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31 妹の破滅
群衆がざわめく。
「賊だ! 捕まえよ!」
ヨアヒムの叫びに、兵士たちが処刑台に向かって集まってくる。
シュヴァルツは兵士たちの足を氷漬けにすると、指笛を鳴らす。
兵士たちを蹴散らし、馬にまたがったカーティスたちが広場へ現れた。
彼らは魔法を使い、邪魔をする兵士たちを退けていく。
「シュヴァルツ! アリッサちゃんは!?」
「無事だ!」
「……シュヴァルツ様」
アリッサは感動で胸がいっぱいになり、シュヴァルツに抱きつく。シュヴァルツはひしっとアリッサを抱きしめてくれる。
「何をしている! 賊を射殺しなさいよ! 弓兵!」
ルリアの激昂する声に合わせ、露台に控えていた弓兵が矢を射かけてくるが、シュヴァルツが手を伸ばすや、一陣の冷たい冷気が広場を包む。
矢は次々と凍り付き、地面へ落下する。さらにシュヴァルツを包み込む魔力が高まったかと思えば、その周囲に氷の塊が生み出され、弓兵めがけ飛んだ。
弓兵たちが逃げるまもなく、氷の塊を食らい、次々と倒れていく。
――すごい……。これが冷血の騎士と言われたシュヴァルツ様のお手並み、なのね。
「平気か?」
「大丈夫です」
シュヴァルツはアリッサの額に口づけると、「王国の民よ、聞け!」と他を圧倒するような大音声で叫ぶ。
恐慌に陥っていた民がその声で、たちまち静まる。
「お前達はこの国を支配する悪魔を退治したいのだろう! 俺は本当の悪魔がどこにいるか、それが誰なのかを知っている!」
シュヴァルツはまっすぐ、桟敷席のルリアを指さす。
「あの女こそ、人の皮をかぶった悪魔に他ならない!」
群衆にみるみるざわめきが広がっていく。
ルリアが顔を真っ赤にして、立ち上がった。
「ぶ、無礼者! あんたたちこそ、悪魔よ! 大勢の人々の前に悪魔の力を使うなんて!」
「証人がいる!」
シュヴァルツの合図で、団員たちに連れてこられたのは、ジェリドだった。
「……い、生きていたんですね」
「あなたのおかげです、アリッサさん」
すれ違いざま、ジェリドはそう呟く。
「ここにいるアリッサが、王と婚姻を結ぶ席で、悪魔の印が現れたと思っているのだろう! それは違う! あの呪いをかけたのは、このジェリドという男! そしてこの男を雇い、ここにいる王の婚約者であったアリッサに呪いをかけるよう命じたのが、王妃だ!」
ヨアヒムはその事実を知らなかったのか、はっとした顔でルリアを見つめる。
ルリアは自分に疑念の視線が集まっていることを理解したのか、「ありえない! ありえないわ! 悪魔の遣いである魔術師の言うことなど、ここにいる賢明な民は信じないわ!」とまだ余裕の笑みを浮かべて反論する。
「ならば、証拠を見せる!」
シュヴァルツに促され、ジェリドは紙を取り出す。
「これは、アリッサを罠にかける契約を結んだ書状。この書状が証拠!」
「ハッ! 何をわけのわからないことを! そんなものの何が証拠よ! そんなのただの紙じゃない! 偽造なんていくらでも……」
「ただの紙であれば……私は魔術師だ。抜かりはない」
ジェリドの身体から魔力が溢れれば、契約書が輝きを放つ。次の瞬間あらわれたのは、フードを目深にかぶったルリア。
今よりもいくらか幼い。
『――では式場で、色欲の呪紋を発動させればいい、とのことですね』
ジェリドの声。
『その通りよ』
『みかえりは?』
『あんたが、この国で高い地位につけるようにしてあげる。心配しなくても平気。あの女が婚約者の座から消えれば、次は私。ヨアヒムはぼんくらだもん。私の手にかかれば、言うことをきかせることなんて簡単。それよりちゃんとしてよね。失敗したら……分かってるでしょ』
『もちろん』
二人のやりとりが消える。
「違う、違う違う違うぅぅぅぅぅ! アリッサが、悪魔のつがったのよ! 陛下、違います! これは魔術師どもの策略! これは私をはめようとしてるんです!」
