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エピローグ

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 ネトが店に来た。
 サリとネト、そして猫神様が唯一揃うこのタイミング。
 このタイミングで、アキは家に帰ることを告げる。

「図々しく居候させてもらって、本当にありがとうございました」

 ネトはサリから、春風が来たことを聞いた。
 アキとの関係性も、そして成仏していった経緯も、昼の部で起きたことを全てネトに説明する。

「何だ、俺がいない間にそんなことがあったのか。でも良かったな。楽になれただろ?」
「はい。踏ん切りがついたというか……生まれ変わろうって思えたというか……」

 猫神様が笑う。よく考えたら、ここにいるアキ以外は、みんな生まれ変わった姿だ。
 アキもそれに気づいて笑った。
 猫神様は感慨深いといった表情でゴロゴロ鳴き、ネトは「もう来るんじゃねぇぞ」と優しく釘を刺した。

「そうですね。これからは、死のうなんて考えるのは、やめようと思います」
「お嬢ちゃんはここで、色んな瀬戸際の人間やら神様やらを見てきたんだ。嫌のことあったら、みんなを思い出せ」
「……確かに。決断していった人たちのことを思い出すと、自分は踏ん張らないとって思える気がします」

 この店の経験を忘れてはいけない。今後に必ず活きてくる経験だろう。
 アキもそう思えた。
 次はサリが言葉をくれる。

「ネトの言う通りだけど、あとはもう一つ、生きる上で大切なことがあるでしょ?」
「大切なこと? 何ですか?」
「食べることよ! あなたを見て思っていたわ。本当に食べることが好きなんだなって」

 ネトは大笑いし始めた。
 アキは顔を赤らめながら、「笑わないでください」と注意する。
 ネトは止まらないのか、そのまま腹を抱えてケラケラ笑いながら、アキを指差して話した。

「だってよ! お嬢ちゃん、ここにいる間、ずーっと食べてばっかりだったろ!? 昼も夜も!」
「そ、そうですけど……」
「ま、そのおかげで、立ち直れた部分もあったよな! サリの言う通りだ。辛い時は、いっぱい飯を食べろ! 酒を飲め! そうすりゃ、寂しさや辛さは吹き飛ぶさ!」

 確かにと同調するように、アキも笑う。
 猫神様は咳払いをして、立ち上がったアキに最後の言葉を渡した。
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