ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第6章

交渉

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   「せっかく、また会えたのに、少しは笑えないんですか~?美人なのに、もったいないですよ~」
「笑ってなんになる」
「その場が和むとか?」
「普段から笑うことは、ほとんどない。お前の前で笑って、場を和ませる必要は、私にはない」
「辛辣な言葉しか言わないですよね。そのネックレスとお揃いの人と同じように接してみて下さいよ」
「断る。だいたい、お前の用件はなんだ」
「用件ですか。あ~特にないです。じゃあ、ご飯を一緒に食べに行くとかにしますか」
「くだらない。帰る」
今、目の前にいるのはdeadly poisonだ。火急の用と言うから来たのに。何もないじゃないか。そもそも、連絡先を私のボスから聞いたとは。ボスも何を考えている。外部の奴なのに。後で文句を言ってやる。
   「じゃあ、この腕時計とピアスの話については、どうですか?」
現在、真夜中の公園にいる。deadly poisonは、ベンチに座り片膝を立てて頬杖をつき、何度も見た不敵な笑みで、こっちを見ている。私は、目の前で彼を、見下ろしていた。
「なに」
「いつも落ち着いていた、あなたが様子が変でしたね~。前に見たことがある気がすると仰っていましたが、本当は、別の理由だと俺は考えてます」
「別の理由はない」 
「本当ですか?」
怪訝な顔を向けてくるが、悟られないように、無表情を貫き通している。
「事の次第によっては、腕時計とピアスを渡してもいいと考えてるんですよ。じゃあ、これならどうです?そのネックレスのお揃いの相手に、会わせて下さいよ~。傷つけたりしません」
「それがお前が言う、事の次第か」
「はい。まあ、俺の印象はあなたにとっては、悪いんでしょうね。サイコパスって言われたし。否定はしません。むしろ堂々と言われて、新鮮な感覚でしたよ~。俺も、あなたと同じ怖がられている。似た者同士仲良くやっていきませんか~?今後のためにも」
「私とお前は違う。仲良くするつもりもない。ネックレスの相手も、会わせない」
「交渉失敗ですか。でも、俺とあなたの何が違うんですか」
「お前は、殺すことを楽しんでいる。殺すことは否定しない。ただ、私は、相手が一思いに死ねるようにしている。お前は、痛ぶりながら殺す。周りから怖がられているで、一緒にするな」
「あなたとは、一生分かり合えない気がしてきました。残念です」
deadly poisonは溜め息をつき、本当に残念そうな顔をしている。
「お前と関わることがあっても、任務のときだけだ。それ以外で、もう私を呼び出すな」
そう言って、deadly poisonに、背を向けて歩き出した。
「後悔しても知りませんよ」
後ろから聞こえたが、取り合わずに、夜の闇に姿を消した。
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