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アーサーは馬をとばして王都の大通りを疾走し、王宮へ到着する。
国王に対し、先日の任務に対する報告に向かうところだった。
壮麗な神殿を思わせる王都でも屈指の美しい建物だ。
衛兵が敬礼をし、アーサーを迎えた。
衛兵に馬を預け、建物の中へ。
顔見知りの使用人に声をかけ、国王の居所を尋ねる。
国王は今、庭先でお茶を飲んでいるらしい。
そちらに向かって歩き出せば、
「アーサー」
姿を見せた男に、アーサーはかすかに目を細めた。
第一騎士団の団長、クリフォード・エル・オーラルシュタット。
ノクスヴァルト公爵家、オーラルシュタット公爵家。これをして二大公爵と称される。
彼はオーラルシュタットの当主でもあった。
曇りのない金髪に、涼しげな目元は青。
品のいい顔立ちはお行儀のいい第一騎士団を率いるに相応しい。
クリフォードと、ラウーロの不仲は誰もが知る所だった。
王宮でもどこでも顔を合わせれば、人目を憚らず怒鳴りあう犬猿の仲。
あの常に冷静沈着だったラウーロが感情を露わにして、クリフォードの悪口を言った時の衝撃は今も覚えている。誰かを悪く言うことなんてなかった兄が誰かを罵るのを、はじめて聞いたのだ。
「戻ってきていたのか」
「数日前にな」
兄の死後、クリフォードは隣国へ一年間、留学するために旅立っていた。
「身体検査をさせてもらう。悪いが、これも任務だから悪く思うな」
「いちいち説明しなくても分かっている」
腕を広げると、クリフォードが体に触れる。
「わざわざ騎士団長がこんな雑用をするのか?」
「お前は第二騎士団の団長である前に、公爵家の当主だからな。部下に任せて粗相があっても困る」
入念なチェックが行いながら、不意にクリフォードが口を開く。
「……ハイネ嬢は元気か」
「お前には関係ない。俺の妻だ」
「だったら、もっと彼女を大切にしろ。毒蛇と別れろ」
「お前に言われる筋合いはない。それに、あいつのほうから俺のところへやってきたんだ。俺が来てくれと頼んだ訳じゃない」
「貴様……っ」
「お前、もしかしてハイネのことが好きだったのか。まさか、兄上と対立していたのは女の取り合いのせいか?」
だったら傑作だ。結局、二人は揃ってハイネを失ったのだから。
クリフォードが硬く拳を握りしめる。
「喧嘩なら喜んで買ってやるっ」
「お前のようなクズには、ハイネ嬢はもったいない」
「もう終わったのならさっさと離れろ」
殺気を滲ませた眼差しを向け続けるクロフォードは、「行け」と顎をしゃくった。
※
アーサーが屋敷に戻った頃には、日がすっかり落ちていた。
「おかりなさいませ、公爵様。お夕食になさいますか」
「ああ」
部屋で騎士服から平服に着替え、食堂に入ると、ハイネがいた。
「アーサー、おかえりなさい」
「なんでお前がここにいる」
「……私も夕食がまだだったから。一緒に取ろうと思って。ほら、夫婦なんだから」
ハイネはぎこちない笑みを浮かべた。
「好きにしろ」
食事中は、ハイネばかり喋った。
アーサーはそれに相づちを打たず、無視するように黙々と食事を続けた。
無視されていることに気づきながらも、ハイネは構わず喋り続ける。
「そう言えば、そろそろあなたの誕生日ね。何か欲しいものはある?」
「もう子どもじゃないんだ。何も要らない」
「……そうよね。もう子どもじゃないんだものね」
かすかに表情を引き攣らせながらも、必死に笑顔を装う。
その辛そうな顔に、罪悪感が大きくなる。
自分のせいでそんな顔をさせてしまっているのが辛い一方、それならどうすればいいんだという苛立ちが胸の中でせめぎ合う。
(俺のことなんて好きでもないくせに、無理をするな)
とても味わって食事をするという気分にもならず、ただ機械的に咀嚼し、水で流し込むことを黙々と繰り返す。
食事を終えると立ち上がる。
「明日からはいちいち待つな。さっさと一人で食事を取れ」
