【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

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ダルマータ国

60. 夫婦の会話

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 ヨシュアがリルルと会話をしたあと、暫く庭を歩いていると雲行きが悪くなり、空からポツリポツリと雨が降ってきて、頬に当たった。

「雨か」

 エドが聞いていた事は知っていた。
「今日で別れとなるのかもな」

 好きな女と一緒になりたいのならば、エド自身がこのパールの家を捨てない限り、それは叶わない。
 この家にいるならば駒としての責務を担ってもらう。当然、結婚も混みの話だ。だが、それができないならば、何にも縛られず、空を羽ばたけば良い。
 だが、おそらくエドは………ーーー。

 そんなことを考えていると、雨粒がたくさん地面にシミを残し始めたので、ヨシュアは小走りで庭園をかけていく。

 本格的に雨が降るより前に、邸に戻ると妻のカトリーヌが眉を寄せてヨシュアに近づいてきたかと思うと、堰を切ったように捲し立ててきた。
「どうして? あんなことを言ったのですか!」
「何のことだい?」
「エドが聞いてるのを知っていて、まるでこの家から離れさせるようなことを言うなんて!」

 アビーに読まれていたのか。なるほど。あの時は確かに晴れていた。彼女はどれくらい離れた距離から読めるのだろうか。
 全く。ましてや聞かれたくない人に聞かれてしまった。
「どちらか一つしかえらべないのだから、決めるべきだと思わないかい?」
「でも」
「あの子はもう大人だよ。パール家とは関係ない事業も手掛けているし、二人でも生きていけるはずだ。この家を捨てる覚悟もないのに、マルゲリータ嬢を手放す勇気もない、そのような半端者では、この先どうするのだい?」
 カトリーヌは少し躊躇したのか、視線を逸らした。

「それでも、まだ、早すぎです。だって……」

 カトリーヌは結い上げられたうなじを震わせながら、深く息を吐いた。
「縛り付けるのかまず愛情ではないんだよ。飛び立たせるのも愛だ」

 かつてヨシュア自身が方々を旅していたように、家に囚われることなく、自由に羽ばたけていたように、エド自身に決めさせるべきなのだ。

 だが、おそらく、エドは決めきれないこともヨシュアは知っていた。
 あの子はマルゲリータ嬢に恋焦がれている。だが、その一方でいつも行動が遅い。
 皇太子との婚約もそうだ。指を咥えるより前に出来たことは沢山あった。アルフィアス皇子よりも多くの回数でマルゲリータ嬢に会っていたのに、何にも行動をしなかったし、ヴィヴィアン嬢と婚約した時も、もっと拒否をすれば良いものを、抗議だけだった。

 あの子は結局のところ、この家を捨てる勇気がないのかもしれない。
 だから、これは私もカケなのだ。

 そしてアビー姫も恐らくは、エドが決めきれないことに気づいている。そうでなければ、カトリーヌにいう意味などないからだ。
 アビー姫は、エドがこの家を選ぶ可能性が高いと考え、夫のリルルがマルゲリータ嬢とこの家を離れることを危惧しているのだろう。

「私は部屋に戻ります」

 またこうなってしまった。なんでうちの妻はこうも頑なというか、ああ、喧嘩なんかしたくないのにどうしたら良いのだ。
 あの可愛い少女がこうも変わってしまうとは年月って恐ろしい魔物だな。

 どの選択を選んでもきっとこうなっていたはずなのだから、いいではないか。
 マルゲリータ嬢を助けたのは母の実家というのと、何よりも皇子の命令があったからだが、今はそんな義理もないのだが、あの娘が王によってまだ、子を成していないジェット家の養子に収まり、皇子妃に収まったりしたら、それこそ問題だ。

