ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第5章

分からない気持ち

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 owlと出かけてから、2週間経った。その間、学校を休み、複数の任務を完了させた。
今日は、2週間ぶりの学校だ。きっと、真理奈は翼のことを聞いてくるだろう。真理奈の性格上きっとそうだ。
 私は、大学に足を踏み入れ、講義する教室に向かった。教室に入り、真理奈と琉斗のところまで、足を進める。
「おはよう」
声をかければ、2人が私に気づいた。
「おはよう!体調は、もう大丈夫なの?」
「あまり無理するなよ」
この2週間、私は体調を崩したと嘘をついて、学校休んでいた。
「うん。もう大丈夫。心配かけてごめんね」
「ううん。それは気にしなくていいよ。それより、聞きたいことがある」
やっぱり、きたか。予想はしてたけど、何て答えようかな。
   「あのさ、2週間前に会った翼は、本当に、同僚だけの関係なの?」
「そうだよ」
「なんか、違う感じがした」
真理奈は、探るような視線で見てくる。琉斗は、何も言わないが、真理奈と同じことを思ってる。
真理奈に言われた後、2週間前のowlを思い出していた。
   「そう?じゃあ、仲間と思っているかもね。前に一緒に仕事してたから」
「この間会ったとき、紅音が翼を見る目は、仲間に向ける目だった。でも、翼は、それだけじゃなかった。気になる人に向ける目をしていた」
今まで、黙っていた琉斗が、会話に入ってきた。
owlから、気になる人に向ける目?
owlは、私のことを憧れとか、役に立ちたいとかの気持ちが強いだけ。恋愛感情なんてない。
「好きとか、告白されたことないの?」
私が黙っていると、真理奈から的のついた質問。
「好きとは、言われたことあるよ。内容が、憧れとか役に立ちたいとかの理由だから、恋愛とは違うよ。恋愛の好きって真理奈と琉斗のような感じでしょ」
2人は顔を見合わせた。そして、真理奈は言った。
「あたし達が全てではないよ。色んな形があるから。紅音は、恋愛したことはあるの?」
「ないよ」
「翼のこと、もう少し考えてもいいと思うぞ。恋愛で分からないことあれば、相談乗るから」
「そうそう。話変わるけど、今度ぶどう狩りに行こうと思っているの。紅音は誘おうと思っていたけど、良かったら、翼もどうかな?聞いてみて」
琉斗には、翼のことを言われ、真理奈には、ぶどう狩りに翼を誘うように言われてしまった。
問題が、1つ増えてしまったな。

 この間の買い物のことを思い出す。
「紅音は、アクセサリー付けないの?」
「そうだね」
「なんで?」
「なんでって、買い物は普段しないし、欲しいとも思わないから」
「ふーん」
翼はそう言って、店内を歩き商品を見ていた。
   「紅音これ見て」
私もその辺の商品を見てたら、翼に呼ばれたので近づく。
「これ、良いんじゃない?」
「良いと思うけど、これペア物だよ」
「そうだよ。付けるのは、俺と紅音」
「ペア物ってカップルが付ける物じゃないの?」
「カップルじゃなくても、仲間でも良いじゃないか」
「・・・世間のルールに縛られなくてもいいか」
「決まりだな。買ってくる」
そのときのowlは、嬉しそうに笑っていた。
渡されたネックレスを私は付けているが、owlは付けてるのだろうか。
 この2週間、ほとんど会ってない。会ってもowlは、会釈するだけで何も話さず、すぐに去ってしまう。
今まで追い払っても、話かけてくるのに、急になくなると、寂しく感じてしまう。

 真理奈と琉斗と一緒にいる1日が終わった。
今は、組織の訓練所の外の窓から、ある人物を眺めていた。周りの奴は、私を恐ろしがって近寄らない。訓練所の中にいた人物も私に気づくと、顔を真っ青にしてその場から逃げる。
そうすると、ある人物だけ、訓練所の中に残っている。その人物は、私に気づくと、会釈だけして、また訓練を続ける。私は、近くの椅子に座り、終わるまでその姿を眺めていた。訓練が終わり、その人物は足早に去ろうとする。
「owl」
その人物を呼び止めた。
「なんですか」 
その場には止まるが、背を向けたまま、こちらを見ようとしない。
「話があるから。私の部屋に来い」
そう言って、私が立ち上がると、owlは私の方を向くが、目を合わせようとしない。
でも、歩き始めると、owlは少し距離を空けて付いてきた。

 私の部屋に着き、owlを椅子に座らせる。私も椅子に座り、owlの様子を伺うが、先程と変わらず、目を合わせない。
「owl」
「はい」
そこで、owlと目が合ったが、表情は浮かない。
「最近、私のこと避けているよな」
「避けていません」
「嘘をつくな。あんなに分かりやすい態度はない。今までは、追い払っても話かけてきたくせに。今は会釈したら、そのまま去ってしまうじゃないか」
「・・・」
「恋愛しないって言ったから、避けているのか?仲間ではダメなのか?正直に言うと、お前と絡むのは楽しいし、暇つぶしに良かった。今は、それがないから・・・寂しい」
「え・・・」
「・・・別に。少しだけ」
「やっぱり素直じゃない人ですね」
寂しいと言ったとき、owlは驚いていた。自分がそう思われているとは、考えていなかったんだろう。
私も、今回のことで分かったことだ。でも、聞き返されると、素直になれずに素っ気ない態度になってしまう。
   「ネックレス付けてくれてるんですね」
そう言って、owlも、ペアのネックレスを付けてるのを見せてくれた。
「仲間だから」
「そうですか・・・Bloody roseさんのことを、俺が避けていた理由は、恋愛のこともありますけど、1番の理由は、復讐を果たした、あなたの今後です」
「・・・」
「殺し屋を辞めるなら、俺は止めません。でも、生きてほしいんです」
懇願しているowlに、気持ちが少し揺れた気がした。
「・・・そう言われても、今後のことなんて分からない。最後が最悪でも、それが運命として受け入れる」
「確かに、今後のことも、最後にどうなるかも誰にも分かりません。でも、最悪な最後は嫌だ。生きてほしい。そう言う運命になってほしいです。あなたが死んだら、俺は悲しいです。だから、あなたが生きるのをやめるって考えたら、今まで通りに接するのが、辛くて避けてしまいました」
owlは真剣な顔で、真っ直ぐ私の目を見た。
私が死んだら、悲しむ人がいるんだな。
「それは、そのときにならないと、分からない。お前の気持ちが、そのときも変わらないなら、私が生きるのをやめたときに・・・とめればいい」
「前に、諦めが悪いと言ったでしょう。とめてみせますよ」
「・・・そうか」
「それと、もう1つも諦めませんよ」
その言葉は、owlが自分だけに聞こえるように呟いたため、私には聞こえなかった。

   「ところで、話がだいぶ変わるが、ぶどう好きか?」
「変わりすぎですよ。ぶどう好きです」
owlは、いつも見る笑顔で、私も嬉しく感じた。
「じつは、真理奈と琉斗から、今度行くぶどう狩りに誘われたんだ。それで、真理奈が良かったら、お前もってことで、誘ってくれと言われた」
「なぜ、俺も?1回しか会ってないですし、そんなに仲良くもないですよ」
「さあ?無理にとは言わない。行くのか、行かないのか、どっちだ?」
「・・・・・行きます」
owlは、しばらく考えてから出した答え。
たぶん、真理奈は、owlと過ごす時間を増やして、私が、owlに対する気持ちを考えさせようとしている。
でも、それはowlには、言わない。
こうして、4人でのぶどう狩りが行くことが決まった。
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