ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第3章

共同任務

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 今回の任務完了を報告するために、ボスの部屋を訪れた。
「よくやってくれた。短期任務じゃなかったけど、お疲れ様。その辺に座ってくれ」
ボスは、労りの言葉をくれる。私は、ソファーに腰を降ろす。
  「それで、早速次の任務と大学生活のことで、話がある」
「大学のことですか。もう、ターゲットは死にましたし、終わりですね」
肯定すると思えば、予想外の言葉が返ってきた。
「終わりじゃないよ」
「は?」
終わりじゃない?なぜ?ターゲットを殺したのに、大学に通う意味は、なんなのか。
  「私は、前から思ってたんだよね。君には、普通のことを提供できなかった。勉強は、同業者が行う家庭教師だし、訓練はキツい。殺し屋として、コードネームを与えられた後は、任務ばかりだから。休みの日があっても、部屋に引き籠るか、訓練するかだね。普通の人みたいに、買い物に行ったり、映画を観たりなんてない。紅音が要望あるときは、ご両親を殺した犯人探しや任務のことか。そのこと以外だったら、部屋の模様替えくらいだったな。まあ、最初に与えた部屋の模様は白とピンクだから、イメージに合わないね。今のモノトーンの方がしっくりくる」
「・・・・・」
「話が少し逸れてしまったが、もう少し、親らしいことをさせたいんだよ。今の大学に行って、真理奈と琉斗と言う、知り合いできたって言ってたじゃないか。琉斗は仲良くなるのは、時間かかるかもしれないけど、真理奈は、君に好意的だろう。2人とも、怪しいところはない。学校に、卒業するまで通えと言うわけじゃない。一定期間になるだろうが、大学生活を楽しむのも良いと思う。
それに私は、時々思うんだ。紅音が、この道に進んで、本当に良かったのかと。君は、殺し屋として優秀に育った。でも、あのとき、君が殺し屋になると決めたとき、もっと強く引き止めるべきではなかったのか。今の君は、復讐のために、生きてるような感じだから。復讐が終わったとき、どうなるか心配なんだよ。だから、一時だけでも、殺し屋として無縁の生活があっても、良いと思ってる」
ボスは後悔してる顔で、私の顔や下を見たりしながら、話した。
育て親として、子供らしいことや普通の人の楽しみをさせられなかった。責任を感じているのか。
「私は、この道に進んだことを、後悔してません。確かに今の私は、復讐のために生きてます。復讐を果たした後のことは、考えてません。でもボスが、責任を感じることはありません。あのとき、ボスに何度止められたとしても、進む道は変わりません。それに、ボスは、私の要望に応えてくれることが多いです。そして、衣食住を提供して、教養を身に付けてくれた。訓練が厳しくても、今も私のことを、気にかけてる。あなたは、いつも私を、放り出すことをしなかった。今までも、たぶん今後も。ボスが、私に学校に通えと言うなら、通います。楽しめるかどうかは分かりませんが、やってみます」
「紅音・・・」
親子らしい会話なのか分からない。
ボスは時々、自分を責めるときがある。

 ボスは、この組織のトップだ。殺し屋の組織にも、いくつかのグループに分かれ、構成される。任務の数や手口、時間などを総合に含めて、全国の殺し屋のランキングが決められる。
ボスも、現役のときは、全国No.1だったらしい。引退してからは、不定期に行われる殺し屋の本部会議に参加している。ボスは、本部では幹部である。
前任者のボスは亡くなり、当時No.1だったボスが、今の座についた。

 そのとき、部屋のドアがノックされた。ボスが、入室を許可すると、1人の男が入ってきた。年齢は、20歳くらいだろうか。黒髪で目が青い。
「失礼致します」
一礼して近づいた男に、ボスが座るように促す。その男は、私の隣に座ってきた。
他にも席は空いてるのに、なぜ、そこに座る。
私は、少し感覚を開けて座り直した。
   「今回は、2人での共同任務だ」
「は?」
「マジすか!?No.1のBloody roseさんと任務できるんですか?あ、俺はowlと言います。よろしくお願い致します」
男は、興奮してるようで挨拶をした後、握手しようと右手を差し出す。そのときには、私は、冷たい雰囲気に変わっている。
差し出された右手を一瞥した後、ボスに、視線を移す。
「ボス。なぜ、共同任務なんですか?」
「Bloody roseさん、俺と一緒の任務嫌ですか?俺は、純粋に嬉しいんですけどね!だって、憧れの人と一緒に働けるんですよ!?あと、話ちょっとズレますけど、その冷たい雰囲気やめて下さい。仲良くしましょうよ」
 「そうだぞ。Bloody rose。一緒に任務するんだから、冷たい態度をやめなさい」
「・・・・・その任務とは、なんですか?」
「Bloody roseさん、今の間は、なんですか?受け入れてない感じですよね」
組織の人間で、こんなに話しかけてくるのは、珍しい。話しかけてきたのは、殺し屋として訓練の教育係。その教育係は、家庭教師でもあった。その人とボスだけだ。でも、教育係は、仕事のため話しかけているだけで、他の奴と同じように怖がっていた。今は、その教育係と顔を合わせても、話すことはない。
「owl、うるさい」
今までの経験上、睨めば黙ると思っていた。
「Bloody roseさん、睨まないで下さいよ。美人に睨まれると怖いです。美人なのに、もったいないですよ」
「Bloody rose、冷たい態度をやめろと言っただろ。やめないなら任務から外すぞ」
ボスは、少し声を低くして、強く言った。
「・・・・・かしこまりました。申し訳ございません」
ボスに言われた通りに、冷たい態度をやめる。

