踪とか王冠の件がひと段落したら、飛ぶように帰って行った。
親子の会話は? いや、ほら、出会いは最悪だったから、ひと段落してから、離れていた期間どうだったとか、聞こうとしたわけだが、そんな気持ちは俺だけのようだった。
クリスタには親子の会話をしようなんて気持ちが微塵も生まれず、サクッときてサクッと帰る、次の仕事があるんで、じゃあ、ってな感じで、帰って行った。
じゃあ、アビーと300年という長い時間を埋めようとしたのだが、アビーはずーーーーーーっと寝ていたから、いうなれば、俺は昨日も会ったじゃん、的な感じだ。
だから、俺なんかよりも、ダルマータ国の文化、服装、景色、風習そういう今まで触れてきたことがないものに興味があるらしくて、カトリーヌ様に沢山質問をしていてる。
カトリーヌ様はカトリーヌ様で成人した息子よりも何でも聞いてくれるアビーが新鮮なのか、時間を割いて教えてくれる。
アビーがすぐに吸収するのも楽しいのだろう。
つまり、俺は掃除に熱を入れるしか今のところなく、掃除のスキルが上達していく。
これがため息をついた理由だ。
「暇だなあ」
ふと、リルルがそう呟いた。
「忙しい方が好きなの?」
背後から声をかけられ、振り返るとニコニコと笑ったヨシュアがそこにいた。
「いえ、その、あまりにも落差がありましたので」
「まあ、そうだよね。それは僕も同感だ。ひと息ついたのだから、妻と旅行と思っていたが、妻はゲストに夢中のようで、僕も君と同じく手持ち無沙汰なのだよ」
「すみません」
「いやいや、イキイキとしている姿を見れるのはこちらとしても嬉しい。とはいえ、先送りにしていた件を片付ける時が来たようで、君にも手伝ってもらえるかな?」
リルルはひと時考えてから「私はエドワード様の配下ですが?」とヨシュアに返答する。
「だからだよ。君もエドワードもマルゲリータ嬢が戻って安心、全て丸く収まった、とか思っているだろうが、エドはヴィヴィアン嬢と婚約をしているのだから、未婚の女性を邸宅に何日も置いておくのはマルゲリータ嬢にもヴィヴィアン嬢にも悪いだろう。もちろんエドワードにとっても良くないことだ」
「ヴィヴィアン様との婚約は破棄されるのではないのですか?」
ヨシュアは首を横に振った。
「なぜだい? 公爵家の第二子は爵位を継がないから、誰と結婚しても構わない、そう思っているのかい?」
「いえ、その」
「爵位に関係なければ誰と婚姻しても構わない、とするならば、最初から、シトリン家と婚約などさせないよ。得るものがあるから、契約をするんだよ」
先程までの平和そのものと言った空気が、変わり、張り詰めていく。
「私に頼みたいこと、とは、マルゲリータ様のことですか?」
「察しが良いね」
この展開でそれ以外の選択肢があると?
「市井に置いたら彼女は暮らしていけませんよ」
「じゃあ、いつまでもここにいる事は良い事なのかな?」
「それは、ですが、あと少しくらい」
「あと少し、あと少しとなって、それが、世間に知れたらどうなる?」
「……」
リルルは何も返答しなかった。無言の同意と捉え、ヨシュアは続ける。
「だから、女性に見えるキミに依頼しているのだろう」
「ですが」
「マルゲリータ嬢にはキミから伝えたら良い。彼女ならば言わずとも気づくとは思ったが、まあ……」
リルルはため息をついた。
「またいなくなったら、エドはきっとこの家を出ていってしまうのに」
アビーとも会えなくなる。リルルは深く息を吐いてマルゲリータのいるエドワードの邸に足を向ける。
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