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第二章
側室
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輿が目的地に着き降りると、目の前には城がある。
「こちらです」
家来の人に案内され城に入る。多くの人達とすれ違ったが、その目はさまざま。
興味津々な目。蔑む目。憎悪の目。
ここには、いろんな人がいるから、そう言う目も向けられるだろう。御殿に入ったら、他の側室から、蔑まれるのだろう。
しばらく歩いた後、家来の人が止まり、襖越しから声をかける。
「お連れしました」
「入れ」
すると襖が開き、中に入るように目配せされた。
私は、部屋に入ると、すぐに座り、頭を下げる。
「前田時子と申します。今回お会いできて光栄です」
「面を上げよ」
部屋は大きく、将軍様と私の距離は離れている。
将軍様は人払いをした。二人っきりになると、もっと近くまで来るように言われた。
言われるまま進むが、止まるたびに、もっとと言われる。結果、将軍様と少し離れている距離まで来た。私が来てほしい所まで来ると御簾を上げ顔を見せ、腰を上げ、膝がくっ付く所で座った。
私は慌てて頭を下げようとしたが、止められる。
「美しいな。こうして間近で見ると、より良いものだな。其方が来てくれて嬉しいぞ」
将軍様の手が、私の頬をさそる。その手は、徐々に下りていき、首筋、肩、腕までいく。
気持ち悪かったが、悟られないように笑顔を崩さなかった。
将軍様は笑っているが、目は今にも押し倒したいと語っている。
将軍様に腕を引っ張られ抱き締められると、耳元で囁かれた。
「後で其方の所に行く。続きはその時に」
鳥肌が立つ。まだしてないのに、今からこんな反応では駄目だ。
愛情があろうと、なかろうと、そう言う行為があるのは分かっているのに・・・。
「そろそろ時間だ。其方が暮らす部屋を用意した。足りないものがあれば、すぐに言ってくれ」
将軍様は、私から離れると御簾の向こう側に行った。
「ありがとうございます。それでは失礼致します」
将軍様に頭を下げ部屋を出た。
家来の後に付いて行き、御殿まで行くと、案内役が変わった。
さっきまでいた家来がいなくなると、私を見てあからさまに嫌がっている。
「ただの商家の娘なのに。側室なんて。顔が少し良いくらいしか取り柄がなさそう。将軍様が、選ばれたから仕方ないけど・・・。立派な家柄の方ではなく、身分の低い者に仕えないといけないなんて。私は、貴方の侍女頭を務める菊と申します。他にも不満を持っている者が多くいます。顔だけではなく、侍女達も出世できるように頑張って下さいね。それでは、お部屋に案内します」
「・・・」
侍女は私には必要ない。身の回りくらい自分でできる。
そんなことを言ったところで、侍女がいなくなるわけじゃない。
出世・・・後継者を産むことか。本妻の間に男児はいないと聞いてる。それが続けば側室の子が後継ぎ。側室は他にもいるし、私は一番下の身分。男児を産んでも、他の人が産めば、そちらが後継ぎの可能性が高い。私は出世なんて望んでないけど、男児が産まれれば、政権の嵐に巻き込まれるのか。
「あの人が新しい側室?」
「商家の娘らしいですわよ」
「教養もないのに、よくここに来れたわね」
「将軍様の鶴の一声で、側室と決まったそうよ」
「それなら手出しできないわね。罰せられてしまうわ」
「「「そうね」」」
部屋に向かう途中で、他の側室達の会話が聞こえる。何か嫌がらせはあると思ったけど、すぐにはなさそう。
「ここです」
用意された部屋は、北側の一番端の部屋。城から一番遠い。
私の侍女達が待っていて一礼された。
皆、顔に出やすいようだ。不満の表情ばかり。
そんな顔されても、今すぐに、どうこうできるものではない。
「皆さん、よろしくお願いします」
頭を下げると菊が言った。
「主人が、侍女に頭を下げるものではありません。貴方は身分は低いですが、立場上、私達の主人です。それ相応の態度でなくてはいけません」
「・・・はい」
返事をすると菊が軽く睨む。
違うと言いたいのだろう。
「分かったわ」
言い直すと睨むのを止め、他の侍女達に指示を出す。
「いつまで、そこに立ちっぱなしなんですか。着替えをするので、もっと奥に来て下さい」
菊に言われるまま行動して、着替えた。
他の侍女は、用があるときだけ近付いて来た。
菊だけ、傍にいて作法や教養を教えてくれる。
仕事だから。出世する為かもしれない。
でも口は厳しいが、どこか優しさを感じるところは何度かあった。
ここに来たら、孤独感が増すだろうと思っていたけど、そんな暇はない。
「菊。ありがとう」
「突然なんですか」
「いつも近くにいてくれて。寂しいと思う暇がないわ」
「貴方に足りないものを教えてるだけです」
「知ってるわ。それでも伝えたかったの。菊は厳しいけど、優しい人だなと思うから」
菊は一瞬戸惑っていたが、すぐにそっぽ向いた。
「感謝を伝える暇があるなら、今教えたことを早く覚えて下さい・・・・・貴方様には、伝えることがまだあるのですから」
「菊。今、私のこと様付け「ほら、手が止まってますよ」」
菊は言葉を遮った。
顔が少し赤いが言ったら、怒られるから黙っておこう。
