坂の上のサロン ~英国式リフレクソロジー~

成木沢 遥

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第三話 遠山蘭子の冬

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「どうぞこちらのチェアへ」
 その中で、すでに施術の準備が整っているチェアに案内された。
 座っただけでも、すぐに眠ってしまいそうだ。
「遠山様、まずはお着替えが必要みたいですね。膝下から足裏までの施術なので」
「そうですね。タイツにロングスカートですし」
「ではお着替えご案内します。ショートパンツをお貸ししますので、こちらへどうぞ」
 服屋の試着室のような小さな空間に案内され、用意してくれたエムサイズのショートパンツに着替える。タイツで締め付けられた足元が、解放感に満たされた。
「ではもう一度おかけください」
 座ったと同時に、膝元にブランケットがかけられた。これから本当にリラックスモードに入れると思うと、ワクワクしてきた。
「遠山様、本日お疲れの部分などはありますか? 腰とか、肩とか」
「あぁ、それはもう、全身疲れていますけど……やっぱり一番は、神経的なところですね」
「神経的……心がお疲れだと?」
「ええ、その通りです」
 本来、函館に来た理由。それは、あの人が理由だ。
 もし、あの人がこの世にいなかったら、私はもう少しマシな人生を送っていた気がする。
 元気なく吐いた私のセリフに何かを察したのか、元井さんは「なるほど」とこぼして、手元を整理し始めた。
「施術の準備が整いました。リクライニングいたしますね」
 リクライニングして楽な体勢になった後、ブランケットを全身にかけてくれる。足元に一度タオルが巻かれて、元井さんは施術の説明を始めた。
「当店は英国式のリフレクソロジーですので、強い刺激は伴いません。リラックスして受けてくださいね」
「わかりました。何となくイメージはつきますので」
「良かったです。遠山様、だいぶ足がむくんでおられますね」
「あ、やっぱりわかりますよね」
「はい。当店はパウダーを使った施術なのですが、オプションでオイルトリートメントも付けられます。いかがですか?」
「え? じゃあ、せっかくだし、付けちゃおうかな」
 もうこの際、元井さんのオススメ通りにやってもらおう。
 そもそも本来は何の予定もない観光だったのだから、流れに任せた方が良いに決まっている。
 私は真っ白な天井を見つめながら、元井さんに委ねることを決意した。
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