「……いいえ、全てはルリアの策略。私はその犠牲者」
「黙りなさいよ、悪魔とつがった分際で!」
「天は誰が正しいか、しっかり分かってるのよ」
アリッサは胸元をくつろげる。確かに刻印があったはずの場所には、何もなかった。
ヨアヒムは、ルリアを唖然とした顔で見つめる。
「どうなっている……お前が悪魔とつがったのか? 悪魔の手先として、ルリアをはめたというのか!?」
民の間からも「やはり、あの女が悪魔の遣いだったんだ!」「悪魔が囁き、湯水のように金を使いまくったんだ!」「あの女が王妃になってから税が上がったのも……」とどよめきは、怒りへ変化していく。やがて、民の一部が桟敷席へ向かっていく。
怒れる群衆を兵士たちは抑え込もうとするが、数の差は明らかだ。
ルリアは桟敷席のそばで待機している兵士たちに声を荒げる。
「何をしている! あいつらを殺しなさい! あの群衆こそ、悪魔に操られているのよ! 私を守るのが、あんたたちの仕事でしょうが!」
兵士たちは明らかに困惑している。
「王妃の命令に従えないと言うの!? 逆らうなら、あんたたちの首を落としてやる!」
兵士の一部が、群衆に向かっていく。
「民を守れ!」
シュヴァルツたちが、兵士の槍で刺されていく民たちの間に割って入る。
兵士と民が乱戦状態になっているせいで、シュヴァルツたちは魔法が使えないものの、日頃から鍛えた剣の腕で兵士たちの攻撃を防ぎ、逆に押し返す。
「ヨアヒム、分かったでしょう! 誰が本当の悪魔の遣いか! この期に及んでもまだ、恐怖に支配されたままなの!?」
アリッサは、ヨアヒムに向かって叫ぶ。
「黙れえええええええ!」
ルリアは護衛についていた兵士の腰から剣を奪ったかと思うと桟敷席から飛び降り、アリッサに向かってくる。
「アリッサ、これを使え!」
シュヴァルツが兵士から奪った剣を投げてくれる。アリッサはその剣を受け止め、鞘を払うと、処刑台から飛び降りる。
「死ねえええええええええええええええ!」
おぞましい形相をしたルリアが剣を構えて襲いかかる。
しかし所詮、弱い人間しか相手にしてこなかった義妹の剣など、騎士団で鍛えられているアリッサの敵ではない。
あっさりとルリアの握っていた剣を弾く。
「ひいいいい!」
ルリアはその場に尻もちをつき、悲鳴を上げる。
――あぁ、立ち向かう勇気が私には必要だったんだわ。
「こ、殺さないで……」
「殺すわけないでしょ。あなたは殺す価値もない、それからこれは返してもらうっ」
アリッサは、彼女の首をかざる双星石の紐を乱暴にちぎって、奪い返す。
「へ、陛下、お助けをぉぉぉぉ!」
「やめよ!」
「あぁ、陛下! すぐにこの女を殺して……」
笑みを浮かべたルリアだったが、ヨアヒムの言葉で、その表情が再び曇ることになる。
「兵士たち、民を傷つけるのはやめよ! 怒りで我を忘れるな! 王妃こそ、悪魔の遣い……我が国を混乱に陥れた元凶……!」
「はあああ!? 何言ってんのよ! 私は王妃よ!? あんたの妻よ! この女を殺しなさいよ!」
外面の良さだけでここまで成り上がったルリアの真の表情を見て、民も兵士も一様にざわつく。
「王妃……いや、あの悪魔を牢へ! それから、すぐに医者を! 傷ついた民を治療せよ!」
「……その必要はないわ! 私が治療するわ!」
剣を捨てたアリッサは、兵士に傷つけられ、鮮血の中に倒れて悶える民の前へしずしずと歩みを進めた。
民に手を向ければ、アリッサの体から黄金色のきらめきが放たれる。
その光が、血みどろになって傷ついた民や兵を包み込んでく。
痛みを訴えていた人々が自分の体を探る。そこにあったはずの傷が、流れ出していた血が綺麗になくなったことに、誰もがぽかんとした顔をしている。
広場を照らし出す魔力のきらめきがゆっくりと収束していく。
誰からともなく、治療をしていた人々がひざまずきはじめる。
「あれは、神の使者では……?」
「悪魔ではない、神の使者だ!」
