ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第7章

あの方への疑心

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 threadの店に着くと、まずは盗聴器やカメラがないか調べ、結果何もなかった。何もないなら良かった。それを後ろで何も言わずにthreadは見ていた。
「連絡するまで、ここにいてくれ」
そう言って、店を出ようとしたとき、腕を掴まれた。
「どこに行く」
「言えない」
「・・・とりあえず、怪我の手当てをさせろ。そして、また戻ってこい」
何も答えない私に、力が込められる。
戻ってこいと言われても、deadly poisonが言っていた【あの方】が誰か分からないのに、戻るのは危ない。確証がない。誰を信じるかを間違えれば、命取りになるかもしれないのに。
「とりあえず、手当てだけお願いする」
「戻ってこないのか」
「状況次第。とりあえず言えるのは、さっきの奴に関わることや、私のことは、もう調べるな」
「その理由も言えねえのか」
私は、頷いた。それを見たthreadは、複雑な表情をしていたが、それ以上は追求しなかった。
そして、そのまま手当てをしてくれた。私は、お礼を言って、deadly poisonの家に向かった。

 私は、deadly poisonの家に着くと、門を飛び越え、本人のベランダに降り立つ。窓は開いていた。もしかして、こうなることも想定をしていたのか。そう思いながら、教えてもらった隠し扉を開け、金庫から、日記、手紙、土地の権利書を回収した。その後、部屋を元通りにしてから、この家から出た。
threadの店から尾行がいないことは、確認している。私は、threadの店に戻らず、ある場所に向かった。
 その場所に着いて、まず日記から見た。そこには、deadly poisonの父親の日々の日記だ。家族のことや任務のことが書いてあった。それをパラパラ見ていた。
そして、見つけた。threadでも分からなかった移動先の場所。それは、うちの組織だ。移動対象になったメンバーが書いてある。皆、数ヶ月後に死んだ。
コイツらが、私の両親を殺した実行犯。私は日記を握りしめた。命令とはいえ、手にかけたのは変わらない。死んでいるが、許せるわけではない。
 私は、一旦深呼吸して、次のページを捲る。そのページは、両親を殺したこと、両親の形見の腕時計とピアスのこと、一人娘に逃げられたことが書いてあり、私の前の名前が書いてある。
両親の形見は【あの方】が、報酬金の一部として渡されたことが書いてある。そのページの隅にコードネームと名前が書いてある。その人物は、知っている奴だ。両親が、信頼できる人だと言ってよく家に来ていたし、病院に連れていったのも彼だ。
その後、組織に私を連れてきたのは、この男だ。そういえば、あの日以降見ていない。
でも【あの方】は、あの男ではない。当時の組織のトップも今のボスだ。この日記の【あの方】は、ボスを指しているのではないか。
では、なぜ、両親が信頼できる人と思っていた、この男のことが書いてある?この男が鍵を握っているのか?それなら、今どこにいる?そもそも、この男は生きているのか?
私は、他に情報はないか、日記に全て目を通したが、何もなかった。謎だったことが、少し明らかになったが、また謎が増え、溜め息をついた。
 次にdeadly poisonの手紙を見た。
『透へ
この手紙を読むときは、俺は、この世にいないだろう。俺は、あることに関わってしまった。最初は、悪いことになるとは、思っていなかったんだ。でも違った。あの話すら受けなければ、多少は、長生きできただろう。あの方は恐ろしい方だ。名を口にするのも恐ろしい。あの方の正体は言えないが、気をつけろ。透。俺と同じ世界に生きるなら、もしかして会うかもしれないからな。
それと、俺が身に付けていた、腕時計と妻が付けているピアス。あれは呪いだ。本当はいらなかった。捨てようと思ったが、あの方の目があるから、捨てることができずに身に付け、妻にもプレゼントした。あの任務で、向井彩葉が、どこかで生きているはずだ。彼女に会ったら、腕時計とピアスを返してくれ。本来、彼女が持つ物だ。
最後に、妻の夢を俺は、叶えてやれなかったから、透が叶えてくれ。頼んだぞ。
父より』
手紙は、処分してくれと言われたが、時期は言われなかった。全てが終わった後でいいだろう。
 次に土地の権利書を見た。随分大きな土地だな。父親に言われたのもあるだろうが、アイツは意外と・・・。
私は、それらを、ある場所に保管してその場を離れた。

 次に向かった場所は、deadly poisonと戦った廃工場だ。後処理は多少はしたが、全部はできていなかった。threadを店に帰さないといけないし、彼の家にも行かないといけなかった。それにここは、人気がないから、すぐに死体が見つかることはない。
しかし、中の様子を見て驚いた。中は、綺麗さっぱりになっている。deadly poisonの遺体、threadが監禁された箱、闘いで破壊されたら道具や血痕までなくなっていた。
こんなことができるのは、ここでの状況を知っている者だけ。ボスには言っていないが、ここの手配をしたのは、ボスなのか。
しかし【あの方】をボスと断言するには、証拠が足りない。私の考えがバレてしまえば、私も殺されてしまう。
どこで、誰が繋がっているのか分からない。今は、自分しか信用できない。
私は、ひとまず組織に戻ることにした。
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