女嫌いの騎士は呪われた伯爵令嬢を手放さない

魚谷

文字の大きさ
19 / 38

19 騎士団への加入

 治癒魔術師が寮に到着したのは、シュヴァルツのことが一段落したあと。

 他の団員から睨まれ、かなり肩身が狭そうだった。

 魔術師は念の為とシュヴァルツの身体を魔法でスキャンしたが、間違いなく毒は完璧に浄化されているということだった。

「この寮には治癒魔法を使える魔術師がいたのですか?」

 困惑する魔術師が問いかけると、シュヴァルツとカーティスは一斉に、アリッサを見た。

「あなたが?」
「……そうみたいです」

 正直、自分に魔術師としての素養があったなんてことははじめて知ったから困惑するばかりだ。

「見せていただくことは可能ですか?」
「見せるというのはどうしたら……」

 魔術師はナイフを取り出したかと思うと、迷うことなく自分の手の平を傷つけ、それをアリッサに差
し出す。

 アリッサはあっさり自分の体を傷つける行動に戸惑いつつ、手を突き出す。そして治癒するよう念じ
る。

 シュヴァルツの時と同じように蜂蜜色の輝きが放たれればみるみる傷が癒え、何もなかったように塞がった。

「正真正銘の治癒魔法、だろ」

 シュヴァルツが言うと、男は頷く。

「……そのようだ」

 魔術師は頭を下げ、寮を出て行く。

「いやあ、すごいよな。傷が一瞬で消えるなんて」

 カーティスがしみじみと呟く。

「そうですね……」

 正直、自分でやっておきながら驚いてしまう。

「アリッサちゃん、これまで魔法は使えなかったのに、とつぜん治癒魔法を? ……もしかして愛の力か?」
「か、カーティスさん!?」

 妙に真面目ぶった顔をして恥ずかしいことを言い出すカーティスに、びっくりしたアリッサの声は上擦ってしまう。

「でもそうとしか考えられないだろ」
「あ、愛だなんて……!」

 慌てふためくアリッサを、カーティスがニヤニヤして見つめる。
 シュヴァルツと言えば、心底呆れているようだ。

「下らないことを言うな」

 シュヴァルツはバッサリと否定する。
 その時、団員が踵を鳴らして「失礼いたします」と部屋に入ってくる。

「アリッサさん、団長室までいらっしゃってください」
「わかりました。それじゃあ、シュヴァルツ様、私はこれでって……?」
「なんだ」
「どうしてシュヴァルツ様とカーティス様も立ち上がって?」
「一緒に行くに決まってるだろう」
「俺はどんな話になるか興味があって」
「わ、分かりました」

 アリッサは結局、シュヴァルツたちと一緒に団長室を訪ねた。

「お、嬢ちゃん、よく来た……って、おいおい、お前ぇらは呼んでねえぞ」

 団長はシュヴァルツとカーティスを前にしてぼやく。

「アリッサについては俺にも知る権利はあります。彼女に関しての全責任を負う立場にあるので」

 シュヴァルツは臆面も無く告げる。

「俺は、シュヴァルツのダチとして」
「分かった。好きにしろ。ただ口を挟むなよ」

 団長の目が、アリッサへ向く。

「嬢ちゃんに来てもらったのは他でもない。君を団員の一人として迎えたい」
「私を!?」
「そうだ。前にも言ったが、治癒魔法が使える魔術師は稀少だ。是非うちにも一人欲しかったところだ」
「団長。アリッサは一般人です」
「俺は、口を挟むなって言ったぞ」

 団長がじっと見つめると、シュヴァルツは気圧されたように怯んだ。

 ――あのシュヴァルツ様を怯ませるとか、団長様って凄い……。

 アリッサからすると、団長はノリのいいおじさんという印象なのに。
 さすがに騎士団の猛者たちをまとめ上げるだけのことはあるということか。

「別に嬢ちゃんに戦えだなんて無茶は言わない。怪我人の治療をしてもらいたいんだが、どうだい?」

 答えは決まっている。

「喜んでお手伝いさせていただきます!
「お、即決か。いいねえ。気に入った。臨時とはいえ、うちの団員だ。給金も出すからな。話は以上だ」
「失礼いたします」

 そして団長室を出るなり、シュヴァルツが立ちはだかった。

「どうして受けた」

 いつも以上に、ピリピリした雰囲気のシュヴァルツに見つめられる。

 ――シュヴァルツ様、怒ってる……?

 アリッサからしたらよかれと思って引き受けたというのに。

「私の力がお役に立てるならと……」
「後方要員でも魔獣退治に派遣される以上は、いつ危険に巻き込まれないとも分からないんだぞ。分かっているのか」
「でも私に貴重な力が芽生えた以上は、それを活かすべきだと思ったんです。治癒魔法が使えれば、団員さんたちを助けることだってできますっ」

 シュヴァルツと一緒の時間をより過ごせるかもしれないという考えがあったことは否定はしない。

 今のアリッサはどこにも寄る辺がない。国には戻れず、家族の誰も頼れない。

 大切なものと言われ、思い浮かぶのはシュヴァルツをはじめとしたこの騎士団の人たち。 これまでのアリッサはシュヴァルツに助けられた、お客様だった。

 でもここの団員になれば、本当の意味でここが居場所になる。

「アリッサ――」
「そこまでだ、シュヴァルツ」
「カーティス。邪魔を……」
「してねえだろ。お前は実際、アリッサちゃんに助けてもらった。お前の言葉には説得力がないんだよ。俺からしたら、団員を庇って毒を浴びることのほうがよっぽど命知らずで危険だ」

 シュヴァルツは言葉に詰まった。

「シュヴァルツ様。決して危険な真似はしませんし、ちゃんと指示に従います」
「……団長が判断したことである以上、俺には何も言えない」

 シュヴァルツはマントを翻し、廊下を歩いて行った。
 アリッサはその背中を見送り、息を吐き出す。

「カーティス様。私、シュヴァルツ様を怒らせるつもりなんてなかったんです。少しでもシュヴァルツ様たちのお役に立てればと思って……」
「大丈夫。あいつは怒ってないよ」
「そうですか?」

 どこからどう見ても怒っているようにしか見えなかったが。

「あれは怒ってるんじゃなくて、心配してるんだよ、あいつは不器用なんだよ、ガキの頃から。だから気にしなくていい」
「……そうなんですね」

 カーティスとシュヴァルツの間にある信頼関係に、少し嫉妬してしまう。
感想 4

あなたにおすすめの小説

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

巻き込まれて死亡?!神様、責任とってくださいね?

紅子
恋愛
新作のゲームの為に創った魔法陣に魅入られた神様の眷族のせいで、死んじゃった私。別の世界で残りの生を消化しないと、永遠を流離うって、酷くありませんか?剣と魔法の世界で生き残るなんて出来る気がしません。私、一見、平和そのものなあの世界の住人ですよ?原因を作った眷族をつけてくれる?それなら、なんとか・・・・?はぁ、永遠を流離うくらいなら、眷族と一緒になんとか生き残れるように頑張ります! 毎日00:00に更新します。 完結済み R15は、念のため。 自己満足の世界につき、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。