「我々は、悪魔の遣いに操られ、神の使者を悪魔だと思い込まされていた……」
――本当に勝手で、どうしようもない人たち。
この手の平返しの姿にはさすがのアリッサも、嘆息せずにはいられない。
どう転んでも、魔法というものの素晴らしさを素直に受け入れられないのは、長年それだけ擦り込まれ続けた結果なのだろうか。
――でもこれを利用しない手はないわよね。
アリッサは仰々しい動きをする。
「そうです。私の力は人を癒やす力。それは神から受け取った清らかなる力です。魔法というものは、元来、そういうものなのです。でも長らく、悪魔の遣いの暗躍によって歪んで受け取られきたのです。ヨアヒム!」
「は、はい!」
ヨアヒムはいつに間にか桟敷席から地面へと降り立ち、跪いていた。
この男から受けた仕打ちを考えると、このまま足蹴にしてしまいたくなる。
実際、アリッサは拳を硬く握りながら、精一杯の自制心でこらえていた。
短慮を起こしてはいけない。ここは復讐よりもずっと大事な、しなければいけないことがあるのだから。
「悪魔の遣いルリアがいなくなった今、魔法への認識を改めるいい機会になると思うのだけど」
「神の使いが仰せになるのであれば、すみやかに魔術師たちを保護するよう、触れをだします。民を、兵士たち、この国をお救いくださり、ありがとうございます……」
そこへルリアの濁声が響きわたる。
「ふざけんなよ! そいつは悪魔よ! 悪魔なのよ! 私こそが、神の使いなのよぉ!」
「その悪魔をすぐに連れていけ!」
ヨアヒムが穢らわしいものを追い払うように命じる。
「この悪魔めえええええええええええ!」
髪を振り乱すルリアは兵士たちに連行されて消えていく。
ほっと胸を撫で下ろす。
「御使い様……私の心はあの悪魔により、かき曇っておりました……あなたこそ、この国の王妃……どうか、我が妻に――」
「お断り。あなたとの縁はとうの昔に切れてるわ!」
シュヴァルツが、寄り添ってくれる。
アリッサは、その手を取り、ヨアヒムへ背を向けて歩き出した。
「賊だ! 捕まえよ!」
ヨアヒムの叫びに、兵士たちが処刑台に向かって集まってくる。
シュヴァルツは兵士たちの足を氷漬けにすると、指笛を鳴らす。
兵士たちを蹴散らし、馬にまたがったカーティスたちが広場へ現れた。
彼らは魔法を使い、邪魔をする兵士たちを退けていく。
「シュヴァルツ! アリッサちゃんは!?」
「無事だ!」
「……シュヴァルツ様」
アリッサは感動で胸がいっぱいになり、シュヴァルツに抱きつく。シュヴァルツはひしっとアリッサを抱きしめてくれる。
「何をしている! 賊を射殺しなさいよ! 弓兵!」
ルリアの激昂する声に合わせ、露台に控えていた弓兵が矢を射かけてくるが、シュヴァルツが手を伸ばすや、一陣の冷たい冷気が広場を包む。
矢は次々と凍り付き、地面へ落下する。さらにシュヴァルツを包み込む魔力が高まったかと思えば、その周囲に氷の塊が生み出され、弓兵めがけ飛んだ。
弓兵たちが逃げるまもなく、氷の塊を食らい、次々と倒れていく。
――すごい……。これが冷血の騎士と言われたシュヴァルツ様のお手並み、なのね。
「平気か?」
「大丈夫です」
シュヴァルツはアリッサの額に口づけると、「王国の民よ、聞け!」と他を圧倒するような大音声で叫ぶ。
恐慌に陥っていた民がその声で、たちまち静まる。
「お前達はこの国を支配する悪魔を退治したいのだろう! 俺は本当の悪魔がどこにいるか、それが誰なのかを知っている!」
シュヴァルツはまっすぐ、桟敷席のルリアを指さす。
「あの女こそ、人の皮をかぶった悪魔に他ならない!」
群衆にみるみるざわめきが広がっていく。
ルリアが顔を真っ赤にして、立ち上がった。
「ぶ、無礼者! あんたたちこそ、悪魔よ! 大勢の人々の前に悪魔の力を使うなんて!」
「証人がいる!」
シュヴァルツの合図で、団員たちに連れてこられたのは、ジェリドだった。
「……い、生きていたんですね」
「あなたのおかげです、アリッサさん」
