坂の上のサロン ~英国式リフレクソロジー~

成木沢 遥

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第二話 多和田佑介の秋

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 元井さんの言葉は、ことごとく的を射ている。そうだったと頷ける言葉に、つい口元が緩んでしまった。
「元井さん、ありがとうございます。やっぱり函館に来て、そしてこのサロンに入って、良かったと思いました」
「嬉しいお言葉です。いつでも、この街は多和田様を歓迎いたします。彼女様の想いを胸に、またいらしてください」
 元井さんが俺に言葉を伝えてくれている時も、俺の右足は元井さんの両手に包み込まれていた。

 元井さんの手の温もりが言葉の優しさとリンクして、穏やかな気持ちになれる。
 肝臓のフィードバックが終わった後、まだお疲れの部分があったことを思い出した元井さんは、施術を締めくくるようにその場所を刺激する。
「あ、そうだ、これで終わりじゃなかった。えーと、ここ。ここのゴリゴリ感もわかりますか?」
「ああ、わかります。土踏まずのところですね」
「そうです。ここが胃腸ですね。最初に胃腸もお疲れと聞いたので、念入りに刺激いたしました。やはりお疲れでしたね」
「冷たいものを飲むことが多いので、反応が出てしまったのかもしれませんね」
「多和田様の言う通り、お酒は冷たいものが多いですからね。とは言っても、お酒を飲まないとやっていられないことだってあります。ですから、ホットのお酒とかを楽しむというのもいいかもしれません」
 肝臓と胃腸が疲れているのに、お酒を控えるようにというアドバイスではなく、ほどほどにと言ってくれる元井さんがカッコよく見えた。
 アドバイス通り、次からは梅酒のお湯割りとかを楽しむことにしようか。
「彼女様も言っていたかもしれませんが、飲みすぎ注意ってことですね」
 あの雑誌に貼ってあった付箋のこと……そうか、そうだった。
 別に美優からも、飲むのをやめてと言われたことはなかった。ただ、父親をお酒の飲みすぎで亡くしたから、自分で注意していただけだ。
「わかりました。お酒はほどほどに、ですね」
「それが良いと思います」
 最後はにこやかに、施術が終わった。六十分のコースは、時間以上に満足感がある。
 元井さんのキャラクターと、確かな手技が、俺のグラついていた心を整えてくれた。
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