浮遊霊は山カフェに辿り着く ～アロマとハーブティーで成仏を～

最終日

浮遊霊が行き着く不思議な山カフェ②

「リュウ君！　そろそろ起きてくれ！」

「リュウー！　起きてー！」

　二人が、朝一番にしては大き過ぎる声を出して、リュウを目覚めさせる。
　一度や二度呼んだだけでは起きないリュウにヤキモキして、恵那はフライパンをお玉で叩いて鳴らした。
　アニメでよく見る起こし方を、まさか現実世界でやることがあるなんて……恵那は微笑みながら、夢の中から戻ってこないリュウに、軽い罰ゲームを執行する。

”カン、カン、カン”

「うわ！　び、びっくりした！　何事！？」

「リュウ、おはよう。よく眠れた？」

「何だ恵那かよ。何でそんな古典的な起こし方するんだよ」

「だって呼んでも起きないから。藤沢さんも呼んだんだよ」

「あ、藤沢さん。おはようございます」

「お、リュウ君、おはよう。朝ご飯できてるぞ」

　三人で囲むようになったダイニングテーブルは、心なしか狭くは感じない。
　バックヤードにあった木製の椅子をもう一脚持ってきて、そこにリュウも座らせた。
　他の椅子よりも古びた椅子だったために、体重を前にかける度にグラグラするタイプの椅子だった。
　文句を一つも垂らさずに、リュウは揺れながらモグモグと料理を口に運んでいく。
　その味に感心したリュウは、咀嚼の途中にも関わらず、味の感想を伝えようとしている。

「ふ、藤沢さんって料理も上手いんですね。さすがっす！」

「まあね、俺の得意分野だからさ。ゆっくり食べろよ？　飯は逃げないんだから」

　恵那がここに訪れてから、初めて藤沢の料理を食べた時も、同じことを言われたはずだ。
　恵那はそのセリフを聞いて、この数日間のことを思い出していた。
　不思議な山小屋を見つけてから次の日に、今のリュウと同じように、たくさんの料理を食べさせてもらったこと。
　そこから、死ぬことに対する考え方を変えさせてもらって、生きてみようと思わせてくれたこと。
　浮遊霊と接することによって、色んな悩みがこの世には蔓延っていると、気づかされたこと。
　その全てが、藤沢との思い出として、恵那の中に閉じ込められていた。

「何だよ、マルナ。俺の方をじーっと見て」

「え？　あ、すいません。何でもありません」

「ふーん、ならいいけど」

　話の流れで、つい『ミマ』という女性の存在について聞いてみようと考えたけど、勇気が出なかった。
　リュウも、そんなこと気にせずにひたすらご飯をかき込んでいるし、このタイミングではないのだろう。
　怪しまれないように注意して、何も言うことなく味噌汁を啜る。

「今日は二人に、何を手伝ってもらおうかな」

　ある程度食べ終えた藤沢が、箸を置いて話をスタートさせた。
　その話の始め方は、恵那とリュウの視線を集めるには十分なセリフだ。
　恵那が「何しましょう」と聞くと、藤沢は天井を見ながら「うーん」と言って悩み出した。
　巴先輩と出会うという目標を達成した今、ここに居る理由は、藤沢のためだ。
　恵那は、言われたことは何でもする気でいた。