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5章 慣れ親しんだ味 ~家庭で食べるワカメと豆腐のみそ汁~

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「お嬢ちゃんも見たことがあるだろ? あれだよ」

 フルスピードで食材を準備している。
 ひと口大になったら、鍋に水を入れて火にかけた。ガスコンロの上が混雑し始めた。
 小さめの銀鍋の中の水はすぐに沸騰し、皮付きのじゃがいもを投入。ある程度火が通るのを見届け、その後にブロッコリーを入れた。
 斎藤は何が始まっているのだろうと、その展開に追いつけていないような抜けた顔をしている。

「灰汁を取って、あとはソーセージを投入っと。少し時間を置いて……」

 ネトは口を動かしながら、棚から味噌を取り出した。
 ラベルには『関西白味噌』と記載されている。
 まさに、倉持に作ってあげたのと同じみそ汁を、この短時間で作り上げたのだ。
 作り慣れているだけあって、その手際の良さに斎藤は驚いている。

「はい、完成。これ、食べてくれないか?」

 黒コショウも忘れられていない。
 倉持が食べた洋風なみそ汁。出汁が使われていない、簡単だけどパンチのあるみそ汁だ。
 斎藤は無言のままひと口食べた。

「……この味」

 目を見開いて、何かを思い浮かべながら咀嚼している。
 噛むスピードがどんどんゆっくりになって、ついには箸を置いた。

「……私が彼に、一度作ったことがある?」

 薄くて遠い記憶が、みそ汁の味と共に、ちょっとずつ近づいてくる。
 そしてようやく、その全貌が見えてきた。斎藤の涙は勢力を弱め、涙目程度におさまっている。
 ネトは斎藤の記憶を取り戻す作業を手伝うように答えていった。

「倉持さんはそう言っていた。二人にとって、思い出のみそ汁なのだろう」
「……私も、懐かしく感じる。作っているところを見ても、なんだか既視感があったもの」
「まさに、斎藤さんが人間だった時に作っていたもの、そのものだからな」

 ジャガイモとブロッコリー、そしてソーセージも食べていくと、斎藤の疑心暗鬼だった顔が次第に明るくなってくる。
 料理をしていた自分、倉持に食べてもらっていたこと、倉持と出会う前にも家庭を持っていて、子供を育て上げたこと……記憶がぼんやりと蘇ってきた。
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