  「では、本題の任務だが、ターゲットは、この資産家と専属の殺し屋だ。この資産家は、骨董品好きでな。多くのコレクションがある。でも、欲しい骨董品を別の人が持っていて、金で解決しないときは、その所持してる人を、殺すんだ」 
資料に目を通しながら、ボスの話に耳を傾ける。
「ここまで聞いたら、1人でも任務できる話だと思うだろう。しかし、帰ってこない・・・。君達が、他の任務してるときに、何人か依頼してる。その人達が帰ってこない。殺されてる」
資料から、ボスに視線を移す。隣のowlは、息を呑んだ。そんな私達を、ボスは、一瞥して話を続けた。
「どうやら今回のターゲットは、専属の殺し屋を雇っている。人数は不明。怪しまれたら殺される。資産家の周りの護衛してる奴にも、殺し屋が紛れている。専属の殺し屋は、相当手練ている。だから、共同任務にしたんだ」
ボスの話が終わると、少しの間、沈黙が流れる。
「状況は分かりました。owl、お前この世界に来て、どれくらいだ?ランクは?」
急に話を振られたowlは、驚いたようにこっちを見た。さっきの話に動揺してるのか、顔色が良くない。質問の回答はまだだが、コイツと組まない方がいいのではないかと、思ってしまう。
「この世界に入ったのは、2年前です。ランクは・・・まだ入ってません・・・。もう少しで、入りそうなんです」
俯きながら答えるowl。一瞬こちらを見たowlには、不安な色が滲んでいた。
殺し屋のランクは、全国100人の枠しかない。
「ボス。話になりません。共同任務の相手が、ランクインしていない奴なんて。ただの足でまといになるのは、目に見えてます。1人で取り組んだ方がマシです。どうしても、共同任務と言うのなら、ランクインしてる奴にして下さい」
組まされるこっちの身も考えてほしいと、思いながらボスに抗議する。
ボスの回答は、耳を疑う言葉であった。
「あいにく、他の人は、別の任務中なんだよ。確かに、彼は経験は浅いし、ランクインもしてない。でも、Bloody roseに1人で任務に行かせるのは、私は気が気じゃない。だから、Bloody roseには、owlの教育係になってほしい」
「は?教育係ですか?私は、大学に通わないといけないですし、owlを使えるようにしたいなら、他の奴にして下さい。誰かが合間に見ればいいのでは。いないなら、ボスでもいいのでは?現役引退しても、強いと聞いてますよ」
「君、言うねえ。他の人に取っ換え引っ換えになると、教え方も違ってowlにとって、やりにくくなる。それに私は、暇ではない。この任務は急ぎではないから、大学生活の両立で悪いが、owlに教えてくれ。Bloody roseに教えてもらえれば、組織で今後、重要人物になり、戦力になる」
「・・・」
大学生活も面倒だと思っているのに、さらに教育係なんて。なぜ、面倒なことばかり。
【二度あることは三度ある】と言う、ことわざがあるが、3度目はないことを願う。
   「Bloody roseさん」
横から声をかけてくるowlに、視線だけ向ける。
「俺、Bloody roseさんの、足でまといにならないように、頑張ります。特訓に耐えて、戦力になるように、努力します!」
owlの意思は固いようだ。絶対に諦めないと言う目。しばらくowlを見た後、ボスに視線を移した。
   「ボス、私に教育係と言うなら、条件があります」
「なんだ?」
「私のやり方に口出ししないで下さい。owlを教育しても、使えるようにならないなら、ボスがなんと言おうと、owlとは組みません。そのときも、共同任務と言うなら、使える奴にして下さい」
「・・・分かった」
ボスは、反論しなかった。自信があるのか、それとも、別の理由があるのか。とりあえず、条件は呑んでくれた。
あとは、owl次第だ。
私はowlに視線を戻した。
「owl、さっきボスに言ったように、使えるようにならないなら、切り捨てる。それと、私のやり方は、スパルタだから、弱音を吐いたり、泣き言を言ったら捨てる」
「分かりました。俺は、諦めが悪いんです。それが、自分の長所と思ってます」
諦めが悪いか。長所とも言えるが、場合によってはタチが悪いな。
「そう、なら早速特訓するから」
「はい!」
威勢のいい返事が、耳元で響いた。
やっぱり、owlはうるさい。
こうして、owlの教育と大学生活との両立が、始まることになった。

 
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