ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第3章

共同任務実行

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   「どうですか?似合います?」
「・・・似合っている」
「その間は、なんですか?!あと、その目」
「似合っているのは本当だ。それに、元々こう言う目だ」
「目に関しては嘘だ!」
「失礼な奴だな。お前に、そう言う趣味があったとは。面白い」
「全然嬉しくないんですけど!?趣味ではありません!」
目の前には、女の服を着て、パーマのかかった焦げ茶の髪が、セミロングの長さまであるウィッグを被っている姿。
女装しているのは、共同任務するowl。
嬉しくないと言いながら、スカートを掴みクルっと回る姿を見ると、案外、本人は、気に入ってるのではないかと思っている。
 今回の作戦は、女装したowlが、住み込みのメイドとして働く。働きながら、内部情報を集めてもらう。
本当は、私が住み込みで働こうと思ったが、ボスとowlからとめられた。
「君は、友達との付き合いがあるし、外見的に目立つからダメだ」
「付き合いなら断ればいいです。私は、外見で目立ちません。外見ならowlが、目立つではありませんか」
と意見すると、横からowlの声が聞こえた。
「ダメですよ。付き合いは大事です。せっかく、Bloody roseさんと、仲良くしてくれる人が現れたんですから!それに、外見なら俺の方が、目立ちません」
「・・・それで、お前が女装を?」
「はい」
そう言うわけで、現在に至る。
owlは細身のため、化粧とウィッグがあれば大丈夫だ。
あとは、屋敷に送り込むだけ。

「owl」
「なんですか?」
「私が、学校に行ってる間に何してる」
「ちゃんと自主練してますよ」
「・・・・・そうか」
owlはなぜ、そんなことを聞かれるのか分からないといった感じだ。
「なんでもない。明日から潜入だから、もう休め」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
owlが、部屋を出て行ったドアを見つめた。
一方owlは部屋を出て、部屋から離れると、深い溜め息をついた。

***
俺は、owl。今、女性用のウィッグと服を身に付けてる。髪はボサボサで、服は薄汚れている。この状態で、ターゲットの屋敷の前にいる計画だ。
 目的地に向かうまでの間、昨日のBloody roseさんとの会話を思い出していた。
Bloody roseさんが、昼の生活が始まってから、監視が入ってる。ボスの命令によって。
俺も見張り役の1人。日中、気づいている様子を見せないため、バレていないと思っていた。
だけど違った。わざと、気づかないフリをしてたんだ。きっと、ボスの命令で行われてることも、分かってるかもしれない。
でも、組織の人間は、ボスに逆らえない。それは、Bloody roseさんも対象である。だけど、彼女の場合は、組織の1人だからの理由だけではない気がする。
まるで、彼女はボスの操り人形みたいだ。

 目的地から離れ、人目のない場所で車を降り、ボロボロの格好で歩いた。目的地に近づくにつれて、人目が増えヒソヒソ話す声が聞こえるが無視した。目的地まで辿り着き、インターホンを鳴らし、門の前に座り込む。
「はい」
インターホンから、屋敷の男の使用人が出るが、応答しない俺に、不審に思っている。
「・・・どなた様ですか?」
再度、呼びかけがあったときに、門を揺らしたり、叩いたりした。
すると、インターホンが切られる。
しばらくすると、屋敷のドアが開き、1人の男が現れる。
さっきの使用人の男だろうか。歳は、中年を過ぎた年頃だな。
近づいた男は門を開け、声をかけてきた。
「一体何の用ですか?こんなところに、座り込まれても困ります」
インターホンで聞いた声と同じだ。次の瞬間、男の服を握ると驚いている。
「な!?」
「・・・お願いです・・・助けて・・・下さい・・夫から・・・逃げて・・・きました・・・少しの間・・だけでいい・・・匿って・・下さい」
涙を流しながら、使用人の男を見上げて頼んだ。
使用人の男は、俺の言葉を聞くと、すぐに目を逸らし、こう続けた。
「私では、判断致しかねます。ご主人様に確認するので、お待ち下さい」
そう言って、門を閉め、屋敷の中に戻ってしまった。
本当に上手くいくだろうか。Bloody roseさんに言われた通りに、演技したが、これで、住み込みのメイドで働けるのか?
Bloody roseさんは、多くの任務を行っているから、作戦も完璧と思いたいが、早く屋敷の中に入りたい。
今も人目に付きながら、ボロボロの格好で、涙を流し、悲劇のヒロインみたいに演じるのを終わりたい。
そう思っていると、ドアが開く音が聞こた。涙を隠すように、顔を両手で覆っているが、指の隙間から見えるのは、2人。1人は先程の男。その男の先頭を歩くのは、ここの主人だ。歳は、中年ぐらいだ。
俺のところまで来ると、主人と思われる人から、声をかけられた。
「顔を上げなさい」
言われた通りに顔を上げ、主人を見る。この主人は、俺を哀れなものを見るような目で、見下ろしている。
「田中から事情は聞いた。ひとまず、ここは目立つから、中に入りなさい」
さっきの男は、田中と言うのか。そう思いながら頷き、立ち上がると、主人・・・今回のターゲットの後ろを歩いた。

