ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第2章

佐藤修

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 今、私は△△大学の前にいる。ターゲットは、ここの学生だ。資料によると、女好きだから近づけば、麻薬のことを出してくるのも、時間の問題だろう。
私は、近寄り難い雰囲気を出さないようにした。
ターゲットの前だけ雰囲気変えるのは、不自然だからな。
大学の敷地に足を踏み入れる。学校に通うのは、久しぶりだな。両親が殺されてから、学校に行ってない。私も狙われる可能性があるため、ボスが手配した家庭教師により、必要な知識を身につけている。まあ、家庭教師と言っても、その人も殺し屋だ。

 大学は広いな。敷地内には、年齢がバラバラな学生がいる。この大学の編入手続きは、ボスがしてくれている。大学の構造や教員、生徒の身元調査資料には、目を通した。ターゲット以外で、怪しい人物はいない。
 私は、ターゲットのいる教室に向かう。
そして、ターゲットを見つけて近づき、声をかける。
「ねえ、隣空いてる?」
窓の向こうの景色を見ていた、ターゲットの佐藤修が、こちらを振り返る。
「え、ああ!空いてるよ!」
驚いたような返答だったが、そんなに驚くことか?後ろから声をかけただけなのに、なんか慌てていないか?
とりあえず、空いてることが分かったので、隣に座る。
座ると、今度は向こうから、声をかけてくる。
「声かけてきたのが、美人で驚いたよ!美人が隣に座ってくれるなんて、俺ラッキーだな!あ、俺は佐藤修。君、初めて見る顔だと思うな。だって、こんなに美人なら、構内で噂になるはずだから」
「今日から、編入したんだよ。私は、広瀬紅音」
「今日からなんだ。じゃあ、後で俺が、構内案内してあげるよ。いやー、こんな美人と過ごせるなんて!」
「ありがとう」
「紅音は、無表情だね。ちょっと笑った方が、もっとモテると思うよ。スタイルも良いし」
「・・・・・」
「あ、気に触ったなら、ごめん。もしかして、外見に関しては、無自覚とか?」
「・・・・・別に気に触ってないよ」
無表情や細身なのは、自覚してる。だけど、笑うことは任務限定だが、必要があれば笑う。今回は、不要だと思っている。
美人とか、モテるとか、なぜそうなる?
自分は、そう言うタイプではない。
そういえば、前にボスに言われたな。
「君は、殺し屋としてはNo.1で完璧なのに、外見に関しては、無自覚だから自覚しろ」
自覚しろと言われたから、鏡を見たが、分からない。
自分が、どう言うタイプでも、任務に支障ないから、いいだろうと思ったな。

 初講義終了後、お昼の時間だ。
「紅音、お昼良かったら、一緒に食べない?あ、呼び捨てにしてたけど、いいかな?俺のことは、修って呼んで」
講義終了後、すぐに声をかけてきた修。
「呼び捨てでいいよ。お昼一緒に食べる」
「マジ!?じゃあ早速行こう!」
修が立ち上がると、目の前に男達が、数人集まってきた。
「おい、修。昼飯に行こうぜ。うわ!隣の子、間近で見ると、やっぱり美しさが増すな。ねえ、君も一緒に、昼飯食べようよ」
修の友達にも、お昼を誘われている。私は修が一緒なら、修だけでも、友達と一緒でも、どちらでもいい。
「ダメ。お前らは後日。今日は、俺と2人で食べるんだよ。もう先に誘っているから」
修は、友達を追い払う仕草をする。友達は、文句を言いながら、その場を後にした。
「ごめんな、紅音。アイツら、うるさくて。じゃあ、早速昼飯食べに行くか。食堂でいい?」
修の問いかけに頷き、食堂に向かう。
食堂に着くと、多くの学生が、様々なものを食べている。
修が食堂に入れば、女子からの熱い視線と黄色の声が響く。修は、顔やスタイルは良いし、オシャレだからな。性格は問題ある奴。
一方で、私も視線が集まる。男子からは、好意的なものだが、女子からは、嫉妬や嫌悪感の視線。食堂に着く前から、修と私は、視線が集中してたな。まあ、私に向ける視線など、一睨みすれば、なくなる。しかし、任務完了するまでは、怖がられると面倒なので、放置する。
   「紅音は、どれにする?おすすめは、オムライス」
「じゃあ、それ」
「俺は、ラーメンにしよっと。あ、紅音の分も俺が出すよ。出会えた記念ってことで」
「悪いからいいよ」
「いいから!ここは、男に頼るところなんだよ」
私の断りを押しのけ、2人分の食券を購入した。
出会えた記念?隣に座っただけなのに。女好きだから、良いところを見せようとか?
男の考えてることは、分からないことがあるな。
そんなことを考えていると、注文したオムライスとラーメンが出来上がった。それぞれトレーを持ち、空いてるその辺の椅子に座る。
   「本当はさ、お昼終わった後に、構内案内したいんだけど、次の講義があるんだよ。紅音の講義のスケジュールは、どんな感じ?」
修の問いかけに、スケジュール表を見せる。
「俺と同じスケジュールじゃん。うわー、こんな偶然ってあるんだよね。今までで、1番良い偶然だ」
スケジュールは、事前に調べて組んであるから、偶然じゃない。
「修と同じスケジュールで、嬉しいな」
初めてターゲットの名前を、本人の目の前で口にすれば、目を輝かせている。
「今、俺の名前言ってくれたよね!?しかも、嬉しいって言葉も聞こえたんだけど!?」
「名前言ったよ。知り合いいないし、この大学で、会話したの修だけだから。スケジュールも一緒だと、何かあれば、聞きやすいなって思って。あ、でも毎回隣に座らなくてもいいよ。さっきの友達とか、他にも、修の隣に座りたい人いるだろうから。特に、女の子」
すると、修は首を振った。
「隣は、紅音で大丈夫だよ。友達とは、大学の外で遊んでるし、女の子は好きだけど、うるさいタイプは嫌なんだよね。紅音は、そう言うタイプじゃないじゃん。隣にいると、教えやすいこと多いからさ。他の人のことは、気にしなくていいよ」
修は、女好きと資料にあったが、うるさいのは嫌なのか。構内にいると、修のことを、気になっている女の子が多いのにな。一瞬でも、夢を見させてやればいいのに。
私としては、いつも一緒にいなくていいし、多少仲良くなった後に、証拠を用意させて、殺せばいいだけなのに。
しかし、修の言葉を拒否すると、今後の任務の支障が出そうなので、受け入れることにした。

 昼食後、次の講義を一緒に受け、空き時間に構内を案内してもらい、帰りは正門まで一緒に行った。修は、よく話しかけてくるので、正直苦手だ。修からの問いかけには答える。他は、基本的に修の話を、相槌を打ちながら聞く。どうでもいい話ばかりで、退屈だな。
「じゃあ、また明日な。紅音」
「うん。また明日」
これで修からも、ここの学生の視線からも解放される。
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