 妻の後ろ姿だけを見ていて、そんな言葉を思っては心の中にしまって、ヨシュアは濡れた髪をかきあげた。

 大丈夫。エドはおそらく残るはずーー。


 ヨシュアが邸宅に戻る2時間ほど前、ヨシュアの想像通り、アビーはカトリーヌに話すこととなった。

 アビーはカトリーヌより自室となる一室を分け与えられ、その部屋の中でうろうろと部屋の中を動き回っていた。

 たまたま部屋の扉を開けたらヨシュアと話すリルルを見つけたので、声をかけようとしたら、読心術が発動し、会話が流れてきた。

 アビーは自分の目で捉えた者の心を読むことを得意としており、これは王家に伝わる能力なのだが、体調が悪かったり、アレキサンドライトが近くにないとコントロールが難しい。

 やばい……。声が漏れ出てくる。

 アビーの意思とは裏腹に、ヨシュアとリルルの心が漏れ出てきて、咄嗟に窓から離れたのだが、マルゲリータを離すためにリルルと離される旨の話の内情は、エドがマルゲリータとパール家を離れてもパールがマルゲリータを抱えており、エドが残ってもリルルはエドの従者なので、パールの庇護の元マルゲリータが暮らすと言う寸法だ。

 ヨシュアへの読心術をしたアビーは急いでリルルにコンタクトをとるために、カトリーヌとヨシュアの邸宅から出て、エドワードの邸宅に行こうと思った。
 杖がないとまだうまく歩けないため、アビーは杖をついていたのだが、杖が階段のヘリをうまく捉えることができず、バランスを崩し、階段から転げ落ちた。
 そのすごい音に侍女もカトリーヌも駆けつけ、階段の下で伸びているアビーを抱き抱え、ベッドへと移動した。
 階段を降りるにはまだアビーには早かったし、なぜ階段を降りようとしたのだ、とカトリーヌに問われたとき、アビーは咄嗟に嘘を思いつかず、当然理由を話す事態となったのだった。

 カトリーヌの表情は読めなかった。けれど怒っているであろうことは容易に想像ができたので、アビーは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 ヨシュア様の言うことは当たり前のことだわ。評判を落とすようなことを態々見過ごすことはないもの。
「あの、これまでよくしていただき、それだけでもありがたいお話ですもの。これ以上は申し訳ないないですし、リルが出るなら、私もこの家を出ます。そもそも、国に帰るべきなのですから」

 そうは言ったものの、アビーは階段から落ちたことで、骨折はしていないが、打撲がそこかしこにあることから、当分は外に出れないだろう。

「今は治療に専念なさる方がよろしくてよ。それに、私がそんなことで邪険にするような心の狭い者だと?」
「いいえ。そのようなことは」
「それならば、先程の話は無効で良いですね?」
「は、はい」

 カトリーヌはニコリと笑って「リルルを呼びましょう」と、言った。
 
 カトリーヌにより、呼び出されたリルルはベッドで横たわる妻の打撲だらけの姿を見て、不甲斐なさで深く息を吐いた。

「私、木登りも得意だったから、ちょっとくらいなら平気だと思っていたのだけれど……」
「平気じゃないから、ここで療養しているんだろう」
「そうね」

 変な自信があった。けれど、それは現実の前で打ち砕かれた。

「大丈夫か?」
「骨は折れてないから。それに精霊は人より早く治りやすいし、大丈夫よ」
 そう言ってニコリと笑ったが、頬にもあざが出来ていた。
「私、ヨシュア様とリルの会話を聞いてしまって、それで慌ててリルと話しに行こうとしたら階段から落ちてしまったの」
「無事でよかった」

 リルルは安堵のため息をついて、アビーの手を握る。その熱がゆっくりとアビーに伝わってくる。
「ごめんなさい」
「うん」

 生きている。
 アビーにとってはあの小屋での別れ以来だけれど、リルルにとっては300年生きているか死んでいるかわからなかったのだから、こうも心配するのは無理もない。

 そして、リルルの手から流れ出てくる感情と心を読み解いてアビーはまた一粒の涙を落とした。
「ごめんね」
 アビーはそう心の中で呟いた。

 
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