ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第7章

人質とdeadly poison

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 それからの日々、任務立て続けに続いて休む日がない。翼は同じ組織にいても、すれ違うこともなく、お互い連絡もしてない。向こうも任務があるし、連絡したら、会いたくなるから、あえてしない。そして、今夜も任務を終えて、組織に戻ろうとした。今日は早めに片付いたから、少しはゆっくり休めるだろうと考えていた。
 スマホを取り出すと、1件の添付ファイル付きのメールが届いている。メールを開けてみると、内容に驚いた。そして、すぐに指定された場所に向かった。
廃工場に辿り着いた。中に入ると、呼び出した人物が声をかけてきた。
「最近任務が立て続けのようですね。今日もあったのに、お疲れでしょう。せっかく早く終わったのに、こんな人質は見捨てて帰れば、少しはゆっくりできたのに。あなたのこと誤解してましたよ。本当は優しい人なんですね~。Bloody roseさん」
「deadly poison。人質なんて使って何を望んでいる。それと人質は無事か」
「今のところ無事ですよ」
deadly poisonは、大きな縦長の箱のようなものにかかっている布を取った。中には、手足を拘束され椅子に座らされているthreadがいた。
その箱は、ガラスでできているような感じで透明だ。threadは、私を見て何か言ってるが分からない。deadly poisonは、その箱のことを説明を始める。
「この箱は、防弾ガラスでできていて、防音になっているし、お互いの音は聞こえません。密室なんで煙も入りません。開けるには、破壊するか暗証番号を入れるかですね~」
そう言って、threadがいる箱の暗証番号を入力して、扉を開けた。
「Bloody roseなんで来た!俺のことは、ほっといて立ち去れ!なんとかする!てめえも、Bloody roseをどうするつもりだ!」
扉を開くとthreadの怒鳴り声が、廃工場内に響く。それを、うるさそうな表情を浮かべ、冷ややかな目でdeadly poisonは、見ていた。
「うるさい奴だ。人質は人質らしく、大人しくしてろ」
そう言って扉を閉めた。
「Bloody roseさん。俺があなたを呼び出したのは、戦いを申し込みです。No.1とNo.2の座を入れ替えましょう~。Bloody roseさんが勝てば、今のポジションは守られ、これも手に入ります。俺が勝てば、No.1の座を譲ってもらい、人質は殺します。あ、うっかりしてましたよ~。お返しするのは、これですよ~」
見せたのは、私の両親の形見。腕時計とピアスだ。
「なぜピアスを持っている。お前の母親が、毎日身に付けていると言っていただろう」
「確かに言いましたよ~。でも、寝ているときは外してます。それを、こっそり持ち出しました~。Bloody roseさん。あなたは、どちらにしろ断れないですよ。あなたが勝てば、よほど価値のある品物が手に入り、人質も助けられる。負ければ、人質は死ぬ。No.1の座を渡すのは、あなたにとっては、惜しくないでしょうね~。あなたの実力なら、また狙えそうですから。でも、自分のせいで誰かが死ぬのは嫌でしょう。だから、あなたは、ここに来た。本当は、ネックレスの相手を人質にしたかったんですけど、誰なのか分からなかった。だから、以前から交流の多いこの人にしたんですよ~」
「断れない状況を作ったんだな」
「言ったはずですよ~。後悔しても知らないって」
その顔は、笑顔でも目は全く笑ってなかった。
   「さて、戦いを始める前に、1つ教えてくれますか」
「なんだ」
「あなたのことを調べたんですよ。どうせ、あなたも同じことしていると思いますけどね。ただ、あなたの場合は、何も情報が出ない。どうしてですか。こっちもプロの情報屋に頼んでるんですよ。その情報屋が言ってました。まるで、靄がかかっているようだってね」
deadly poisonは、怪訝な顔で私をジロジロと見ている。
私の情報がない。それは、ボスが私が両親を殺した奴に、狙われているかもしれないからと言って、意図的にそうなっている。私は、意図的にされているとだけ言おうとして、黙った。最近、その言葉を何度か聞いた。threadの家族の死んだ場所。deadly poisonの父親や他に移動した奴らの移動先。threadの家族は違うが、そんなに私に関わることで、情報が分からないということが続くものか。私の情報を隠しているのは、ボスだ。
まさか、deadly poisonの父親や他の奴らの移動先は、うちの組織か?それを隠している?もしかして、threadの家族の事故を仕組んだのもボス?色々なことの黒幕は、全てボスなのか?そう考えると、ボスに疑心が生ずる。
「Bloody roseさん?」
黙っている私を、さらに不審がっている。
「私の情報が出ないのは、知らない」
「そうですか。まあ、いいですけどね~。ただの興味本位なんで。さて、この大切な腕時計とピアスを傷つかないように、この袋に入れて安全な場所に置くので待ってて下さい」
2つの品物を袋に入れた後、threadが監禁されている箱の扉を開け中に入れた。
   「さて、準備ができたんで始めましょうか~」
あのときと同じ顔だ。殺すことを楽しむ顔だ。そして、お互い武器を構えた。そして、相手との攻防戦が始まる。お互い銃やナイフを使っていくが、なかなか決着がつかない。武器が切れるのも時間の問題だと思った。そのとき、私が撃った銃弾が、threadがいる箱に当たる。防弾ガラスとは聞いていたが、私は、一瞬そちらを見てしまった。threadが、無事でいることを確認して、ホッとしたのも束の間。
「よそ見すると怪我しますよ~」
