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3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~

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「はい、完成! 黒酢炒め定食ね」

 ミサの前に、満足な定食セットが置かれた。
 ホカホカご飯とツヤツヤの黒酢炒め。小皿にはお新香がちょっとだけ。
 そして豚汁は圧巻だ。ゴロゴロ根菜たちと油が光っている豚肉。焼きネギと舞茸の存在感もばっちり。
 アキの前にも豚汁だけが置かれている。

「今からこのお客さんと話すから、豚汁食べながら待っててね」

 サリはアキにウインク交じりに囁いた。もちろん、そのつもりという意味で、ウインクを返す。
 その掛け合いで、自分自身の精神状態が回復しつつあると気づいた。
 この店が、そうさせてくれているのだ。

「いただきます」

 ミサは豚汁から口にした。箸を汁物で潤したい気持ちは、アキにもわかる。
 ミサは一口飲んでから「温かい」と泣きそうな声で言った。そのまま黒酢炒めも口に運ぶ。
 歯ごたえがいいのだろう。根菜が嚙み砕かれていく音が、アキの方まで聞こえる。

「これも美味しい。豚肉、ちょうどいい火加減」

 焼き過ぎていない豚肉には、旨味が詰まっているみたいだ。黒酢炒めは女性が好きな定食だろう。それに加えて豚汁なんて……反則じゃんとアキは思った。
 ミサはそのまま米を進めた。豚汁、おかず、お米……バランスよく食べ始めていく。それを無言でサリは見ていた。
 徐々に箸を動かしている手のスピードが減速を見せ、もう少しで食べ終わるというところで急に泣き始めるミサ。

「辛いことがあったようね」

 サリはそっと語りかけた。ミサは手の甲で鼻下を押さえながら、詰まり声で「はい」と頷く。
 一旦箸を置いて、落ち着くように手を顔に当てる。

「聞かせて、何があったの?」

 優しく話を聞こうとするサリの姿勢は、女神そのものだった。
 顔を上げたミサは、サリの表情に心を許したのか、言葉柔らかく話し出した。
 ここに来店した時とはまるで違う、弱い姿を見せている。

「ずっと好きだったの……私の……幼馴染のことが」
「幼馴染? ちょっと詳しく聞かせて」
「ええ。その幼馴染は……斎藤 順也って名前で、私は小さい頃から順也と呼んでいたわ」
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