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3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~

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 幼馴染……アキにはそんな存在いなかった。だから羨ましいと素直に思う。
 アキは豚汁を啜りながら、ひっそりとミサの話を聞いている。

「でも……二年前に……順也は亡くなった。白血病に罹ってね」
「そんな若くして……なんと言ったらいいか」
「まさか私がずっと好きだった人が、死んじゃうなんて思いもよらなかったわ。結局、ずーっと思いを告げることはできなかった」
「それが、心残りなのね」

 長年思っていた相手に、思いを告げられないまま離れてしまった。
 物理的に距離が離れたわけではない。もう二度と会えない相手になったのだ。
 その後悔と喪失感で、この二年間ミサは生きていた。
 サリの相槌にも力が入らなくなってきている。可哀想に思えるのだろう。

「この二年間、死んだように生きていたわ。楽しいことなんて一つもない。ただひたすら、無のまま生きていた」

 アキも他人事とは思えなかった。その気持ちは痛いほどわかる。
 でも二年の月日を経て、この店に来た。それはつまり、最近死を意識し始めたということだ。
 生きるか死ぬか……その瀬戸際を迎えた人がこの店に来る。

「追い打ちをかけるように、順也のお母さんも亡くなったの。病気でね」
「最近のこと?」
「ちょっと前のことよ。順也が死んだ後も近所のよしみで良くしてもらってたから……それが辛くて」

 きっと順也との関係性と同じくらい、お母さんとも関係性ができていたのだ。
 ミサの大切な親子が亡くなった……その心のダメージは、ミサに死を思わせるくらいに大きい。
 それくらい大きな喪失感を抱いて、この店に来た。アキも父を失っている……痛いくらいに気持ちがわかった。

「小さい頃……よく順也の家に遊びに行って、ご飯食べさせてもらってた。順也のお母さん、豚汁作るのが上手で」

 サリはゆっくり頷く。だから、順也のお母さんのことを思い出してしまったのか。
 良き思い出が逆に辛くなる。この豚汁の美味しさが、かえって苦しみを加速させた。

「どうして好きって言えなかったのよ……どうしてもっと大切にしてあげなかったのよ……」
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