deadly poisonは、もう目の前にいた。そして、そのままナイフで切り付けてきた。
私は、躱したが腕を軽く切られた。
「だから言ったじゃないですか~。あの箱のことは、心配いりませんって。本当に俺のことを、信用していませんね~」
「お前を、信用するのは難しい」
「そうかもしれませんね。ただ・・・」
deadly poisonは、私ではなく、どこか遠くを見ている。その目は、寂しそうだ。この男が、そんな表情するのは意外だ。
それに、何かを言いかけてやめた。なんだ。
「もう、銃やナイフはやめにしましょう。お互い武器が切れる頃でしょ。日本刀は、使ったことありますか~?」
deadly poisonは、さっきの表情はすっかり消え、戦いが始まる前の表情に、戻っている。
「ある」
「良かった。じゃあ、これで決着つけましょうか~」
そのまま、日本刀が保管されているところまで行くと、そのうちの1本を、私に投げ渡した。そして、お互い鞘から刀を抜く。
「では、早速」
そして、刀が交じり合う。武器が変わっても、なかなか決着がつかない。それに、体の調子がおかしい。痺れて、動きにくくなってきている。それを見たdeadly poisonは攻撃をやめ、笑い始めた。
「ハハハ!やっと効いてきた」
「お前、さっきのナイフに何か塗ったな」
「心配しなくても、痺れ薬なんで死にませんよ~。No.1に勝負を挑むんですよ。ハンデが必要じゃないですか~」
「性格が悪い奴だな」
「ありがとうございます」
そして、そのまま刀が上にいき、振り下ろされる。動きにくい体に鞭を打ち、なんとか自分の刀を交じわせるが、思うように力が出ない。
deadly poisonは、交わっている刀にさらに力を入れる。自分の刀が押されていき、肩にくい込まれた。自分の血で服が汚れていく。
「痛いでしょう~。もう負けを認めましょうよ~。こんな俺でも、あなたを傷つけるのは、心苦しい」
まただ。いつもと違う。なぜ、そんな辛い顔をする。
私は、力を振り絞り、刀を押し戻していく。
その様子にdeadly poisonは驚く。刀を押し戻した後、相手の刀を薙ぎ払った。
「deadly poisonの負けだ。人質の解放と、腕時計とピアスを返してもらう」
「返してもらうか。やっぱり、あなたは・・・」
そのとき、後ろから何かが飛んでくるような音が聞こえた。それは、すぐに私を横切りdeadly poisonの肩に当たった。それは矢だ。後ろを振り向くが、すでに人の気配はなかった。
deadly poisonを見ると、倒れそうになるところを支え、そのまま座る。
「待ってろ。すぐに医者を呼ぶから」
スマホを取り出すため、ポケットに手を入れようとしたら、止められた。その代わり、小瓶を渡される。そして、もっと顔を近づけるように言われた。
「それは、痺れ薬の解毒薬だ。それに医者はいらない。これは毒矢だ。俺もたぶん、あの方に殺される。父を殺した奴と同じ奴に」
「どう言う意味だ」
「もう、あまり時間がない。黙って聞いてくれ。まず、俺の家の部屋に隠し扉がある。本棚を動かすと現れ、中に金庫がある。開け方は、あなたのスマホに送ってある。その中に、父が残した日記と俺宛ての手紙と土地の権利書がある。日記は、あなたが、保管してくれ。不要なら処分していい。俺宛ての手紙は読んでもいいが、処分してくれ。父の日記に、あの方の命令で、あなたのご両親を殺したこと。それぞれの品物を報酬として奪ったこと。そして、娘の名前が書いてある。それは、あなたのことだろう。向井彩葉。父を殺したあの方が、あなたも共通の復讐相手だから、本当は、一緒に手を組みたかった。だから勝負を申し込んで、あなたが負けたときに、言うつもりだった。勝負の結果が、どちらでも、人質解放と腕時計とピアスを返すつもりだった。その前に、あの方に目をつけられ、このザマだ。あの方が誰か分からないが、気をつけろ。勝手な頼みだが、あの方を殺してくれ。
あと、土地の権利書。あれは、母のために買った土地だ。母の夢は、ガーデニング施設を創って、たくさんの人が笑顔になってくれることだから。もう、母に会っているだろう?変装していたようだが、なんとなく分かったよ。あなたなら、上手く誤魔化して、その書類を渡せるだろう。そろそろ・・・時間の・・・ようだ・・。頼んだぞ・・・。Bloody rose・・別名・・・彩葉」
そして、deadly poisonは、死んでしまった。
私は、渡された小瓶の中身を飲み干し、もう一度deadly poisonを見る。
「deadly poison・・・いや、新堂透。あなたの頼みは、私が果たす。だから、安らかに眠れ」
そして、スマホに届いているメールを見る。やっぱり書いてあった。金庫の開け方と一緒に、threadが監禁されている箱の開け方の暗証番号。
 私は、threadがいる箱に暗証番号を入力し、扉を開き中に入る。
「thread大丈夫か?」
「俺は平気だ!それよりBloody rose大丈夫か!?怪我しているぞ!?」
私の腕と肩の怪我を見て、焦った表情を浮かべている。
「平気だ」
そう言って、拘束されているのを解放する。
「さて、行くか」
歩き出そうとしたら、threadが、自分のTシャツを破り、上着を脱いだ。Tシャツは腕、上着は肩に巻かれた。怪我とthreadを交互に見た。
「まずは、止血しろ。アイツは?」
threadはdeadly poisonを見た。
「死んだ」
「死んだ?矢が飛んできたが、誰だ?」
「・・・とりあえず行く場所があるから、ここを出るぞ。まずは、threadの情報屋に行く」
「あ、ああ」
私とthreadは、deadly poisonの遺体を残して、その場を離れた。threadの情報屋に向かいながら、deadly poisonの、今日までの会話や様子を思い返していた。
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