坂の上のサロン ~英国式リフレクソロジー~

成木沢 遥

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最終話 相武ミオの春

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 中に入ることを躊躇していると、男の人はクスッと笑いながら後押ししてくれた。
「大丈夫ですよ、襲ったりしませんから。見たところ、お疲れのようですし、ゆっくり休んでいってください」
 背中を押されると、断ることはできない。そんなに疲労困憊な顔をしているのか、心配になってしまった。この男からしたら、同情でサービスをしてくれる感覚なのだろう。
 疲れているというのは図星だったので、乗ってみるしかないと思えた。
「こちらへおかけください」
 機能性が見て取れるリクライニングチェア。私はその椅子にもたれかかると、一瞬で眠ってしまいそうになった。
「では、リフレクソロジーの施術を始めていきますね。私は元井賢明と申します」
「あ、よろしくお願いいたします。相武です」
「相武様、まずは足を伸ばしていただいてもよろしいでしょうか」
 用意された足置台まで、足を伸ばす。自己紹介の後、すぐに施術の準備が開始された。元井さんは私の足をちょうどいい位置に調整してくれ、あとはタオルをかけてスタンバイする。
「膝くらいまで捲れそうですね?」
「は、はい。ワンピースなので」
 かけてくれたブランケットの中で、言われた通り膝上まで裾を捲る。ブランケットのおかげで、素足だとしても温かった。
「あの、本当に施術を受けさせてもらって良いのですか? お仕事なのに」
「もちろんです。せっかくこうやってお店に出会ってくれたので、何かしてあげたいですし」
「すいません……では、お言葉に甘えて」
 リフレクソロジーなんて、一度も受けたことがない。東京には街中にリラクゼーションサロンがいくつもあるけど、利用したことは一度もなかった。まさか観光名所の函館で、受けることになるとは。
 こんな縁があるなんて……優斗のことで痛んでいた気持ちが、今は和らいでいる気がする。
「それでは足拭きを行った後から、施術を開始していきますね」
 ウエットティッシュのひんやり加減が、眠気を吹き飛ばしてくれた。両足を隅々まで拭いてくれた後、今度は足首を回したり、皮膚をほぐしてくれたりと、本格的な施術に入るまでの準備運動のような刺激を与えてくれる。
「足先が冷えていますね。冷え性ですか?」
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