ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第2章

新しい2人の出会い

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 私は、組織に向かおうとしたときだ。
「ちょっといい?」
聞きなれない女の声が、聞こえた。
声のした方を見れば、男女が1人づつ立っている。カップルだろうか。この大学の生徒だろう。今までと違うのは、私に向ける視線。女からは、嫉妬や嫌悪感はないし、男からも、特に何もない。
「なにか?」
もうターゲットと離れたし、帰りたい。
「近くのカフェで、ちょっとお話したいなと思って」
と澄んだ目で私を見る女。私とは真逆な目だ。
「悪いんだけど、これから用事あるから」
と断ると、女は少し残念そうな表情をする。
「そっかー。それなら、しかたないね。さっきまで、あなたといた修のことでもあるんだけど。じゃあ、また後日話したいな」
修のこと?ターゲットについて、何か情報を握っているのか?見たところ、目の前にいる、女と男は、一般人に見える。だけど、もしかしたら、役に立つ情報を持ってる可能性もなくはない。
「あ、用事は、後日で大丈夫。重要なのじゃないから」
「え、大丈夫なの?」
まあ、用事あるって断っといて、急に誘いにOKしたら、そうなるよな。
女の問いかけに頷く。
「そっか。あ、今更だけど、あなた歳は、いくつ?あたし達は20歳だよ。もし、年上だったらタメ語で、ごめんなさい」
と軽く頭を下げる女。
「同じ歳」
本当は25歳。しかし、見た目より、若く見えるらしく、20歳で通すことも多い。
「あ、そうなのね。良かった。とりあえず、場所を変えよっか。駅前の、すぐそこだから」
女は、同じ歳と聞いて、安心したような顔をする。

 こうして、2人の後を付いていく私。
カフェに入れば、外の騒音は聞こえず、落ち着いた雰囲気の店だ。
   「まず、本題前に自己紹介するね。校門前で言えば良かったんだけど、タイミング逃しちゃった。ごめんね。あたしは、栗原真理奈。隣に座っているのは、今井琉斗。あたしの婚約者なんだ」
自己紹介しながら、彼のことは、幸せそうに紹介する。紹介された琉斗は、相変わらず愛想笑いで、一言も喋らない。
「私は、広瀬紅音」
「紅音ね。同じ歳だから、紅音って呼んでいい?あたしのことは、真理奈って呼んで。琉斗も何か喋りなよ。ずっと無言じゃん。あ!紅音が美人だからって、惚れちゃダメだよ!」
「安心しろ。真理奈以外の女に、興味ないから惚れることない。広瀬さんは、必要以上に話しかけるなよ」
真理奈には、優しい目を向けて、嬉しい言葉をかける。私には、さっきまでの愛想笑いが消えてる。しかも、名字にさん付けで必要以上話しかけるなと言われた後、軽く睨まれている。呼び名は、なんでもいいし、会話のこともいい。しかし、なぜ睨まれている?
大学内の女からの視線とは違うな。婚約者を横取りされないように、囲むような感じか。なんか、独占欲の塊みたいな奴。心配しなくても、琉斗の婚約者とらないから。
「ちょっと!琉斗!紅音に向かって失礼なことしないでよ!睨んじゃいけないし、名字にさん付けとか、必要以上に話しかけるなとか、他人行儀みたいじゃない!」
「俺は、広瀬さんのことよく知らないし、呼び方なんて、なんでもいいだろ。会話だって、学校生活に支障ないから問題ないだろう」
「そうだけど、紅音のこと、他人行儀みたいなのヤダ。紅音と琉斗が会話をしても、琉斗を奪う人じゃないと思うし。とにかく、琉斗が態度を直してくれないなら、しばらく口を聞かないから!」
「・・・直す」
渋々と受け入れる琉斗。
なぜ、痴話喧嘩を見せつけられてるんだ。
はっきり言って、時間のムダだ。
さっさと本題に入りたい。
    「あの、今井さん?のことは気にしてないから。それより、話と言うのは?」
「紅音も琉斗のこと、呼び捨てでいいから!そうね、本題に入らないと。あのさ紅音。修のこと好きなの?それとも、何か弱み握られてるの?」
真理奈は、前のめりになりながら、心配そうに聞いてきた。
私は、そんなことかと思いながら、質問されて答えないと言うわけにもいかないので、答えた。
「好きじゃないし、弱み握られてないよ。私は、今日から編入してるんだ。席は、窓際が好きなんだけど、ほぼ埋まってた。そしたら、修のいる窓際の席の隣が空いてたから、座っただけ。講義のスケジュールも、修と同じなんだ。最初に声をかけたのが修だから、分からないことがあれば、聞きやすいから。あとは、流れでずっと一緒にいただけだよ」
嘘は言ってない。嘘をつくほどの内容じゃないから。
「そっか。初対面だし、こんなことを言うのもどうかと思うんだけどさ・・・。修とは、あまり関わらない方がいいと思うんだよね。アイツ女好きだし、来る者拒まず、去るもの追わずって感じ。ほら、紅音は美人じゃん。今まで、修に近づいてきた女の子とはタイプ違うし、今回は、修の方が気に入ってる感じかな。ずっと一緒にいるし。でも、何かされて泣かされるとか、嫌なんだよね」
「・・・忠告ありがとう。でも、修あんまり悪い人には、見えなかったよ。なんか、隣に座ることは決まってるし、いきなり態度を変えるのも、良くないかなと思う。それより、どうして初対面の私を、心配してくれるの?」
実際の修は、悪い人だ。女問題ではなく、別の意味で。私が、言えることではないが。
   「どうしてかなー。なんか、上手く言えないんだけど、ほっとけないって感じ」
私に理由を聞かれて、言葉選びに迷ってる様子。それより、ほっとけないとは、なぜだ?
「ほっとけない?」
「うん。なんかこう、1人にしちゃダメな気がする。上手く説明できないけど、あたしの勘が、そう言ってる」
「・・・」
勘が当たることはあるけど、真理奈の勘は当たってない。今まで1人でやってきた。同じ組織の奴らと連むことはない。ボスとの会話は、多いわけではない。会話の内容も、基本的に任務のことが大半だ。1人の方が気楽だ。
   「じゃあ、こうしよう!修とは同じ学部だし、講義のスケジュールも、あたし達も被ってることがあるの。被ってる講義は、近くに座る!」
「「は?」」
手を鳴らして閃く真理奈に対して、私と琉斗の言葉が、被ってしまった。
「真理奈、そこまでしなくても、いいんじゃないか」
琉斗は、嫌そうだ。やっぱり、琉斗に嫌われてる気がするが、琉斗の意見には、私も同感だ。
「えー、だって心配なんだもん。それに、紅音は、悪い人じゃないと思う。これも勘。とにかく決まりね」
その勘の自信は、どこからくるんだろうか。しかも外れてる。
琉斗は不服そうだったが、真理奈に強く出れないタイプらしい。
私は、反論するのが面倒なため、受け入れた。
それより、修について、特に重要な情報なかったな。まあ、一般人だし、期待はしてなかった。
「じゃあ、そろそろお開きにしよっか」
真理奈の提案に、私と琉斗は頷く。
お会計が終わり、店を出ると、もう夜になってる。
「じゃあ紅音。また学校でね」
元気よく手を振る真理奈。それに対して琉斗は、私を一瞥して真理奈を見る。
手を振り返し、お互い反対方向に歩き出す。
 この2人が今後、私にとって忘れられないことになるとは、このときは思わなかった。
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