坂の上のサロン ～英国式リフレクソロジー～

第三話 遠山蘭子の冬

㉒

「むくみに対応している器官の反射区も念入りにさせていただきました。こちら、どうですか？」
　流れのままにフィードバックが始まった。元井さんは私の足裏を触りながら、どんな反応があったか聞いてくる。
　むくみに対応している反射区とは？　元井さんは土踏まずの中心辺りをググッと押した。押されると足がビクッとなる、軽い痛みを伴うその反射区はどこなのか。率直な感想を言った後、すぐに教えてくれた。
「少し痛みがあります。何か敏感に反応しますね」
「そうですか。こちらは腎臓です。ここを下に降りていくと、尿管ですね」
「ああ、なるほど。泌尿器ということですね」
　泌尿器と言葉にするのは恥ずかしかったけど、元井さんの前では別にいいと思えた。
「その通りです。水分はあまり摂りませんか？」
「ああー、あまり摂らないかも」
「そうでしたか。水分を摂らないと、逆にむくみの原因になります。我慢するのではなく、適度に摂取することが重要ですよ」
「あまり循環が上手くいっていないから、泌尿器系の反射区に反応があったのですね」
　私もわかった風に答えているけど、本当は見当違いのことを言っているのかもしれない。
　元井さんは優しいので、「その通りです」とよく肯定してくれた。でもきっと、私のイメージ通りで合っていると思う。
　何故か、自信があった。
「泌尿器系やリンパの反射区など、むくみに関係ある反射区には、お疲れ物質が多く溜まっておりましたね。この物質は尿として外に出るので、今日は水分を多めに摂ってください」
「わかりました。ありがとうございます」
　リフレクソロジー……今まで自分のケアに時間なんか使ったことがなかったから、新鮮な気持ちになれた気がする。
　元井さんの施術により、一般的な女性より足がむくんでいることに気がつけたし、それのケアもしてもらった。旅の疲れも癒されて、元気になれた。
　……いや、元気にはなれていないか。
　まだ頭の中に、あの人の記憶がうごめいている。施術を受けながら元井さんに説明をしたがゆえに、後悔の念が頭の中にちらついていた。