坂の上のサロン ~英国式リフレクソロジー~

成木沢 遥

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第二話 多和田佑介の秋

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「……ま、人生色々ありますもんね」
 若干二十代の若造が言うセリフではないのはわかっている。でも口にしてしまった。
 俺は他のお客と違って、ただの通りすがりだ。
 俺が抱えている暗闇をここで吐き出すつもりはない。それを目当てでは来ていないから。
 だからわかったような気でいられた。俺の深くて黒い感情は、誰にもわかってくれなくていいのだ。
「多和田様、結構お酒って飲まれます?」
「え、お酒ですか? まあ、飲みますね。どうして急に?」
「いや、施術前に軽く足裏を触れさせていただいていますが、思ったよりも肝臓がお疲れかもしれませんね。ここ、わかります?」
 気づかぬ間に、俺の右足は刺激を加えられていた。薬指と小指の間の下らへんだろうか、その辺りのくぼみを元井さんの指の腹が圧をかけていた。
「確かに、ちょっと痛いかも」
「他の反射区よりもゴリゴリしています。それでいて皮膚が少し硬いので、お疲れが溜まっているかもしれませんね。コースの中で、この辺りを念入りに行いましょう」
「あ、ありがとうございます。助かります」
 こんなにも、俺の生活を見抜かれてしまうのか。俺はバーでバイトをしているから、仕事で毎日飲んでしまうのだ。それに、最近は飲まなきゃやっていけないこともあったし。
 この一時間で、他のお客と同様、思い出してしまいそうだ。
「それでは英国式リフレクソロジー、一時間コースを始めますね」

 ある程度俺の情報を引き出すことに成功したのか、元井さんは施術モードの声の低さに変わった。
 というか、まだコースに入っていなかったのか。それが一番の驚きだった。
 元井さんは俺との会話モードの時に比べて、だいぶ真剣な顔つきに変わっている。
「ここ、首の反射区ですよ。ここもお疲れですね」
 親指の付け根の部分。ここが頸部の反射区らしい。確かにバーテンダーの仕事は首や肩に疲れを生じる仕事だ。
 蝶ネクタイにベスト、カチッとした格好で働く毎日、そりゃ疲れないわけにはいかないだろう。元井さんの指摘に、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
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