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1章 麦味噌の記憶 〜つみれと大根とほんのり生姜〜
⑨
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「ウチはよく麦味噌を使うの。家族みんな麦味噌が大好きなのよ。ねぇ翔?」
「そうそう。なんかよくわかんないけど、これが一番舌に合うんだよな」
翔の母が「大人ぶっちゃって」と言って笑う。つられてアキも笑った。
自然と笑顔になっている……自分でも不思議に感じた。いつも抱えている強張りという力みが、この家ではなくなっている。
その時、小さい時に父が麦味噌を使ったみそ汁を作ってくれたことを思い出した。
味も何もかも、全てが失敗。父と二人で食している空気感にもウンザリしてしまった。
あの食卓とは正反対。こういう家族に、アキは憧れていたのだ。
「胡桃と一緒の大学に入れるように、俺も頑張るわ」
翔は屈託のない笑顔を、アキに見せた。
純粋さを感じさせるパッチリとした瞳、シャープな頬には思春期ニキビが少しだけある。
僅かに焼けた肌はサッカー部だということを思い出させてくれる。
この時アキは、翔と同じ大学に行きたいと心から思えた。
「私は……その時に小さな光を感じました」
記憶を辿りながら話している。
不思議と喉が渇いてはこなかった。
「なんだ、悪いことばかりではないな」
「そうですね、猫神様」
猫神様とサリは目を合わせた。
それに対して、アキがゆっくり首を横に振った。
「順調ではないですが、それまでに比べたらマシな人生になりました。少なからず楽しかったかもしれません」
「それで、その男の子とはどうなったの?」
サリが、まるで友達の恋愛話を聞いているかのように前のめりになって聞いてくる。
猫神様はそんなサリを横目に、やれやれというような呆れたリアクションを見せた。
アキは気にせずに続きを話す。
「翔とは付き合うことになりました。無事に二人共同じ大学に受かり、入学式の日に告白されたんです……」
当時のアキは、翔から告白を受けても有頂天というほどの喜びを感じられはしなかった。
確かに嬉しかったのは覚えている。でも非現実的過ぎて、あまり実感が湧いていなかったのだ。
翔と過ごした大学生活は、可もなく不可もなしといった感じだった。
「そうそう。なんかよくわかんないけど、これが一番舌に合うんだよな」
翔の母が「大人ぶっちゃって」と言って笑う。つられてアキも笑った。
自然と笑顔になっている……自分でも不思議に感じた。いつも抱えている強張りという力みが、この家ではなくなっている。
その時、小さい時に父が麦味噌を使ったみそ汁を作ってくれたことを思い出した。
味も何もかも、全てが失敗。父と二人で食している空気感にもウンザリしてしまった。
あの食卓とは正反対。こういう家族に、アキは憧れていたのだ。
「胡桃と一緒の大学に入れるように、俺も頑張るわ」
翔は屈託のない笑顔を、アキに見せた。
純粋さを感じさせるパッチリとした瞳、シャープな頬には思春期ニキビが少しだけある。
僅かに焼けた肌はサッカー部だということを思い出させてくれる。
この時アキは、翔と同じ大学に行きたいと心から思えた。
「私は……その時に小さな光を感じました」
記憶を辿りながら話している。
不思議と喉が渇いてはこなかった。
「なんだ、悪いことばかりではないな」
「そうですね、猫神様」
猫神様とサリは目を合わせた。
それに対して、アキがゆっくり首を横に振った。
「順調ではないですが、それまでに比べたらマシな人生になりました。少なからず楽しかったかもしれません」
「それで、その男の子とはどうなったの?」
サリが、まるで友達の恋愛話を聞いているかのように前のめりになって聞いてくる。
猫神様はそんなサリを横目に、やれやれというような呆れたリアクションを見せた。
アキは気にせずに続きを話す。
「翔とは付き合うことになりました。無事に二人共同じ大学に受かり、入学式の日に告白されたんです……」
当時のアキは、翔から告白を受けても有頂天というほどの喜びを感じられはしなかった。
確かに嬉しかったのは覚えている。でも非現実的過ぎて、あまり実感が湧いていなかったのだ。
翔と過ごした大学生活は、可もなく不可もなしといった感じだった。
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