坂の上のサロン ~英国式リフレクソロジー~

成木沢 遥

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第三話 遠山蘭子の冬

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 からかう元井さんに、相武さんはさらに顔を真っ赤にさせて言った。
「もう、バカにしないでくださいね! だって褒められたら嬉しいじゃないですか!」
 元井さんは「ごめんごめん」と謝りつつ、受付カウンターの中に入った。何となく私も会計を始めないといけないと思い始め、相武さんに会釈をした後財布から紙幣を取り出した。
「遠山様、本日はお越しいただきありがとうございます。割引が適用になりますので、こちらの金額になります」
 元井さんが電卓で弾いた金額をレジに打っていく。東京でこのサービスを受けたらもっともっと高くなるに違いない。
 おつりを受け取って、二人に一礼する。
「本日は、本当にありがとうございました。ここ十数年の行いが、救われたような気がします」
 元井さんだけが店の前まで出てくれて、私を見送ってくれる。相武さんは受付の中で元気に「またお越ししております」と発し、その声を背中に受けながら、外へ出た。
「遠山様、外は寒いですので、今日は温かくしてお休みください」
「そんなこと他人に言われるの、何年ぶりかしら。施術のおかげで体がポカポカだし、心配ご無用ですよ」
「それは良かったです。あと、だいぶお疲れ物質を潰したので、水分を多めに摂ってください。老廃物は尿として流れますので」
「わかりました。じゃあ、ホテルでローズマリーのお茶でも飲もうかしら」
「それはいいですね。温かいものが良いと思うので」
 北海道の冬は堪えると聞いたけど、今は不思議と大丈夫だ。全身が温かい。
 元井さんが八幡坂まで送ってくれる。
 元来た道を歩いていると、さっきまではただの静かな道だったのが、煌びやかな観光名所に変わった。街路樹に施されているイルミネーションと、港の海に反射しているオレンジ色の街灯が私の目に飛び込んできて、一気にしんみり加減が強まった。
「綺麗……こんな景色、もう一生見られることはないだろうなぁ」
 私は夜景に見惚れながら、何にも考えずに思ったことを口にした。
すると元井さんが一つ溜息をついた後に、首を傾げながら小さな声で言う。
「遠山様、大事なのはこれからです。禊はこの街に置いていって、希望を持って東京で過ごしてください」
 ……大事なのはこれから。
 元井さんは、最後の最後まで私に助言をくれた。
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