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告白

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彼女の連絡はかなり遅い方だと思う。一日一回返信が来るか来ないか程度なので、もしかしたら既読スルーされてるんじゃないかという不安に駆られることもあるが、それでも彼女はあの状態のアカウントで俺と関わってくれているのだ。それだけで充分嬉しかった。それに彼女と仲良くなれたことは俺にとって大きな一歩であり、心の支えになっていた。大学の授業を受けながら、ふと彼女の顔を思い出すだけで活力が湧いてくる気がした。

2週間ほど経ったある日のこと、いつものように授業を受けたあとの昼休み、長谷川さんから突然メッセージが来たいつもはこちらのものに簡単に返信している感じなのに。

長谷川「あっ安藤くん!急にごめんね……!今日この後空いてたりする……?」

急なお誘いに心臓がバクバクいって破裂しそうになる。まさかデートの誘いだろうか?それとも……?いずれにしても期待せずにはいられない。

長谷川「よかったらうちに来てくれないかなと思って……」

どうやら後者だったようだ。しかしこれは嬉しい誤算である。好きな人の家に行けるなんて願ってもないチャンスだ。俺は二つ返事でOKした。

待ち合わせ場所は指定された駅前にした。待ち合わせ時間の5分前に到着したのだが、すでにそこには彼女が待っていた。待たせてしまったことを謝罪しようとしたが、それよりも先に彼女の方から話しかけられた。

長谷川「安藤くん~!こっちこっち~!」

安藤「ご、ごめん待った?」

長谷川「ううん!私もさっき着いたばかりだから!」

安藤「そっか……それなら良かった……」

今日は長谷川さんが一人暮らしをしているアパートに行くことになっている。駅から歩いて数分のところにあり、意外と近い場所だったことに驚いた。それにしても女の子の部屋に行くのは初めての経験なのでかなり緊張している。一体どんな部屋なんだろうか……?そんなことを想像しているとあっという間に着いてしまった。安そうな外観のアパートの一室に案内される。中は思ったより広くて綺麗だったが、テレビやゲーム機など必要最低限のものしか置いていないようだった。

長谷川「適当に座ってくつろいでてね~」

そう言われてソファーに座る。ふかふかしていて気持ちいい。そのまましばらく待っているとお茶を持ってきてくれた。それを一口飲むと、少し気分が落ち着いた気がする。

長谷川「今日は安藤くんに大事なお話

があって呼んだんだ」

安藤「なに?」

長谷川「えっとね……実は私、普通の女の子じゃ無いの……」

そう言うと彼女はおもむろに俺の手を取って自分の下腹部に押し当てた。その瞬間、俺の手には硬い棒のようなものが当たる感触が伝わってきた。まさかこれって……

長谷川「これ、私のおちんちんなんだ……」

……え?今なんと言ったのだろう?一瞬思考が停止する。確かに言われてみればそんな感じの形をしているような気もするが、いきなりこんなことを言われても頭が追いつかない。

長谷川「びっくりしたよね……でも本当なの」

安藤「ちょっ……ちょっと待って!ってことは君は男ってこと!?」

長谷川さんは首を振る。

長谷川「それも少し違うかな……私は生まれつき男の子の性器と女の子の性器の両方を持っていて、普段は隠して生活してるの」

つまりどういうことだろう……?いまいちピンと来なくて混乱してしまう。そんな俺を見かねて長谷川さんは説明を続ける。

長谷川「両性器形成異常症候群って聞いたことある?先天性または後天性の原因によって男性器と女性器の双方の機能を併せ持つ病気のことなんだけど、それが私なの……」

聞いたことはあった。確か数年前にニュースで取り上げられたことがある。性犯罪者の象徴だとか言われていて去勢しろとか子供を産めなくするべきだとか言って騒ぐ連中がいた記憶がある。その時は他人事だと思っていたのであまり興味はなかったのだが、まさか身近にいる人間のことだったとは思いもしなかった。というかそもそもどうして長谷川さんがこんな目に遭わないといけないのだろうか……?

安藤「その……治らないの?」

長谷川「おちんちんを取っちゃうことはできるけど、そうしたら5年以内に死んじゃうんだって。だからもう諦めてる」

安藤「……そうなんだ……」

なんだか居た堪れない気持ちになって思わず俯いてしまう。すると長谷川さんがそっと手を握ってくれた。そして優しく語りかけてくる。

長谷川「そんな顔しないで。でもショックだよね……いきなりこんなこと言われたら誰だって驚くもんね……」

安藤「いや、別にそういう訳じゃなくてさ……ただ何て言えばいいのか分からなくて……とにかく大丈夫だから気にしないで!」

長谷川「うん、ありがとう……!でも、よく考えてほしいの。安藤くんはこれから、おちんちんのついてないかわいい女の子と沢山出会うことになると思う。わざわざ私みたいな変な人と付き合う必要ないんだよ?」

そう言って彼女は寂しそうに笑った。そんな彼女を見て俺は胸が締め付けられるような気持ちになった。この気持ちは一体何なのだろう?自分でもよく分からないが、きっと彼女を守りたいと思ったんだと思う。気がつけば口が勝手に動いていた。

安藤「そんなことないよ!だって僕、君の事が好きなんだ!そりゃ女の子との経験はなかったから信用ないかもだけど、長谷川さんは今までの出会った誰よりも魅力的だと思ってるし、ずっと一緒にいたいと思ってる!だから俺と付き合ってください!!」

つい勢いで告白してしまった。言ってしまってから急に恥ずかしくなる。顔が熱い。多分真っ赤になっているだろう。長谷川さんも顔を真っ赤にして固まっている。経験がそこまである方じゃないっていうか、長谷川さんが初めてなんですけど!?どうしよう……引かれてないかな……?不安になりながらも彼女の返事を待っていると、やがて口を開いた。

長谷川「わ、私なんかが……いいの……?」

安藤「もちろんだよ……!」

長谷川「そ、そっかぁ……嬉しいなぁ……」

彼女は照れたように笑うと俺に抱きついてきた。柔らかい感触に包まれて幸せな気持ちになる。確かに男性器もついてるかもしれないけど、胸とかやっぱりこの柔らかさは本物だ。それにいい匂いもする。

長谷川「じゃあこれからは恋人としてよろしくね♪」

安藤「こちらこそよろしく」

こうして俺たちは恋人同士になった。長谷川さんはようやくライン交換に応じてくれて、連絡先を交換することができた。アイコンはゲーム?のキャラだろうか?かなりかっこいいデザインになっている。これでやっと長谷川さんもとい詩織ちゃんと繋がれたと思うと感動ものだ。

それからしばらく雑談して、一緒に夕食を食べてお開きとなった。家から出るとき詩織ちゃんは駅まで送ってくれると言ってついて来てくれた。道中、そっと手を繋いでくる。ドキドキしたけど凄く嬉しかった。こうして彼女との初デートは終わったのだった。
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