ここに来て一ヶ月くらい経つが、菊の存在は心の支えだ。
「こちらです」
家来の人に案内され城に入る。多くの人達とすれ違ったが、その目はさまざま。
興味津々な目。蔑む目。憎悪の目。
ここには、いろんな人がいるから、そう言う目も向けられるだろう。御殿に入ったら、他の側室から、蔑まれるのだろう。
しばらく歩いた後、家来の人が止まり、襖越しから声をかける。
「お連れしました」
「入れ」
すると襖が開き、中に入るように目配せされた。
私は、部屋に入ると、すぐに座り、頭を下げる。
「前田時子と申します。今回お会いできて光栄です」
「面を上げよ」
部屋は大きく、将軍様と私の距離は離れている。
将軍様は人払いをした。二人っきりになると、もっと近くまで来るように言われた。
言われるまま進むが、止まるたびに、もっとと言われる。結果、将軍様と少し離れている距離まで来た。私が来てほしい所まで来ると御簾を上げ顔を見せ、腰を上げ、膝がくっ付く所で座った。
私は慌てて頭を下げようとしたが、止められる。
「美しいな。こうして間近で見ると、より良いものだな。其方が来てくれて嬉しいぞ」
将軍様の手が、私の頬をさそる。その手は、徐々に下りていき、首筋、肩、腕までいく。
気持ち悪かったが、悟られないように笑顔を崩さなかった。
将軍様は笑っているが、目は今にも押し倒したいと語っている。
将軍様に腕を引っ張られ抱き締められると、耳元で囁かれた。
「後で其方の所に行く。続きはその時に」
鳥肌が立つ。まだしてないのに、今からこんな反応では駄目だ。
愛情があろうと、なかろうと、そう言う行為があるのは分かっているのに・・・。
「そろそろ時間だ。其方が暮らす部屋を用意した。足りないものがあれば、すぐに言ってくれ」
将軍様は、私から離れると御簾の向こう側に行った。
「ありがとうございます。それでは失礼致します」
将軍様に頭を下げ部屋を出た。
家来の後に付いて行き、御殿まで行くと、案内役が変わった。
さっきまでいた家来がいなくなると、私を見てあからさまに嫌がっている。
「ただの商家の娘なのに。側室なんて。顔が少し良いくらいしか取り柄がなさそう。将軍様が、選ばれたから仕方ないけど・・・。立派な家柄の方ではなく、身分の低い者に仕えないといけないなんて。私は、貴方の侍女頭を務める菊と申します。他にも不満を持っている者が多くいます。顔だけではなく、侍女達も出世できるように頑張って下さいね。それでは、お部屋に案内します」
「・・・」
侍女は私には必要ない。身の回りくらい自分でできる。
そんなことを言ったところで、侍女がいなくなるわけじゃない。
出世・・・後継者を産むことか。本妻の間に男児はいないと聞いてる。それが続けば側室の子が後継ぎ。側室は他にもいるし、私は一番下の身分。男児を産んでも、他の人が産めば、そちらが後継ぎの可能性が高い。私は出世なんて望んでないけど、男児が産まれれば、政権の嵐に巻き込まれるのか。
「あの人が新しい側室?」
「商家の娘らしいですわよ」
「教養もないのに、よくここに来れたわね」
「将軍様の鶴の一声で、側室と決まったそうよ」
「それなら手出しできないわね。罰せられてしまうわ」
「「「そうね」」」
部屋に向かう途中で、他の側室達の会話が聞こえる。何か嫌がらせはあると思ったけど、すぐにはなさそう。
「ここです」
用意された部屋は、北側の一番端の部屋。城から一番遠い。
私の侍女達が待っていて一礼された。
皆、顔に出やすいようだ。不満の表情ばかり。
そんな顔されても、今すぐに、どうこうできるものではない。
「皆さん、よろしくお願いします」
頭を下げると菊が言った。
「主人が、侍女に頭を下げるものではありません。貴方は身分は低いですが、立場上、私達の主人です。それ相応の態度でなくてはいけません」
「・・・はい」
返事をすると菊が軽く睨む。
違うと言いたいのだろう。
「分かったわ」
言い直すと睨むのを止め、他の侍女達に指示を出す。
「いつまで、そこに立ちっぱなしなんですか。着替えをするので、もっと奥に来て下さい」
菊に言われるまま行動して、着替えた。
他の侍女は、用があるときだけ近付いて来た。
菊だけ、傍にいて作法や教養を教えてくれる。
仕事だから。出世する為かもしれない。
でも口は厳しいが、どこか優しさを感じるところは何度かあった。
ここに来たら、孤独感が増すだろうと思っていたけど、そんな暇はない。
「菊。ありがとう」
「突然なんですか」
「いつも近くにいてくれて。寂しいと思う暇がないわ」
「貴方に足りないものを教えてるだけです」
「知ってるわ。それでも伝えたかったの。菊は厳しいけど、優しい人だなと思うから」
菊は一瞬戸惑っていたが、すぐにそっぽ向いた。
「感謝を伝える暇があるなら、今教えたことを早く覚えて下さい・・・・・貴方様には、伝えることがまだあるのですから」
「菊。今、私のこと様付け「ほら、手が止まってますよ」」
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顔が少し赤いが言ったら、怒られるから黙っておこう。
ここに来て一ヶ月くらい経つが、菊の存在は心の支えだ。
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