全てはあの日から

来栖瑠樺

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第1章

矢口麻衣の過去

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 あれは5年前か。私は、殺し屋兼情報屋だ。
当時、任務で、ある男を殺すために待ち合わせ場所に向かっている。
任務の前に、自分が所属してた組織のボスを殺した。
裏社会に入ったのは、もっと前。自分がこの世界に入るきっかけになったのは、ボスだったな。
「居場所がないなら、私があげよう」
「・・・居場所なんていらない」
「なぜ?」
「生きるか死ぬかは、私の勝手でしょ?それに前から私の居場所なんてない」
家族はいない。両親は私に関心なかったし、私も両親のことに対して無関心。そもそも何かに関心を持つことがない。
両親は最近、交通事故で死んだ。もちろん何の感情も湧かなかった。元々、親戚付き合いないし、いつも当てもなく歩いて、路地裏にいるときに、ボスに話しかけられた。
「そうか。では、私のところで仕事をする生活はどうだい?」
「・・・仕事?」
「そう。簡単に言えば殺しの仕事。状況次第で情報屋の仕事もしてもらうかも」
私を探るような目で見ている。私も同じように相手を見た。
「・・・別に仕事をしてもいいけど、条件がある」
「なんだい?」
「依頼の仕事を引き受けるかは私が決める。仕事の内容次第では引き受けない」
それを聞いた男は苦笑いをする。
「私が君の上司になるのに、君が仕事を引き受けるかを決めるのかい?」
「嫌なら、別の人を探せば」
男はしばらく沈黙した後、溜め息をついて条件を飲んだ。
「分かった。その条件を飲もう」
「どーも。それで、アンタの名前は?」
「態度も上司に対するものではないね。まあ、いいよ。大原裕貴。君が、これから入る世界では、コードネームで呼ぶ。コードネームはmanipulatorだ。君は?」
「矢口麻衣」
「そうか。じゃあ、君のコードネームは、selfish personだ。おいで」
ボスのところで、訓練を受けて実戦もっとすぐに行った。
殺し屋も情報屋の仕事も筋が良いようで、No.1になるのは時間がかからなかった。
ボスに対する態度は相変わらずで周りから変わり者と言われ、誰も近寄らなかった。
必要なこと以外では、無表情で近寄り難い雰囲気も理由の一つだろう。

 ボスのところで数年経った頃だ。
ここにいても、前と変わらないな。それに、誰かの監視下の元にいるのは、めんどくさい。ボスも不正だらけだ。
そんな考えが起きた。
そんなときに、ある殺しの依頼を受けて、実行する前にボスを殺した。
そのときのボスは、うろたえていた。
「な、なぜだい?私は、君に居場所をあげたじゃないか!」
「居場所か。正直、この世界に入る前と、あまり変わった気がしない。それに、誰かの監視下の元はめんどくさい。さようなら」
その言葉の後に、銃でボスの頭を撃ち殺した。
なんだ、反撃しないんだな。あっけない最後だ。つまらない。

 その後、ある依頼のために待ち合わせ場所に向かった。
「麻衣?なんで!?冗談やめろよ!」
「残念ながら冗談じゃない」
「俺達、婚約者だろ?!」
「あー、そういえば、そうだね。まー形だけだよ。もう終わり」
「そんな・・・」
その後を何か言おうとした男を殺した。これで、この任務も終わり。立ち去ろうとした。
「兄さん!」
後ろから、さっき殺した男の弟が、兄の遺体に駆け寄り揺さぶるが反応がない。
そんな兄の姿に涙を流した後、憎悪の目で私を睨む。
「貴様!兄さんを殺したのか!」
「そうだよ」
「どうしてだよ!兄さんを愛してたんじゃないのか!?」
私は、それを聞いて声をあげて笑った。こんなに笑ったのは、いつぶりだろうか。
「愛?そんなもの私は知らない。お前の兄は、ターゲットだから殺した。近づいたのは、警戒されないようにしただけだ。お前の言う愛と言うものは、よほど価値があるようだな」
「ああ。価値がある。お前には一生分からないだろう。殺してやる」
「そうか。殺しに来ないのか?」
「こっちは丸腰だ。逆に殺される」
「ふーん。そんなに死んでほしいなら自殺するよ」
「は?」
予想外の言葉に、弟は目を丸くする。
「お前の兄を殺した私が憎いんだろ。お前が、自分で手を下さなくても自殺するって言ってるんだよ。今までも、なんとなく生きてただけだし、もういいや」
結局どこに行ってもつまらない。もう潮時でいい。
「死ぬな。お前を殺すのは俺だ。お前の生きる意味は、俺に殺されるまで生き延びることだ」
目の前の男は、力強い目で私を見ている。
おもしろい。復讐が果たされるまでが生きる理由か。
私は、不敵に笑ってこう言った。
「分かった。それまで生き延びるよ。できれば早目に来てほしいね。頑張れよ、真木忍」
忍がここに来たのは、兄に待ち合わせ場所を聞いたからだろう。予想外の出来事だ。
いや、それより、今はとても充実した気持ちだ。人生で初めて楽しみなことができた。

 その後の私は、ボスを殺したことで所属してた組織から外された。しかし、殺し屋と情報屋の腕はNo.1なので、どこの組織にも属さない。ペナルティはそれだけだ。そのため、フリーで活動している。むしろ、都合がいい。
そして、私は、忍に殺されるのを待っている日々が始まった。
今は、以前に私、真木忍、その兄と3ショットで撮った写真を見ながら、過去を思い返した。
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