15年後の世界に飛ばされた無能聖女は、嫌われていたはずの公爵子息から溺愛される

魚谷

文字の大きさ
21 / 28

21 剣術大会参戦

しおりを挟む
 そんなある日、私たちのもとに殿下がお見舞いにいらっしゃった。
 私たちはヨハネの部屋で、出迎えた。

「無事で何より。おまけにあの男爵の一件以来、侯爵たちも大人しいし、ユリアさんの名前も民の中で今やカトレアの名前が霞むほど盛り上がってくれている。僕として、とてもありがたい限りだよ」
「ユリアはお前のために働いてる訳じゃない。勘違いするな」
「そんな怖い顔で睨まなくても分かってるさ」
「殿下。男爵の線からマルケス侯爵の悪事の証拠はでなかったんですか?」
「残念ながら。金の流れを追ったんだが、いくつもの架空の名義人を経由していてね。男爵も全ての責任は自分にあると言い張っているせいで、これ以上の追求は難しい。憎まれっ子世に憚るとは良く言ったものだ」

 殿下は溜息まじりに言うものの、すぐにいつものあっけらかんとした表情になる。

「ま、連中が大人しくしてくれているうちにこっちは力をつけられるから、悪いことばかりじゃない。侯爵の腰巾着どもも、状況の変化を察しはじめる。だから、ヨハネ――」
「断る」

 殿下と眼が合った。

「ユリアさん。どうかヨハネを説得してくれ」
「話が見えないんですが……」
「今度、剣術大会が開かれるんだけど、ヨハネが例年、出場してくれなくて困ってるんだ。お陰で侯爵所有の騎士団のアーヴァン・トレールが毎年、優勝をかっさらっていてね。苦々しく思っているところなんだよ」
「え。アーバンさんが?」
「知ってるの?」

 私はアーヴァンさんとの出会いを説明する。

「なるほどね。二人には因縁があるのか。だったら余計に白黒つけるべきじゃないか? どっちの剣が優れているのか……」
「興味ない」
「優勝者はどんな願いも望みのままなのに?」
「俺の望みは、陛下に叶えられるものじゃないからな」

 取り付く島がないというのはこのこと。
 殿下はそれからもあの手この手を使ってやる気にさせようとしたみたいだけど、結局、ヨハネが首を縦に振ることはなく、「また来るから」と殿下は帰って行った。

「ヨハネ、どうして出ないの?」
「戦うのは魔物だけで十分だ。ただ強い奴を決めるだけになんの意味がある? 下らない。そんなことのために剣の腕を磨いてるんじゃない」

 ヨハネの言い分は確かに分かる。
 色々と理由を付けたとしても、観客の見世物になるっていうことなんだから。
 大会と言っても怪我を負う可能性もあるし、今は傷は癒えたとはいえ、病み上がりである以上、避けるに越したことはないのかもしれない。



 私はアリシアさんたちに誘われて庭でお茶を飲んでいた。
 そして私の向かいには、ヨハネが座る。
 彼はお茶は飲まず、じっと私を見つめているのだ。

「……そんなに見られると、気になるんだけど」

 お茶の味もお菓子の味もなにも分からない。

「悪い」

 形ばかりで謝罪で、目は反らさない。
 そんな私たちのやりとりを見つめるアリシアさん、ジャスミンさんたちはニコニコしながら見守る。
 私が必死に訂正したにもかかわらず、依然として誤解は解けないまま。
 ついには食事時、シスターにまで「あなたがあんなに素敵な方に愛されること、神様に毎日お祈りして、感謝しているのよ」とにこやかに言われてしまった。
 あんな笑顔を前にしたら、「誤解なんです、シスター!」とも言えず、私は曖昧に笑い、肯定も否定もできなかった。

