【R18】Hで淫らなボクの夏休み!【完結】

瀬能なつ

文字の大きさ
42 / 50
ロミオの純情

25

しおりを挟む
「コウ、一体どうした?!」

 制服を泥まみれにした、青ざめた顔のコウが、寮の自分の部屋のドアの入り口の所に立つと、ルームメイトの美濃みのう佑司ゆうじはギョッとした声をあげて、身長185cmの巨体を揺らした。

「ころんだ……」
「転んだってお前…… とにかく、それをそこで脱げ」

 佑司はそう言うと、慌ててバスルームに駆け込んで、タオルを二、三枚掴むと、急いでコウの所に戻る。

 コウは部屋の入り口で汚れた制服を脱いで、トランクス一枚になると、佑司からタオルを受け取り、ゴシゴシと汚れた手足を拭く。

「とにかく、シャワー浴びろ」

 佑司に言われてコウは頷くと、バスルームへと向かった。

 シャワーのノズルを持って、ザーッと熱い湯を肌に当てると、改めて胸に悔しさが込み上げてくる。

「…うっく…ひっく……」
 再び嗚咽を漏らし、熱い涙が頬を伝う。

 やっと、憧れの鷹司と思いが通じ合ったと思ったのに、こんな風に自分の想いを地面に叩きつけられて、踏みにじられるなんて……

 確かに鷹司の家のリンベルと、うちの家のミューズは同業という事で反目しあっている。

 けれど、俺はリンベルのレシピを盗んでなんかいない。

 でも、鷹司は俺の事を疑いの目で見て、弁明する余地すら与えてくれなかった。

 その事が悔しくて悔しくて堪らなかった。

「ちきしょうッ……」

 コウはバスルームの壁をドンと叩く。

 尊敬していた鷹司に、" 盗みをするような人間 " だと思われた事に、コウは激しく傷ついていた。

 シャワーからあがると、佑司の姿は無かった。髪の毛をタオルでゴシゴシと乾かしながら、ベッドに腰掛けて、ふと、さっき服を脱いだ場所を見れば、自分の汚れた制服は佑司の手によって、何処かへと綺麗に片付けられていた。

 やがて、ドアがガチャンと開いて、佑司が部屋に戻ってくる。

「お前の制服はクリーニングに出しておいたから」
「すまない……」

 コウが謝ると、
「ほら、飲め。お前コレ好きだろう」
 目の前にミルクティーの温かい缶ドリンクが差し出される。

「サンキュ」

 そう言って、コウは受け取る。

 佑司は熊みたいにデカい図体なのに、細かく良く気が利く奴だな……

 コウはそう思いながら、プシュと缶のプルタブを押し込んで開けて、中のまろやかな液体を冷えた胃の中に流し込む。

 優しい甘さが、傷ついた心に、じんわりと染みた。

「何かあったのか?」

 コウのベッドの向かいの、自分のベッドに腰掛けた佑司が問いかける。

「別に……」

 頭を振って返事をしたコウに、佑司はそれ以上は尋ねたりしなかった。

 コウの濡れた肌を見つめながら、
(俺だったら、お前を泣かせたりしない)
 喉まで出かけた言葉を、佑司はグッと飲み込む。

 ルームメイトとの良好な関係を打ち壊す勇気は、佑司にはまだ無かった。


 一方の鷹司もまた、一人苦悩していた。

 苛立った気持ちのまま、部活を終えて、部屋に戻ると、シャワーも浴びずに、ベッドにゴロンと横になる。

「くそっ!」

 鷹司は、コウを投げ飛ばした自分の両手をじっと、見つめる。

 物心ついた時から、自分のこの手は、正義の為に使うと、そう信念のように思ってきた。

 今日だって、不埒な盗人を投げ飛ばして、自分は正しい事をした筈なのに、この胸のザワつきは一体何なんだろうか。

 ふと、コウの凛とした立ち姿が脳裏に浮かぶ。

 迷いや疚しい気持ちの無い、真っ直ぐな姿。


 もしかしたら、自分は大きな間違いを犯したのではないだろうか……

 鷹司の胸に、急に大きな不安が、真っ黒で巨大な雷雲のように、一面に広がる。

「コウ……」

 コウを投げ飛ばしたあの時、コウは、何かを言いかけていた。 なぜあの時、コウの言葉に冷静に耳を傾けなかったのか……

 後悔が、噴き出す泉のように、次から次へと湧いてくる。
 結局、鷹司はその日も一晩中眠れなかった。




「コウはまた無断休みですか」
 合気道部の副部長の三田が、着替えをする道場隣接のロッカールームで学ランを脱ぎながら、半分呆れたような声を出す。

「あいつの事は放っておけ」
 鷹司のそっけない返答に、三田はため息をつく。

「このままじゃ、ほかの部員にも示しがつきませんよ」
「分かってる。何とかする」
 鷹司はそう頷いたものの、一体何をどうすれば良いのか、鷹司自身、全く分からなかった。

 コウと話がしたい。
 それは鷹司が今一番願っていた事だったが、会って一体、何を話せば良いのだろうか……

 コウへの疑惑はグレーのままで、それを拭い去る事の出来る根拠はどこにも無い。

 それでも、コウが部活に来れば、何らかの話が出来るだろうと、成り行きに任せてみたものの、肝心の本人が一向に姿を現さないのだ。

 コウのいない練習場の空気は、まるで光り輝く花を失ったかのように、生気が無く、冷ややかで、暗く沈んでいた。

 部員たちも、口には出さなくても、何かただならぬ事が鷹司とコウの間にあったのだろうと、薄々と感づき始めていた。

「部長、一度コウと話を……」
 三田がそう言いかけたその時、
「失礼します!」
 と一年生の部員がロッカールームに入ってきた。
「ん?どうした」
 鷹司がそちらを向くと、
「あの、これコウから預かりました」
 そう言って、鷹司の顔色を伺いながら、おずおず……といった風に、一枚の紙を差し出す。

 受け取った紙を見て、鷹司はショックを受ける。
 そこには、

『退部届 白鳥航』

 とあった。

(あいつ……!)

 コウの退部届を見た、三田も驚く。

「本人はどうしたんですか?」
 三田の問いに
「コウはもう、道場には来ないそうです」
 と、申し訳なさそうにして、頭を下げる。

 もう、コウと話す機会すら無いのか……

 苛立った鷹司は、コウの退部届をグシャリと握り潰して、制服のズボンのポケットに無造作に突っ込む。

「そ、それじゃあ、僕はこれで失礼しますっ」

 機嫌の悪くなった鷹司の表情に少し怯えた後輩は、逃げるようにしてロッカールームを出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん<山野 石郎>改め【イシ】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中……俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない<覗く>という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

処理中です...