ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第3章

友達

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 今は、大学の屋上にいる。1人のときは、いつもいる場所。構内は、視線が多い。
 修が死んでから、彼が、麻薬売人であることが公表された。
彼は、人付き合いも良かったし、人気者だった。でも、麻薬の売人と分かった時点で、彼の友人や好意のあった女子達は、手のひらを返したように、非難した。
非難されることをしてた事実は、変わらない。
 でも、売人ではない、ただの大学生として、皆と楽しんだ時間もあったはずだ。そんな時間さえも消されてしまうのか。
あまり、人付き合いをしてない私には、よく分からないが、友情とか好意的な気持ちは、簡単に壊れるんだな。

 そんなことを考えてると、ポケットに入れてたスマホが震えた。
震えたスマホは、学校用のだ。
着信相手を見ると、真理奈と表示されている。少しの間だけ画面を見つめ、電話に出なかった。
 真理奈は、同じ講義のときは隣に座るし、空き時間があれば、付きまとってくる。
お節介だなと、何度も思っている。
何度か鳴った電話が切れた。5分後また、スマホが震え、画面を見れば、さっきと同じ真理奈と表示される。これで、また出なかったら、会ったときに、うるさそうだ。
しかたなく電話に出る。
「・・・もしもし」
「やっと出たー!」
思わず、スマホを耳元から離す。
前言撤回。1回出なかっただけで、うるさい。
「紅音!なんで、さっき電話出なかったの?それより今どこ?食堂行こうよ!」
次から次へと聞こえてくる言葉。私に、かまわなくても、琉斗と、イチャついていればいいのに。真理奈は、気づいてるか知らないが、私にかまっているときに、琉斗が私を睨んでいる。
「ごめん。気づかなかった。今から食堂行くよ」
それだけ言って、電話を切った。
今のところ、楽しいと感じていない大学生活。
知り合いの、お節介な奴と執着心の強い奴と、お昼ご飯を食べるために、食堂に向かった。

 食堂に着くと、すでに真理奈と琉斗が来ていた。私に気づいた真理奈が、笑顔で手を振る。私も手を振り返し、カレーを注文し、2人に向かい合うように座った。
   「ねえ、前から思っていたんだけど、紅音って講義がないとき、どこにいるの?」
「その辺」
「その辺って?」
「決まってない」
「なにそれ」
普段いる場所が、気になってる真理奈だが、居場所なんて教えたら、1人の時間がなくなる。
適当な答えに可笑しかったのか笑いながら、言葉を続ける真理奈。

   「そういえば、さっき琉斗と話してたんだけど、もうすぐ夏休みでしょ。海に行かない?」
「海?2人で行ってきなよ」
真理奈は、不満なのか口を尖らせる。
「どうして?海嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど、私がいたら、邪魔でしょ。2人の方が、楽しめると思うよ」
「邪魔じゃないよ。だって、友達だよ。一緒にいて楽しくない相手なら、誘わないよ」
真理奈の言葉に、耳を疑う。
「友達?」
先程の言葉が、聞き間違いではないか。
そう思って、聞き返した。
「そうだよ。紅音は、そう思ってないの?あたし達は、思ってるよ。紅音は、無表情だけど、周りを気にかけてくれるし、助けてくれるじゃない。ほら、この間の階段のときもそうでしょ。
琉斗は女嫌いだし、あたしが、紅音のところに行くから、付いてくると思ってない?実際は、ちょっと違うよ。最初は、付いてくるだけだったけど、この間言ってたんだよ。紅音は、真理奈と同じで、他の女とは違う。友達としてなら、良いかもしれないって。あとは、勘違いさせちゃう目付きを、やめてくれればね」
「真理奈、それは言うなよ!」
こちらを一瞥した後、わざとらしい咳払いをして、琉斗は言った。
「確かに、最初は、真理奈が紅音のところに行くから、付いていくだけだった。でも、紅音は、自分の外見で気取ることをしないし、さりげなく、周りを助けてくれるときがある。さっき言ってた階段のときだって、俺は、真理奈の隣にいたのに守れなかった。でも近くにいた紅音が、身を呈して守ってくれた。あのときは、言えなかったが、怪我してないか?俺達に気遣って、怪我してないって言ってないか?
それと、睨んでしまったのは、真理奈は、よく紅音の話をするし、かまうから嫉妬と言うか・・・。とにかく、これからは、気をつける」
琉斗は、不器用なところが、あるんだな。
一般人が、階段から落ちそうになった真理奈を助けたら、上手く受け身をとれなかっただろう。
「階段のときのことは、本当に大丈夫。ただ・・・友達と言うものが、よく分からない。どこから始まりなのか・・・・・。今までいなかったから」
「「・・・・・」」
学校生活を、ろくに送ってこなかったから。
両親が、殺される前は学校に通ってた。そのときに、友達はいたが、今は、どうしてるか知らない。殺し屋の世界に入ってから、顔も名前も忘れてしまった。過去にいても、友達がどう言うものかなんて、分からなくなってしまった。もう、過去の友達は、友達とは言えない。
 少しの間、沈黙が流れる。同情されているのだろうか。
先に沈黙を破ったのは、意外にも、琉斗だった。
「どこからが始まりなんてない。気づいたら、友達になってる。そう言うもんだよ」
「そうだよ!あたし達は、紅音のことを、友達と思ってるよ。できれば、もっと仲良くなりたいし、親友って思ってもらえるように、頑張る!」
私は、良い2人組に出会えたのかな。今までは、知り合いと思っていた。卒業までは、一緒にいられない。それでも、友達と思えれば、一時でも、学校生活が楽しく思えるんだろうか。
真理奈が言う、親友になれるだろうか。
 2人とも、私が殺し屋と知ったら、すぐに手のひらを返して、怖がるだろう。もちろん、2人に正体は明かさない。
ただの友達ごっこ。遊びになるかもしれない。
でも、これ以上否定しては、今後の学校生活に支障が出る。
「そっか」
今は、その言葉しか浮かばなかった。
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