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ロミオの純情
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一年生の寮は中庭を挟んで、三年生の寮の向かい側にあった。
蜩がカナカナと鳴く夕闇の庭園を美雨と鷹司はおしゃべりをしながら歩き進む。
「美雨ちゃん、九条は忙しくしているけど、俺と二人の時は、いつも美雨ちゃんの話をしていて、美雨ちゃんの事はちゃんと忘れていないからね」
鷹司は九条のフォローをしっかりとしてやる。格好良いだけでなく、サラリとこんな気遣いが出来るのも、鷹司の人気の秘密だった。
「はい」
美雨は嬉しそうに頷く。
一年生の寮の玄関まで来ると、鷹司は紙袋を美雨に手渡し、「またいつでも部屋に遊びに来てね」と声をかけ、「ありがとうございます」と頭を下げた美雨に手を振って、寮を後にする。
暗くなった中庭は、目を凝らすと、所々に置かれたベンチに、制服を着た男の子同士が親密そうに肩を並べて座っていた。
中には堂々とキスをしている者もいて、鷹司は眉を顰める。
(全くけしからんな)
実を言うと、鷹司は男の子同士の恋愛というのが、さっぱりと理解出来なかった。
だから、ルームメイトで親友の九条が、美雨に交際を申し込んでokを貰った翌日には、交際を隠すどころか、笑顔であちこちに「美雨は僕の恋人」と吹聴してまわり、堂々の交際宣言を行ったと聞いた時には、本当に驚いた。
でも、美雨を実際に見ると、九条の気持ちも分からなくないなと思う。
あんな、か弱い小動物のようなルックスの恋人だったら、他のライバル達を牽制する為にも、交際宣言をして、学院の公認カップルになった方が良いのは確かだ。
九条と美雨の仲睦まじい様子を微笑ましく思いながらも、それでも、やっぱり自分には、男の恋人を持つのは理解不能だと鷹司は思うのだった。
しかし、鷹司の俳優のような、その外見の良さに周囲は放っておかず、告白をして来る男子生徒は後を絶たなくて、勇気を振り絞って告白をしてきてくれる彼らを傷つけないように断るのは至難の業だった。
「今は勉強に専念したい」
そう言うと、大抵は理解してくれたが、中には「どうしても、鷹司先輩とお付き合いがしたいです!」と諦めの悪い生徒もいた。
そんな彼らには、道場に呼び出して、
「俺から一本取れれば交際する」
と言うと、やっとしぶしぶと諦めてくれた。
合気道だけでなく、柔道では黒帯の実力を持つ鷹司に敵う生徒など、この学校にはいないのだ。
(ああ、まただ!)
鷹司は背中に視線を感じて思わず振り返ると、そこには誰も居なかった。
気のせいだろうか?
いや、確かに何かを感じた。
過去に告白を断った生徒が後をつけているのだろうか? それとも、これから告白をしようと思っている生徒が、タイミングを伺っているのだろうか?
鷹司は少し苛々しながら周囲を見渡すが、夕闇が包む庭園に、それらしき人物はいなかった。
その時、不意に庭園の奥の林に、人影が動いた気がした。
「待て!」
鷹司は慌てて林の中に踏み込む。
すると、真っ白な学院の夏服を着た生徒の後ろ姿が走り去るのが見えた。
「こら!待て!」
必死で追いかけるが、向こうも足が早く、なかなか差は縮まらない。
くそ!
とうとう、制服姿の人影は、一年生の寮へと走り去って消えてしまった。
普段から足の速さにも自信があった鷹司は、虫の音が響き渡る夕闇の雑木林の中で、あの怪しい人影に追いつけなかった事に呆然としながら立ち尽くしていた。
蜩がカナカナと鳴く夕闇の庭園を美雨と鷹司はおしゃべりをしながら歩き進む。
「美雨ちゃん、九条は忙しくしているけど、俺と二人の時は、いつも美雨ちゃんの話をしていて、美雨ちゃんの事はちゃんと忘れていないからね」
鷹司は九条のフォローをしっかりとしてやる。格好良いだけでなく、サラリとこんな気遣いが出来るのも、鷹司の人気の秘密だった。
「はい」
美雨は嬉しそうに頷く。
一年生の寮の玄関まで来ると、鷹司は紙袋を美雨に手渡し、「またいつでも部屋に遊びに来てね」と声をかけ、「ありがとうございます」と頭を下げた美雨に手を振って、寮を後にする。
暗くなった中庭は、目を凝らすと、所々に置かれたベンチに、制服を着た男の子同士が親密そうに肩を並べて座っていた。
中には堂々とキスをしている者もいて、鷹司は眉を顰める。
(全くけしからんな)
実を言うと、鷹司は男の子同士の恋愛というのが、さっぱりと理解出来なかった。
だから、ルームメイトで親友の九条が、美雨に交際を申し込んでokを貰った翌日には、交際を隠すどころか、笑顔であちこちに「美雨は僕の恋人」と吹聴してまわり、堂々の交際宣言を行ったと聞いた時には、本当に驚いた。
でも、美雨を実際に見ると、九条の気持ちも分からなくないなと思う。
あんな、か弱い小動物のようなルックスの恋人だったら、他のライバル達を牽制する為にも、交際宣言をして、学院の公認カップルになった方が良いのは確かだ。
九条と美雨の仲睦まじい様子を微笑ましく思いながらも、それでも、やっぱり自分には、男の恋人を持つのは理解不能だと鷹司は思うのだった。
しかし、鷹司の俳優のような、その外見の良さに周囲は放っておかず、告白をして来る男子生徒は後を絶たなくて、勇気を振り絞って告白をしてきてくれる彼らを傷つけないように断るのは至難の業だった。
「今は勉強に専念したい」
そう言うと、大抵は理解してくれたが、中には「どうしても、鷹司先輩とお付き合いがしたいです!」と諦めの悪い生徒もいた。
そんな彼らには、道場に呼び出して、
「俺から一本取れれば交際する」
と言うと、やっとしぶしぶと諦めてくれた。
合気道だけでなく、柔道では黒帯の実力を持つ鷹司に敵う生徒など、この学校にはいないのだ。
(ああ、まただ!)
鷹司は背中に視線を感じて思わず振り返ると、そこには誰も居なかった。
気のせいだろうか?
いや、確かに何かを感じた。
過去に告白を断った生徒が後をつけているのだろうか? それとも、これから告白をしようと思っている生徒が、タイミングを伺っているのだろうか?
鷹司は少し苛々しながら周囲を見渡すが、夕闇が包む庭園に、それらしき人物はいなかった。
その時、不意に庭園の奥の林に、人影が動いた気がした。
「待て!」
鷹司は慌てて林の中に踏み込む。
すると、真っ白な学院の夏服を着た生徒の後ろ姿が走り去るのが見えた。
「こら!待て!」
必死で追いかけるが、向こうも足が早く、なかなか差は縮まらない。
くそ!
とうとう、制服姿の人影は、一年生の寮へと走り去って消えてしまった。
普段から足の速さにも自信があった鷹司は、虫の音が響き渡る夕闇の雑木林の中で、あの怪しい人影に追いつけなかった事に呆然としながら立ち尽くしていた。
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