 屋敷のに入ると、豪華な部屋に通された。
主人に座るように促され、椅子に腰を降ろす。
そこに田中が、冷たいアイスティーと洋菓子を用意して入室した後、用が終わると、すぐに出て行った。
「さあ、好きに飲食してくれ」
俺は、一礼すると、アイスティーを何口飲んだ。
「ありがとうございます。ここに来るまで、ロクに飲食できず、喉も乾いていたので、助かりました。申し遅れました。私は、安藤レミと申します」
「いやいや、それは、かまわない。それより、ご主人に追われているようだね」
主人の言葉に、俺は、肩を大きく揺らした。
「あ、すまない。君にとっては、辛い事情だな」
俺は、右手で左腕を握り、話し始めた。
「じつは、私、夫からDVを受けていて、耐えられなくなり、夫の目を盗んで逃げてきました。逃げてる間も、いつ、夫に見つかるか不安です。
あの・・・差し出がましいお願いと重々承知しています。先程、田中さんには、少しの間だけ匿ってほしいとお願いしましたが、私をここで、住み込みで働かせて下さい。お給料はいりません。ただ、また夫の元に戻るのも、見つかるのも怖いのです。元々、夫は外面は良いので、実家に帰っても、私の話を、両親は信じてくれません。もう、行く場所がないんです。どうかお願いします」
俺は、涙目になりながら話した後、頭を下げた。
主人は、しばらく沈黙した後、溜め息をつく。
「顔を上げなさい。そこまで言われると、しかたないな。君の境遇を考えると、放り出すことはできないし、ちょうど、メイドを1人求人出そうと思っててね。その仕事でよければ、君の願いを叶えられるが、どうだろうか」
「はい!ありがとうございます!」
「じゃあ、疲れているだろうから。仕事は3日後。それまでゆっくりしてなさい」
主人は、俺の肩に手を置いた。俺は、見逃さなかった。主人の目は、下心が出ていたことを。
鳥肌が立ちそうなのを、我慢した。
「いえ、そんなに休んでられないので、明日から働きます」
「そうかい?じゃあ、部屋を田中に案内させるよ」
主人は、残念そうな表情をした後、田中を呼ぶとすぐにやって来た。
部屋を案内された後、部屋に防犯カメラや盗聴器がないか調べた。何も仕込まれてなくて安堵する。
あの主人、完全に俺が、女だと思い込んでる。だけど、俺は男だ。主人に、襲われないようにしないとな。
Bloody roseさんは、任務のためなら、誰かと寝たりするんだろうか。
そう考えると、複雑だ。
俺は頭を振り、ベッドにダイブする。
Bloody roseさんの言った通りにしたら、住み込みで働くことができた。
潜入するのが、Bloody roseさんじゃなくて、良かったと思う。
この後は、俺の働き次第で、任務に関わってくるため気を引き締めた。

 次の日、事前に渡されていた、メイド服を着て、ウィッグとメイクもバッチリ決め、部屋を出た。
屋敷内をウロウロしていると、後ろから声をかけられた。
「あなたが、新人の安藤さん?」
後ろを振り返ると、中年くらいの女が立っている。
「はい。今日から働く、安藤レミです。よろしくお願いします致します」
「私は、メイド長の山田よ。よろしく。今からメイドの仕事を教えるから」
その女は、俺を上から下まで見て、小声でこう言ったことを聞き逃さなかった。
「顔で売り込んだんでしょ」
それに対して「顔ですけど、なにか?」と心の中で返してやった。
山田が、俺の横を通り過ぎるので、その後を付いていく。
   「~これがメイドの一通りの仕事よ。とりあえず、安藤さんは、エントランスの掃除をお願いね」
「はい」
「あ、そうだわ。言い忘れてた。3階の奥の部屋と地下室には、立ち寄らないで」
山田は、深刻な顔をしていた。
「どうしてですか?」
「理由は知らなくていいの。ここで長く働きたいなら、言うことを聞くものよ」
そう言って、山田は去って行った。
きっと、今言われた禁じられた部屋に、何かある。
今すぐにでも、潜入して内情を知りたいが、この屋敷には、至るところに監視カメラがある。それに、どこに専属の殺し屋がいるか分からないため、迂闊に動けない。
俺は、掃除を一生懸命頑張っている女を演じながら、今後のことを考えた。

