坂の上のサロン ~英国式リフレクソロジー~

成木沢 遥

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最終話 相武ミオの春

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「懐かしいなぁ」
 元井さんの顔を見てみると、足裏を眺めながら、懐かしさに浸るように目尻を垂らしていた。私は「え?」と聞き返す。
「いや、相武さんがこのお店に来た日のことを、思い出しちゃって」
 元井さんも、私と同じことを考えていた。私がこのサロンを訪れた日のこと。
 嬉しくなって、声を出して笑ってしまった。
「私も今、そのことを考えていました」
 店内に流れる自然界の音が、一時的に私たちの会話で聞こえなくなる。元井さんも「本当に懐かしいよね」と声量を上げて話してくれた。

 ……あの日、私は心を病めていた。
 どうしようもない心情を救ってくれたのは、このサロン・ラペと、セラピストの元井さんだ。
 さっきまで草原の上で寝そべっているイメージが頭の中に広がっていたのに、次は自分の過去を遡ろうとしている。
 映画のフィルムのように、今からあの時までの記憶が巻き戻される。
 あの日、私は元井さんの施術に救われた。

* * *

 北海道の桜は、東京に比べて開花が遅いらしい。結構常識的なことらしいけど、当時の私はそんなこと知らなかった。
 初めて人と付き合ったのは、中学三年生の時。相手は小学校からの幼馴染だった優斗だ。
 中学三年生の、修学旅行の時に告白された。前々から意識していたのもあって、当然オッケーをした。
 長い睫毛とパッチリ二重。テニス部に所属していたのもあって、肌はこんがりと日に焼けていた。優斗はクラスの人気者だった。
 運動神経抜群で爽やかな優斗に最初告白された時、私は天にも昇る気持ちだった。
 中学三年生の修学旅行。場所は函館だ。

「これから班ごとの研修を始めるぞ! 集合場所はこの校舎だからな!」
 八幡坂を上ったところにある高校の校舎の前で、待ち合わせ。指定の時間まで、班ごとに自由研修をする。
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