全てはあの日から

第4章

拉致

　「ちょっと何の目的なのよ！」
「私の計画に必要だから今ここにいる」
「は？！計画？！何それ！とにかく、これ外してよ！！！」
「外さない。それと・・・うるさいから黙れ」
目の前には拉致された女。拉致するのは簡単だったな。相手は一般人だから当然か。
女は、目を覚ました後、ギャーギャーと騒いで私を睨んでいた。さすがに､うるさく思い睨んだら、真っ青な顔をして黙った。

　そろそろ来るかな。
「梨香！」
拉致された女の名前を呼ぶ男。
「真木忍、やっと来たか」
「矢口麻衣！彼女を拉致して、どうするつもりだ！？」
目の前の真木忍は、全力疾走したのか肩で息をしながら問いかける。
「どうしようかな～」
「彼女に何かするなら、お前を殺す」
「元々、殺すつもりのくせに。きっかけがないだけだろ」
銃を向けてくる忍に、不敵に笑って言い返す。
「忍！助けて！この女が酷いことをした！」
「安心しろ、梨香！今から助けるから！」
涙目で助けを乞う梨香。私は、2人を冷たい目で見た。
「アンタ達、婚約者なんだってね。幸せ？アンタ達の間に愛はあるの？」
私は2人に問いかける。
「当たり前じゃない！本物の愛よ！」
「そうだ！お前は愛を知らないから分からないだろうが、俺と梨香の間には愛はあるし、幸せだ！」
「それが、本当に愛があるなら幸せだろうな」
私は銃を取り出し、梨香の頭に向ける。それを見た梨香は悲鳴をあげ、忍は息を飲んだ。
「確かに私は愛を知らない。愛の形は色々あると聞いたことがある。だけど、この女がアンタに対するのは愛はないよ」
「何言ってるんだよ、お前！」
「そうよ！変なこと言わないで！」
「アンタは自分の婚約者くらい調べろよ」
私は溜め息をついた。そして、今まで調べた写真を見せたり、ボイスレコーダーを流した。
「この女は結婚詐欺や恐喝、脅迫の罪」
「梨香、どうしてこんなこと・・・。今まで過ごしたのは嘘なのか？」
忍は愕然としている。証拠を見ても、まだ信じたくない。その気持ちが顔に現れている。
梨香は、言い逃げできないと思ったようで、高笑いしている。
「あーあ。バレちゃった。そうよ。その女の言う通り。順調にいっていたのに。捕まっちゃうじゃない。あなたのせいよ！」
梨香に睨まれ歯ぎしりされる。自分で悪いことしたんじゃないか。
この女の運命は、あのときから決まっている。
「それが最後の言葉でいい？」
「「は？」」
梨香と忍は理解できないようだ。
「別に最後でいいよね。忍は被害者で梨香は加害者。お互いどうしても伝えたいことでもあるの？」
2人とも無言だ。やっぱりな。
「じゃあね」
そう言った後、梨香の頭に銃弾を撃った。
撃たれた梨香は、頭が上を向いた。
忍は、目を見開いている。そのまま動けずにいたが、しばらくして我に返り、梨香に駆け寄った。
「梨香！梨香！梨香！」
何度も名前を叫ぶが、梨香の反応がない。その後、梨香の遺体を抱きしめて涙を流している。
その姿を見て不思議に思った。結婚詐欺にあっていたのに、悲しみで泣くのか。
愛は、そうゆうものなのか。この男が前に言ったように、愛は一生理解できないな。しばらく泣いた忍は顔を上げると、以前と同じように憎悪の目で私を睨んでいる。
「貴様、梨香まで殺した」
「あのときと同じだね。兄を殺されたときも泣いていた。アンタは被害者なのに、なぜ泣く？」
「たとえ被害者でも、愛していた人だ。人の感情は論理的にできていない。貴様は、それが理解できない」
「確かに」
「これで決行する」
その言葉を聞いて、私は声をあげて笑った。