 俺は、Bloody roseさんに、禁じられている場所を報告した。彼女は、「そうか」と一言。
会話が終了したと思い、電話を切ろうとした。
「無理をするな」
と小さい声で言われた後、電話を切られた。
俺は思う。Bloody roseさんは、本当は優しい人だ。たぶん、認めてくれた人には。
実際、初対面のときより、口数も増え、態度も少し柔らかくなった。でも、たまに辛辣な言葉がくる。
昼間の学校生活でも、無表情で分かりにくいが、前より、楽しんでいるように見えた。
上手く伝えられないだけだ。不器用な人だ。
きっと、本人に言ったら、睨まれて、辛辣な言葉がくるだろうから言わない。
俺は、微かに笑った後、仕事に戻った。

 俺がこの屋敷に来て、数日経った頃だ。仕事をしているときに、主人から声をかけられた。
「安藤さん。仕事には、慣れてきたかな」
「ご主人様、おはようございます。はい。だいぶ慣れました」
「それは良かった。ところで、今日の夕食一緒にどうだろう」
「え?」
「ほら、このところ、私もバタバタして、君と話す機会もなかっただろう。新しい使用人として、歓迎会のようなものだよ」
「でも、私のような者が・・・」
「いいから。夕食は、私の部屋でとろう。夕食の準備して持って来てくれ」
そのまま、主人は、どっかに行ってしまった。
これは、チャンスかもしれない。上手くいけば、何か情報を引き出せるかもしれない。
俺は、気を引き締めて、仕事を再開した。
 約束の時間になり、夕食が乗っているカートを押しながら、主人の部屋の前に立ち、ノックをする。許可が出たため、入室し、料理の載った皿をテーブルに並べる。
「あれ?君の分は?」
「申し訳ありません。昼食の何かが当たってしまって、あまり、体調が良くないんです。せっかく誘っていただいたのに・・・。なので、せめてもの思いですが、少しくらいなら、話し相手ができそうです」
「そうなのか・・・それは残念だ」
残念がる主人を見ながら思った。
魂胆は見え見えなんだよ。エロオヤジ。俺の分に、睡眠薬が入っているのは知っている。寝たところを襲うつもりなんだろ。
心で思っていることは隠し、笑顔を作り、席に座る。
「ご主人様。私達は、お互いのことを知りません。主人と使用人の関係なので、仲良くは難しいかもしれません。せめて、世間話くらいできたらいいなと思います」
「そうだね」
「ご主人様、趣味はなんですか?」
「私は、ゴルフや骨董品集めだね」
「わあ!どちらもお金かかりますね。骨董品は、もう桁違いですね」
「もちろん。厳重に保管してるよ」
「盗まれたら大変ですもんね。管理が大変そうです」
「ああ。だから、セキュリティも、しっかりしてるよ。所有者も狙われやすいから、私自身にも。まあ、ただのオヤジだけど、一応ね。いざとなれば、見えない場所にも対策は、バッチリだ」
「見えない場所にも?」
「あ、今のは忘れてくれ。酒に酔って、違う話と混ざってしまった。それより、次は君の話をしてくれ」
「そうですね。私の趣味は・・・」
適当に話を作り、その場を盛り上げ、部屋を退出した。
 自室に戻った後、Bloody roseさんに報告した。3階の奥の部屋は、骨董品がある。地下室には、専属を殺し屋がいる可能性が高い。ただ人数は不明。
あくまで推測なため、可能なら確かめると言ったら、
「危ないからやめろ。こっちでも、できる限りの情報を集めようとしてる。あとは、日付を決めて襲撃する」
と言われた。
しかし俺は、
「せっかく潜入してるのだから、確かな情報がほしい」
と言って聞かなかった。
しばらく、口論になったが、俺は、Bloody roseさんの電話を一方的に切った。
きっと、襲撃でもBloody roseさんの方が、俺より有利だ。彼女ばかり、負担をかけさせたくないから、せめて、俺にできることをしたい。
その気持ちでいっぱいだ。
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