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友達へ
しおりを挟む次の日、俺は大学で講義を受けていた。昨日のことはもう忘れようと思いながら必死にノートをとる。しかし、どうしても気になってしまい、気がつくと長谷川さんのことばかり考えていた。
友人「誠二お前いつにも増してヤバい顔してんなw」
安藤「うるせえほっとけ!」
友人の指摘通り、この時の俺の顔はかなりキモかったと思う。だが仕方がないだろう。それほどまでに一目惚れだったのだから……
家に帰ってからもずっと悶々とした気持ちが続いていた。どうにかしてもう一度会えないだろうか?日雇いバイトなんて一期一会だし、もう二度と会うことはないかもしれない。そんなうまい話ないか……と思いながら部屋の整理をしていると、見慣れない講義ノートが出てきた。そこには日付とともにびっしりとメモが書き込まれている。数学系の授業だろうけどこんなのは受けた覚えないな……これは俺の大学の講義でやった内容じゃないな。しかも筆跡もなんか荒っぽくて汚いし……一体誰のなんだ……?
俺は首を傾げながらページをめくる。すると最後の方に気になる文章を見つけた。
『来週は〇〇教授が出張なので講義休み!代わりに△△教授が担当!』
これ、大学を特定できる情報じゃね!?そう思ってネットで検索してみると、その大学のホームページが見つかった。よくわからない大学みたいだな。これもしやノートの持ち主ってここの学生だったりするのかな?
なんとなくだが、この前のバイトの途中で長谷川さんは大学の課題か何かをやっていたような気がする。もしかしたらここに行けば会えるかも……!それにしても長谷川さんって字汚いんだなwww。あんなふわふわしてる雰囲気なのに意外だ。ギャップ萌えってやつでいい。
俺は謎の満足感に包まれながら眠りについた。翌日、早速例の大学に向かうことにした。この大学は単科大学らしく、ちっちゃめなキャンパスのみで構成してあるようだ。実はノートのメモから長谷川さんが出席している授業はわかってたので確実にノートが渡せるように、あらかじめ待ち伏せすることにしたのだ。流石にこれ以上はストーカーだし、ノートを渡して何もなければそれでいいやと思っていたのだが……
長谷川「あれ?安藤くんじゃん!」
なんと向こうから話しかけてくれたのである。俺は嬉しさのあまり舞い上がってしまった。
安藤「お、お久しぶりです!!」
長谷川「どうしたのこんなところで?」
安藤「いや、ちょ、ちょっと……」
やばいめっちゃ緊張してる。心臓バクバクいってるし汗止まんないし……
安藤「長谷川さん!前のバイトのときの、ノート間違えて持って帰っちゃってたみたいで、届けに来たんだ」
長谷川「えっ?ほんと!?ありがとう~!助かったよ~!」
長谷川さんは顔を赤くしてノートをスッと受け取った。ノートを奪うように取ったところを見ると相当恥ずかしかったんだろうな……かわいいかよ……長谷川さんはそのままそそくさと帰ろうとしたが、俺はすかさず呼び止めた。
安藤「待って!」
長谷川「なに?」
安藤「よかったら一緒にお昼食べない……?」
長谷川「え……」
長谷川さんはちょっと嫌そうな顔をする。もしかして嫌われてるのだろうか……?俺ってやっぱりキモいのかな……泣きそうになりながら振り向いてダッシュで逃げ出そうとしたその時、長谷川さんに背中を掴まれた握力の強さにびっくりして思わず振り返ってしまう。
長谷川「あ、ごめんね。少し考えちゃって!せっかくノート持ってきてくれたんだし一緒に食べようか!」
そう言って彼女はにっこり微笑んだ。天使のような笑顔だった。そのまま学食に向かった。他の大学の学食なんて初めて入ったけど、ここは男ばかりな大学なようでメニューも茶色いものが多かった。
俺たちはそれぞれ注文を済ませると席に着く。俺が頼んだのはカレーライスである。一方、長谷川さんはカツ丼を頼んでいた。ちゃっかり大盛にしていてすごい食欲だなと思った。食べている最中、俺は意を決して彼女に話しかけた。
安藤「なんか意外でした……ここって工業系の大学ですよね?長谷川さんみたいな可愛い子がいるイメージなかったから……」
長谷川「そう?でも私はこういう感じの方が落ち着くかな~」
そう言いながらカツをパクパクと美味しそうに頬張る彼女を見ていると、なんだか微笑ましくなってくる。俺も釣られてニヤついてしまった。
安藤「そういえば長谷川さんって普段どんなことしてるの?」
長谷川「うーん……家でゲームしたりとかかなあ……あとはカラオケ行ったり映画観たり……」
安藤「へぇ~そうなんだ!ちなみになんのゲームやってるの?」
長谷川「えっとね……最近はアイドル育成するやつとかよくやるよ!」
え、マジで!!美少女アイドルを育てるゲームと言えば俺もやってるぞ!まさか同じゲームをプレイしていたとは驚きだ。
安藤「俺もそれやってるよ!推しとかいるの?」
長谷川「いるよー!えっと~」
長谷川さんとの会話は思った以上に盛り上がった。こんなに楽しい時間が過ごせるのならもっと早く誘えばよかったなと思うくらい楽しかった。そしてあっという間に昼休みが終わり、長谷川さんは次のコマもあるということで解散しようとした。
安藤「あの、もしよければ連絡先交換しない……?」
長谷川「え……えっと……」
やっぱり長谷川さんは悲しい顔になってしまう。また何かまずいことを言ってしまったのだろうか……?
安藤「ごめん嫌だったらいいよ……!」
長谷川「ううん!違うの!そうじゃなくて……安藤くんのことは好きなんだけど、その、連絡先はあんまり教えたくないというか……」
安藤「なんで?」
長谷川「その、安藤くんを困らせちゃうかもしれないから……」
どういう意味だろう?別に困ってもいないのになぁ……まあそこまで言うなら無理にとは言わないけど、このタイミングを逃したら一生後悔するような気がしたので、俺は引き下がらずに食い下がることにした。
安藤「大丈夫だよ!困るなんて絶対ない!」
長谷川「……本当にいいの?」
安藤「もちろん!」
長谷川「わかった……じゃあこれ私のIDだから登録しといてくれる?」
そう言って長谷川さんはスマホを差し出してきた。俺はそれを受け取って自分の携帯に読み込ませる。すると彼女のSNSアカウントが出てきた。フォロー数0、フォロワー数は10人程度のほぼ初期状態のまま放置されている寂しいアカウントだった。しかもプロフィール画像すら設定されておらず、デフォルトのままで背景には青い空だけが写っていた。なぜこれを俺に見せてくれたのかはわからないがとりあえず連絡が取れるようにしておこうと思い、メッセージを送っておいた。
安藤「これからよろしくね!」
長谷川「うん、こちらこそよろしく!」
こうして俺たちは友達になったのだった。
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