上 下
46 / 96
3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~

しおりを挟む
 テーブルに肘をついて、頭を抱えるミサ。大切な人に、好きと言えなかったこと。大切な人の母を、もっと気にかけてあげていたら。
 ちゃんと大切だと伝えていたら、こんなに心が沈むことがなかったかもしれない。
 ミサが死を考えるようになったのは、ミサの中にある後悔の塊が存在感を増しているからなのだろう。
 事情を聞き終えたサリが、ゆっくりと口を開く。

「その想いは、二人に届いているはずよ……」

 ぐすんと鼻が鳴るミサ。涙の粒がテーブルに落ちた。
 サリは励ますように「辛かったわね」と声をかける。
 アキはその涙を見て、どうにも居た堪れなくなった。アキがミサにかける言葉は、何も思い浮かばない。
 話を聞くのに夢中になっていて食べかけだった豚汁に目を向ける。気を紛らわすように、アキは豚汁の中の焼きネギを口に入れた。
 シャキシャキという食感とネギの甘みがぼーっとした頭の中を活性化させてくれる。

 アキが食しているところを横目で見たミサも、合わせるように豚汁を食べ始めた。

「美味しい……美味しい……」

 長ネギ、舞茸、豚肉、根菜……ミサの口の中を支える食材たち。
 涙を流しながら、その味を噛みしめる。
 ミサはきっと、順也とお母さんとの思い出を振り返りながら食べている。アキはミサの様子を見て、そう予想ができた。

「甘みも、辛みも、そのみそ汁には詰まっている。あなたの人生と一緒ね」
「……確かに」

 サリの言葉でミサは前を向いた。ハッと気がついたみたいに目を丸くさせる。

「甘い白味噌、辛めの赤味噌、それが合わさった合わせ味噌。その幼馴染の彼との思い出は、辛いことだけではなかったはずよ」
「……順也」

 今は辛い記憶しか思い出せないかもしれない。でも、生きていた時の甘い記憶もある。
 その感情を呼び起こそうと、サリは寄り添うように告げた。
 ミサの目からより一層の涙が流れてきた。

「あなた……死のうとして、自暴自棄になって、そしてこの店に行き着いたんでしょ?」
「……夢の中で……声がしたんです」
「声?」
「ええ。人形町の中にある横道に、私を救ってくれるお店があるって」
しおりを挟む

処理中です...