「お客様でございます」

 そこへメイドが声をかけてくる、

「殿下ですか?」
「いえ。アーヴァン様という方でございます」

 ヨハネの右眉がひくっと動く。

「追い返せ。会うつもりはない」
「かしこまりました」

 メイドはそそくさと去って行く。

「いいの?」
「会いたいのか?」

 ヨハネがかすかにムッとしていた。

「まさか。でも侯爵の騎士団の人なんでしょ。何か理由があって来たんだから、様子を探ったりする意味でも会ってもいいんじゃないかなって」
「必要ない」

 しかしすぐに「お客様、おやめください……!」というメイドさんの叫び声と、「いいから。すぐにすむよ」という呑気な声が聞こえてきた。

「――おや、二人でお茶とは優雅だ。俺も混ぜて欲しいな」

 アーヴィンさんが顔をだす。

「知ってるか。バターナイフでも人は殺せるんだ」

 ヨハネがバターナイフを逆手で握る。

「もちろん。人を殺すのに大事なのは何が何でもやりきる覚悟であって、道具じゃないからな」

 ……この二人は何をしてるんだろ。
 ぴりつく空気に私たちのほうが緊張してしまう。

「ま、すぐに済むよ。剣術大会に出ないお前には無関係だからさ」

 アーヴァンさんがにこやかに微笑み、まっすぐに私を見つめてくる。

「わ、私、ですか……?」

 アーヴィンさんは不意に右膝をつくと、うやうやしく頭を垂れた。

「な、何を……」
「聖女ユリア。大会で優勝したらどんな願いでも聞き届けてもらえるということは知っていますか? 俺が優勝したら、あなたを手に入れたいと陛下に願うつもりです」
「!? な、何を仰っているんですか! 私は物ではありませんっ!」
「ハハ。ですね。承知していますが、私はそのつもりですから。それをお伝えに参った次第です」
「――ふざけたことを」
「っ!?」

 ヨハネが重々しい声で言った。それをアーヴァンさんが愉快そうに見守る。

「そうはさせないっていうのはどういうこと。あんたは、あんなつまらない大会には興味も関心もないんだろ?」

 アーヴァンさんの目が挑発的な言葉を投げかける。
「ユリアに手出しなんてさせるか。どうせ弱い奴としか戦ったことがないんだろ。俺がその自信をへし折ってやるよ」
「女のために大会に出るのか? 相当、ホれてるんだな」
「ああ、この世界の誰よりも愛おしいからな」
「っ!!」

 こんな時にそんなこと言わないで!
 臆面もなく言い切るヨハネに、私は赤面してしまう。

「ま、略奪愛ってのも悪くない。ついでに、お前も倒せれば、侯爵様もきっと喜んでくださるだろうしな」
「お前を殺せば、侯爵はますます追い詰められるな」
「俺を殺せるのか?」
「今まで自分より格下の相手としかまともに戦ってきたことがないんだろ?」

 二人の間に激しく火花が散っているのが見えてくる。

「なら、本番を楽しみにしてる。聖女ユリア、どうかそれまでこの男の毒牙にかからないように気を付けてくれ」

 爽やかな笑みと共にアーヴァンさんは去って行く。

「ふざけやがって」

 ヨハネが吐き捨てた。

「本当に出場するの?」
「当然だろ。お前に手出しをさせるか」
「でも私が嫌だって言ってるんだから、たとえ大会で優勝したって……」

 その時、ヨハネが私の右手を優しく取って、抱き寄せる。

「ちょ……っ」

 迫力のあるヨハネの顔と今にもぶつかってしまいそうなくらい急接近したせいで、鼓動が当然のように高鳴った。
 とても正視できず、目を伏せてしまう。

「ユリア。あんな奴に俺が負けると思ってるのか?」
「……そ、そう言うことじゃなくて。私のせいで、ポリシーを歪めることになるのが申し訳ないって……」
「お前を守るためだったらどんな労苦も厭わない。ポリシーでもなんでも捨てられる」

 その言葉に、私たちを見守っていたアリシアさんたちが「キャー!!!」と黄色い声をあげるのが聞こえた。
 私はただ赤面してしまう。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

処理中です...