そう振り向かずに言って、食堂を出た。
国王に対し、先日の任務に対する報告に向かうところだった。
壮麗な神殿を思わせる王都でも屈指の美しい建物だ。
衛兵が敬礼をし、アーサーを迎えた。
衛兵に馬を預け、建物の中へ。
顔見知りの使用人に声をかけ、国王の居所を尋ねる。
国王は今、庭先でお茶を飲んでいるらしい。
そちらに向かって歩き出せば、
「アーサー」
姿を見せた男に、アーサーはかすかに目を細めた。
第一騎士団の団長、クリフォード・エル・オーラルシュタット。
ノクスヴァルト公爵家、オーラルシュタット公爵家。これをして二大公爵と称される。
彼はオーラルシュタットの当主でもあった。
曇りのない金髪に、涼しげな目元は青。
品のいい顔立ちはお行儀のいい第一騎士団を率いるに相応しい。
クリフォードと、ラウーロの不仲は誰もが知る所だった。
王宮でもどこでも顔を合わせれば、人目を憚らず怒鳴りあう犬猿の仲。
あの常に冷静沈着だったラウーロが感情を露わにして、クリフォードの悪口を言った時の衝撃は今も覚えている。誰かを悪く言うことなんてなかった兄が誰かを罵るのを、はじめて聞いたのだ。
「戻ってきていたのか」
「数日前にな」
兄の死後、クリフォードは隣国へ一年間、留学するために旅立っていた。
「身体検査をさせてもらう。悪いが、これも任務だから悪く思うな」
「いちいち説明しなくても分かっている」
腕を広げると、クリフォードが体に触れる。
「わざわざ騎士団長がこんな雑用をするのか?」
「お前は第二騎士団の団長である前に、公爵家の当主だからな。部下に任せて粗相があっても困る」
入念なチェックが行いながら、不意にクリフォードが口を開く。
「……ハイネ嬢は元気か」
「お前には関係ない。俺の妻だ」
「だったら、もっと彼女を大切にしろ。毒蛇と別れろ」
「お前に言われる筋合いはない。それに、あいつのほうから俺のところへやってきたんだ。俺が来てくれと頼んだ訳じゃない」
「貴様……っ」
「お前、もしかしてハイネのことが好きだったのか。まさか、兄上と対立していたのは女の取り合いのせいか?」
だったら傑作だ。結局、二人は揃ってハイネを失ったのだから。
クリフォードが硬く拳を握りしめる。
「喧嘩なら喜んで買ってやるっ」
「お前のようなクズには、ハイネ嬢はもったいない」
「もう終わったのならさっさと離れろ」
殺気を滲ませた眼差しを向け続けるクロフォードは、「行け」と顎をしゃくった。
※
アーサーが屋敷に戻った頃には、日がすっかり落ちていた。
「おかりなさいませ、公爵様。お夕食になさいますか」
「ああ」
部屋で騎士服から平服に着替え、食堂に入ると、ハイネがいた。
「アーサー、おかえりなさい」
「なんでお前がここにいる」
「……私も夕食がまだだったから。一緒に取ろうと思って。ほら、夫婦なんだから」
ハイネはぎこちない笑みを浮かべた。
「好きにしろ」
食事中は、ハイネばかり喋った。
アーサーはそれに相づちを打たず、無視するように黙々と食事を続けた。
無視されていることに気づきながらも、ハイネは構わず喋り続ける。
「そう言えば、そろそろあなたの誕生日ね。何か欲しいものはある?」
「もう子どもじゃないんだ。何も要らない」
「……そうよね。もう子どもじゃないんだものね」
かすかに表情を引き攣らせながらも、必死に笑顔を装う。
その辛そうな顔に、罪悪感が大きくなる。
自分のせいでそんな顔をさせてしまっているのが辛い一方、それならどうすればいいんだという苛立ちが胸の中でせめぎ合う。
(俺のことなんて好きでもないくせに、無理をするな)
とても味わって食事をするという気分にもならず、ただ機械的に咀嚼し、水で流し込むことを黙々と繰り返す。
食事を終えると立ち上がる。
「明日からはいちいち待つな。さっさと一人で食事を取れ」
そう振り向かずに言って、食堂を出た。
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