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こうして短くもあっという間に一泊二日の旅行は過ぎていく。
カタリナは王都へ帰ると、エイリークとライムに記憶が戻ったことを報告した。
二人は驚きながらも、「おめでとう」と言ってくれた。
エイリークたちに出会わなければ、生きていられたかも分からない。
彼らの支えがあればこそ、今のカタリナがあるのだ。
「あなたが無事に記憶を取り戻してもらえたのは嬉しいですが、残念ですね。うちの商会としては大きな痛手です」
「その話ですが、レオンにお願いして商会のお手伝いはこれまで通りさせて頂けることになりました。なので……」
「公爵夫人にお願いできるとなると、ふむ……これから、さらに大きな相手とも取引できるかもしれませんね」
「ええ。思う存分、利用してくださって構いません」
一方、都に戻ったレオンはすぐに騎士団や衛兵を動員し、公爵家を謀った罪や公爵夫人を虐げた罪で、叔父夫婦を捕らえた。彼らは当然、知らぬ存ぜぬで白を切ったが、かつての同僚たちが我が身可愛さで主人を裏切り、彼らの罪は証明され、今は収監中。
アスターシャに関しても捕らえるために兵士を動かしたが、彼女は夫の宝石を盗めるだけ盗んだ上で、行方をくらませた。
一連の説明を、レオンから聞かされた。
「……そうなのね」
「――安心してくれ。女ひとりだ。そう遠くまで行けないし、潜伏できる場所も限られている。すぐに捕まえられるはずだ。安心しろ。お前のことはもう誰にも傷つけさせない」
「分かってる。あなたがそばにいてくれるだけで心強いもの」
「奥様、今は動かないで下さい」
「あ、ごめんなさい」
今もまだ体のあちこちを採寸中だ。
というのも、今は以前からの約束――結婚式を挙げるためのウェディングドレスを作るために、体のあちこちを計測されている真っ最中だった。
ウェディングドレスのデザインや製作には王国で一番のデザイナーと職人が選ばれた。
そこへメイドがやって来た。
「公爵様、先程、使者の方がこちらを……」
受け取ったレオンは手紙を一瞥するなり、溜息をこぼす。
「……この忙しい時に」
「どうしたの?」
「陛下が、ありがたいことに、俺たち夫婦の再会を祝って晩餐会を開いてくれるらしい」
「陛下が!?」
「迷惑な話だ」
「そんなこと言ったら……」
「今は結婚式の準備で忙しいのは陛下もご存じのはずなのに」
「でもお断りする訳には」
「そう、だから迷惑だと言うんだ。まったく……。おい、ウェディングドレス以外に、パーティードレスも仕立ててくれ」
「かしこまりました」
「そ、そこまでしなくても。ドレスだったらあるから……」
「駄目だ。国王主催のパーティーだ。王国中から貴族たちが集まる。俺の妻が少しでも見劣りするようなことになったら、俺は自分を一生許せない」
「お、大袈裟よ……」
「大袈裟じゃない。な、マリアンヌ。ママは綺麗なほうがいいだろ」
「うん!」
レオンの膝の上で、愛娘がにこにこしながら頷く。
「……マリアンヌに言わせるなんて卑怯よ」
「マリアンヌをがっかりさせられるか?」
「……分かったわ」
結局、カタリナは折れた。
「マリアぁ、だっこぉ」
「マリア、じゃなくて、ママ、だぞ」
「ま、ママぁ」
「もう少し待っててね」
「はやくねー!」
マリアンヌは少し頬を膨らませつつ言った。
カタリナは王都へ帰ると、エイリークとライムに記憶が戻ったことを報告した。
二人は驚きながらも、「おめでとう」と言ってくれた。
エイリークたちに出会わなければ、生きていられたかも分からない。
彼らの支えがあればこそ、今のカタリナがあるのだ。
「あなたが無事に記憶を取り戻してもらえたのは嬉しいですが、残念ですね。うちの商会としては大きな痛手です」
「その話ですが、レオンにお願いして商会のお手伝いはこれまで通りさせて頂けることになりました。なので……」
「公爵夫人にお願いできるとなると、ふむ……これから、さらに大きな相手とも取引できるかもしれませんね」
「ええ。思う存分、利用してくださって構いません」
一方、都に戻ったレオンはすぐに騎士団や衛兵を動員し、公爵家を謀った罪や公爵夫人を虐げた罪で、叔父夫婦を捕らえた。彼らは当然、知らぬ存ぜぬで白を切ったが、かつての同僚たちが我が身可愛さで主人を裏切り、彼らの罪は証明され、今は収監中。
アスターシャに関しても捕らえるために兵士を動かしたが、彼女は夫の宝石を盗めるだけ盗んだ上で、行方をくらませた。
一連の説明を、レオンから聞かされた。
「……そうなのね」
「――安心してくれ。女ひとりだ。そう遠くまで行けないし、潜伏できる場所も限られている。すぐに捕まえられるはずだ。安心しろ。お前のことはもう誰にも傷つけさせない」
「分かってる。あなたがそばにいてくれるだけで心強いもの」
「奥様、今は動かないで下さい」
「あ、ごめんなさい」
今もまだ体のあちこちを採寸中だ。
というのも、今は以前からの約束――結婚式を挙げるためのウェディングドレスを作るために、体のあちこちを計測されている真っ最中だった。
ウェディングドレスのデザインや製作には王国で一番のデザイナーと職人が選ばれた。
そこへメイドがやって来た。
「公爵様、先程、使者の方がこちらを……」
受け取ったレオンは手紙を一瞥するなり、溜息をこぼす。
「……この忙しい時に」
「どうしたの?」
「陛下が、ありがたいことに、俺たち夫婦の再会を祝って晩餐会を開いてくれるらしい」
「陛下が!?」
「迷惑な話だ」
「そんなこと言ったら……」
「今は結婚式の準備で忙しいのは陛下もご存じのはずなのに」
「でもお断りする訳には」
「そう、だから迷惑だと言うんだ。まったく……。おい、ウェディングドレス以外に、パーティードレスも仕立ててくれ」
「かしこまりました」
「そ、そこまでしなくても。ドレスだったらあるから……」
「駄目だ。国王主催のパーティーだ。王国中から貴族たちが集まる。俺の妻が少しでも見劣りするようなことになったら、俺は自分を一生許せない」
「お、大袈裟よ……」
「大袈裟じゃない。な、マリアンヌ。ママは綺麗なほうがいいだろ」
「うん!」
レオンの膝の上で、愛娘がにこにこしながら頷く。
「……マリアンヌに言わせるなんて卑怯よ」
「マリアンヌをがっかりさせられるか?」
「……分かったわ」
結局、カタリナは折れた。
「マリアぁ、だっこぉ」
「マリア、じゃなくて、ママ、だぞ」
「ま、ママぁ」
「もう少し待っててね」
「はやくねー!」
マリアンヌは少し頬を膨らませつつ言った。
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