すれ違いざま、ジェリドはそう呟く。
「ここにいるアリッサが、王と婚姻を結ぶ席で、悪魔の印が現れたと思っているのだろう! それは違う! あの呪いをかけたのは、このジェリドという男! そしてこの男を雇い、ここにいる王の婚約者であったアリッサに呪いをかけるよう命じたのが、王妃だ!」
ヨアヒムはその事実を知らなかったのか、はっとした顔でルリアを見つめる。
ルリアは自分に疑念の視線が集まっていることを理解したのか、「ありえない! ありえないわ! 悪魔の遣いである魔術師の言うことなど、ここにいる賢明な民は信じないわ!」とまだ余裕の笑みを浮かべて反論する。
「ならば、証拠を見せる!」
シュヴァルツに促され、ジェリドは紙を取り出す。
「これは、アリッサを罠にかける契約を結んだ書状。この書状が証拠!」
「ハッ! 何をわけのわからないことを! そんなものの何が証拠よ! そんなのただの紙じゃない! 偽造なんていくらでも……」
「ただの紙であれば……私は魔術師だ。抜かりはない」
ジェリドの身体から魔力が溢れれば、契約書が輝きを放つ。次の瞬間あらわれたのは、フードを目深にかぶったルリア。
今よりもいくらか幼い。
『――では式場で、色欲の呪紋を発動させればいい、とのことですね』
ジェリドの声。
『その通りよ』
『みかえりは?』
『あんたが、この国で高い地位につけるようにしてあげる。心配しなくても平気。あの女が婚約者の座から消えれば、次は私。ヨアヒムはぼんくらだもん。私の手にかかれば、言うことをきかせることなんて簡単。それよりちゃんとしてよね。失敗したら……分かってるでしょ』
『もちろん』
二人のやりとりが消える。
「違う、違う違う違うぅぅぅぅぅ! アリッサが、悪魔のつがったのよ! 陛下、違います! これは魔術師どもの策略! これは私をはめようとしてるんです!」
「……いいえ、全てはルリアの策略。私はその犠牲者」
「黙りなさいよ、悪魔とつがった分際で!」
「天は誰が正しいか、しっかり分かってるのよ」
アリッサは胸元をくつろげる。確かに刻印があったはずの場所には、何もなかった。
ヨアヒムは、ルリアを唖然とした顔で見つめる。
「どうなっている……お前が悪魔とつがったのか? 悪魔の手先として、ルリアをはめたというのか!?」
民の間からも「やはり、あの女が悪魔の遣いだったんだ!」「悪魔が囁き、湯水のように金を使いまくったんだ!」「あの女が王妃になってから税が上がったのも……」とどよめきは、怒りへ変化していく。やがて、民の一部が桟敷席へ向かっていく。
怒れる群衆を兵士たちは抑え込もうとするが、数の差は明らかだ。
ルリアは桟敷席のそばで待機している兵士たちに声を荒げる。
「何をしている! あいつらを殺しなさい! あの群衆こそ、悪魔に操られているのよ! 私を守るのが、あんたたちの仕事でしょうが!」
兵士たちは明らかに困惑している。
「王妃の命令に従えないと言うの!? 逆らうなら、あんたたちの首を落としてやる!」
兵士の一部が、群衆に向かっていく。
「民を守れ!」
シュヴァルツたちが、兵士の槍で刺されていく民たちの間に割って入る。
兵士と民が乱戦状態になっているせいで、シュヴァルツたちは魔法が使えないものの、日頃から鍛えた剣の腕で兵士たちの攻撃を防ぎ、逆に押し返す。
「ヨアヒム、分かったでしょう! 誰が本当の悪魔の遣いか! この期に及んでもまだ、恐怖に支配されたままなの!?」
アリッサは、ヨアヒムに向かって叫ぶ。
「黙れえええええええ!」
ルリアは護衛についていた兵士の腰から剣を奪ったかと思うと桟敷席から飛び降り、アリッサに向かってくる。
「アリッサ、これを使え!」
シュヴァルツが兵士から奪った剣を投げてくれる。アリッサはその剣を受け止め、鞘を払うと、処刑台から飛び降りる。
「死ねえええええええええええええええ!」
おぞましい形相をしたルリアが剣を構えて襲いかかる。
しかし所詮、弱い人間しか相手にしてこなかった義妹の剣など、騎士団で鍛えられているアリッサの敵ではない。
