ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第6章

一部の闇

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 threadから連絡があった。依頼していた内容が、だいたい分かった。deadly poisonは、今は母と2人暮らし。表向きはITの社員でカモフラージュしている。
本名は、新堂透。
彼の家は、本人が言った通り、殺し屋の家系だ。配偶者は、同業者のときもあるし、そうじゃないときもある。
彼の父は、deadly poisonと同じ組織に所属していたが、一時期だけ別の組織にいたらしい。さらに、他にも移動した人達がいたようだ。移動先がどこなのかは、まるで、靄がかかっているみたいな感じで、threadの力でも分からないようだ。彼の父も息子と同じように、殺し屋ランキングの上位になるほどの実力の持ち主。でも、17年前に私の両親が殺されて、数ヵ月後に死んでいる。それは、他にも移動した人達も同じ時期に死んでいる。表向きは、自殺で処理されたらしいが、家族や同業者からは、納得できない声があったようだ。しかし、他殺の証拠がないため、捜査は早々に終わった。殺された人達の名前とdeadly poisonの家を教えてもらった。
 連絡内容を聞いて思った。deadly poisonの父親と、他に移動した人達は、実行犯で、黒幕は別にいる。同じ時期に、皆、同じ死因なんてありえない。きっと口封じされた。そうなると、黒幕は誰なのか?
移動先が分からないのは、黒幕に繋がってしまうからだろう。情報屋では、No.1のthreadでも分からないのだから、この世界で権力がある人物。threadに、これ以上この件に関しては、調べさせられないな。元々分からないのもあるが、深追いさせるのは、危険すぎる。threadまで、殺されてしまうかもしれない。すでに、危険なことに片足突っ込ませてしまったのは、私だ。依頼するときも躊躇った。でも、threadの言葉に甘えてしまった。
私のせいで、殺されるのは嫌だ。守らないといけない。私は、拳を握りしめ誓った。

 私は、変装してdeadly poisonの家に向かった。彼がいない時間帯を狙ってきた。
久しぶりに変装して、声も変えている。
 彼の母親は、ガーデニングが趣味なようだ。様々な花が植えられ、まるで小型の庭園だ。母親の姿は見えない。
deadly poisonには、ピアスの写真を見せてもらったが、自分の目で、直接見たかった。この姿で呼び出すのは不自然だし、宅配業者になりすますか。出直そうと思った。
「うちに何かご用?」
声の方に視線を向ければ、deadly poisonの母親だとすぐに分かった。耳元を見て。
私の母親のピアスだ。今すぐ耳から取り外したかった。それを堪えて、偽りの笑顔を浮かべた。
「失礼致しました。散歩の途中で見かけて、お宅の庭が、あまりにも素敵なので、見惚れていました。まるで庭園ですね」
「まあ、ありがとう。ガーデニングが趣味なのよ。ねえ、良かったら、お茶していかない?」
「せっかくのお誘いは嬉しいのですが、たまたま通っただけなので。この後、予定があるので、申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
「そう。それは残念だわ。私、息子と2人暮らしなの。この家は、大きいけど使用人もいないから、普段から1人なのよ。息子も家に帰るのは不定期だから、帰ってこない日もあるのよ。亡くなった主人と同じだわ。だから、少しの時間だけでも、話し相手がいれば良いなと思ったのよ」
母親は、寂しさが滲み出ていて、視線を落とした。
「また機会があれば、訪ねます」
「嬉しいわ。そのときは、時間に余裕があるときが、いいわね。ぜひ、お話したいわ」
ただの社交辞令で言ったのだが、彼の母親は、よほど嬉しかったのか目を輝かせている。
私は会釈をして、その場を立ち去った。
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