あっさりとルリアの握っていた剣を弾く。
「ひいいいい!」
ルリアはその場に尻もちをつき、悲鳴を上げる。
――あぁ、立ち向かう勇気が私には必要だったんだわ。
「こ、殺さないで……」
「殺すわけないでしょ。あなたは殺す価値もない、それからこれは返してもらうっ」
アリッサは、彼女の首をかざる双星石の紐を乱暴にちぎって、奪い返す。
「へ、陛下、お助けをぉぉぉぉ!」
「やめよ!」
「あぁ、陛下! すぐにこの女を殺して……」
笑みを浮かべたルリアだったが、ヨアヒムの言葉で、その表情が再び曇ることになる。
「兵士たち、民を傷つけるのはやめよ! 怒りで我を忘れるな! 王妃こそ、悪魔の遣い……我が国を混乱に陥れた元凶……!」
「はあああ!? 何言ってんのよ! 私は王妃よ!? あんたの妻よ! この女を殺しなさいよ!」
外面の良さだけでここまで成り上がったルリアの真の表情を見て、民も兵士も一様にざわつく。
「王妃……いや、あの悪魔を牢へ! それから、すぐに医者を! 傷ついた民を治療せよ!」
「……その必要はないわ! 私が治療するわ!」
剣を捨てたアリッサは、兵士に傷つけられ、鮮血の中に倒れて悶える民の前へしずしずと歩みを進めた。
民に手を向ければ、アリッサの体から黄金色のきらめきが放たれる。
その光が、血みどろになって傷ついた民や兵を包み込んでく。
痛みを訴えていた人々が自分の体を探る。そこにあったはずの傷が、流れ出していた血が綺麗になくなったことに、誰もがぽかんとした顔をしている。
広場を照らし出す魔力のきらめきがゆっくりと収束していく。
誰からともなく、治療をしていた人々がひざまずきはじめる。
「あれは、神の使者では……?」
「悪魔ではない、神の使者だ!」
「我々は、悪魔の遣いに操られ、神の使者を悪魔だと思い込まされていた……」
――本当に勝手で、どうしようもない人たち。
この手の平返しの姿にはさすがのアリッサも、嘆息せずにはいられない。
どう転んでも、魔法というものの素晴らしさを素直に受け入れられないのは、長年それだけ擦り込まれ続けた結果なのだろうか。
――でもこれを利用しない手はないわよね。
アリッサは仰々しい動きをする。
「そうです。私の力は人を癒やす力。それは神から受け取った清らかなる力です。魔法というものは、元来、そういうものなのです。でも長らく、悪魔の遣いの暗躍によって歪んで受け取られきたのです。ヨアヒム!」
「は、はい!」
ヨアヒムはいつに間にか桟敷席から地面へと降り立ち、跪いていた。
この男から受けた仕打ちを考えると、このまま足蹴にしてしまいたくなる。
実際、アリッサは拳を硬く握りながら、精一杯の自制心でこらえていた。
短慮を起こしてはいけない。ここは復讐よりもずっと大事な、しなければいけないことがあるのだから。
「悪魔の遣いルリアがいなくなった今、魔法への認識を改めるいい機会になると思うのだけど」
「神の使いが仰せになるのであれば、すみやかに魔術師たちを保護するよう、触れをだします。民を、兵士たち、この国をお救いくださり、ありがとうございます……」
そこへルリアの濁声が響きわたる。
「ふざけんなよ! そいつは悪魔よ! 悪魔なのよ! 私こそが、神の使いなのよぉ!」
「その悪魔をすぐに連れていけ!」
ヨアヒムが穢らわしいものを追い払うように命じる。
「この悪魔めえええええええええええ!」
髪を振り乱すルリアは兵士たちに連行されて消えていく。
ほっと胸を撫で下ろす。
「御使い様……私の心はあの悪魔により、かき曇っておりました……あなたこそ、この国の王妃……どうか、我が妻に――」
「お断り。あなたとの縁はとうの昔に切れてるわ!」
シュヴァルツが、寄り添ってくれる。
アリッサは、その手を取り、ヨアヒムへ背を向けて歩き出した。
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