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嗣春編
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「さっきから一体何をニヤニヤしてるんです?」
不意に頭の上から声が降ってきて、嗣春はゆっくりと目を開ける。
眩しい光と共に、視界に尊の怪訝そうな顔が飛び込んできた。
嗣春は社長室の応接の黒い革のソファーに寝転び、スーツを着た尊の膝枕でウトウトしていた。
相変わらず、尊の膝は心地よい。
「お前を初めて抱いた日の事を思い出していた」
そう言うと、尊は美しい眉を少し寄せる。
「あぁ、あの時は本当に痛かったです。今でもあの時の傷、痛みますから」
その言葉に、嗣春は驚いたようにガバッと身体を起こす。
「本当か?!」
「冗談ですよ」
澄ました顔の尊。
「全く、お前でもそんな冗談言うんだな……」
安堵したように嗣春は再び身体を投げ出して尊の膝の上に頭を乗せる。尊の身体からは甘く良い香りがしていた。午前中の会議ラッシュが終わり、昼食を食べた後に、二人きりの社長室で尊とこうして寛ぐひと時は、何よりの至福だった。
このまま尊を押し倒したいところだが、グッとそれを堪える。
「それよりも、義兄さん。僕、彼をボディガードに欲しいのですが」
尊はそう言いながら、読んでいた資料を膝の上で寝転んでいる嗣春に差し出す。
「お前からボディガードを欲しがるなんて、珍しいじゃないか。いつもは監視がつくのを嫌がるのに。一体どういう風の吹き回しだ」
そう言いながら、受け取った資料を見て、嗣春は驚く。
それは左上の隅に目立つようにマル秘と赤スタンプが押され、タイトルに『要注意対象者リスト』と表記されたものだったからだ。
「尊、この意味が分かってるのか?」
「ええ。彼、僕の命を狙う人物なのでしょう?でも、彼は彼自身の意志で僕を狙うような人ではないと思うんです。何とかこの彼を手に入れられませんか?」
尊は微笑みながら無邪気に答える。口調はまるでクリスマスプレゼントでもねだるかのように。
嗣春は資料を改めてまじまじと見つめる。
そこには、『氏名:田中京介』 とあり、顔写真と全身写真、そして詳しいプロフィールが書き連ねられていた。素人とは違う、相当な凄腕である人物なのはその資料から見て取れた。
確かにボディガードとしては何の不足もないようだが、彼自身は完全に敵としてこれから尊の前に立ちはだかる予定の男だ。
「何でこの男を気に入ったんだ?」
そう訊ねると、尊は
「彼、どこか僕の虎徹に似てるんです。その真摯な黒い瞳とか」
頬を薔薇色に染めながら少しうっとりとした顔を見せる。
「お前、それ本人の前で言うなよ……」
「どうしてですか?」
「飼い犬に似ていると言われて喜ぶ人間なんて、いないからな」
嗣春の言葉に尊は
「虎徹は非常に優秀な僕のパートナーでしたよ……?」
と、きょとんとした顔で答える。
やれやれ、この天然のお坊ちゃまは……と嗣春は深いため息をつく。
無邪気さも、時には人を傷つけることだってあるのだ。
「それよりも、尊。欲しいものがあった時のねだり方を前に教えただろ?」
身体を起こしながら嗣春がそう言うと、今度は尊が眉を顰める。
「え……アレをやるんですか?」
「どうした? やらないんなら、手に入れてやらないぞ」
嗣春は、煽るように言いながら立ち上がり、イタリア製の艶のある生地のジャケットを脱ぐと、ソファーの上にバサッと放り投げる。
そして、ネクタイを外し、黒曜石で出来たカフス釦を外す。その嗣春を見て、逃れられないと察した尊は、しぶしぶとスーツの上着を脱ぎ、ズボンのベルトを外す。
じりじりと、少し恥ずかしそうに下着と共にずり下げ、真っ白な臀部を嗣春の目の前にさらす。そしてそれから意を決したように深呼吸すると、上目遣いで、
「お兄ちゃん、欲しい……です……」
と恥ずかしそうに小さな声で呟いた。
それを見て嗣春は思わず、クッ…クッ……!と吹き出す。
腹を抱えて笑い出した嗣春を見て、尊は気分を害した表情で、
「もう、いいです」
とズボンを戻そうとする。
嗣春は慌ててその手を押さえると、
「まぁ、待て。尊、欲しいんだろう? お前の欲しいものは、全てこの俺が与えてやる。何もかも」
と、尊の耳元で囁く。
傲慢な台詞だったが、嗣春にはそれが出来るだけの力があった。
嗣春は、尊をソファーの上に膝立ちにさせると、背もたれの部分に手を掴ませる。そして、後ろから覆い被さると、キュッと閉じた後孔にそっと指を這わせる。
「忙しくて最近挿れてなかったからな。また固く閉じてるな」
ゆっくりと嗣春の長い指が入ってくると、
「あっ……」
と小さな喘ぎ声が尊の唇から漏れる。
最初は確かめるように、そしてそれから、深く深く差し込まれては、ずぷり……と出て行く嗣春の指に、それだけで敏感に反応した尊のペニスもゆっくりと勃ちあがる。
尊は勃ちあがった自身のソレをそっと握りしめると、嗣春の指のリズムに合わせて、上下に擦りあげる。
「あ……んん……」
社長室に甘く淫らな声が響く。
「そのまま足を広げてろ」
嗣春に言われるままに、足を開き、腰をやや突き出しながら、尊は美しい指先で己のペニスを弄び続ける。
トロリとした蜜が先端から零れ出すと、それを指に絡めてより強く擦りあげる。
「んんっ……ああっ……」
瞳を閉じて心地よい快楽に身を委ねていると、やがて、ピタリと熱い嗣春の大きな陰茎が内腿に当たる。
ビクン……と尊の身体が震えた。
嗣春は真っ白な双丘をぐいっと広げると、張り詰めたペニスをねじ込むようにして、侵入させる。
「あっああっ」
思わず尊が仰け反ると、その背中を後ろから嗣春が抱きしめる。嗣春の腰は止まることなく動き続けた。
その度に体を貫くように走る快楽。
堪えきれず、女のような喘ぎ声が漏れないよう尊はキュッと唇を歯で噛み締めて、懸命に口を閉じた。
啼き声がどこか母の声と似ているのが嫌だった。
ーー淫乱。僕の身体には父を裏切った淫婦の母の血が混じってる……
尊は喘ぎながら苦しそうに呻く。
嗣春のペニスに貫かれる度に、我を忘れて嬌声をあげる度に、体の中に巡る己の"血"をまざまざと思い知らされた。
快楽で果てる度に、誰かが"裏切り者の血"と耳元で囁いた。その夜は決まって悪い夢を見た。
黒く巨大な得体の知れない獣が己の身体を引き裂いて喰らいつくす夢だ。
けれど、あの穢れのない真っ直ぐな瞳を持つ男ーー田中京介の腕の中なら、また違った夢を見れるのかもしれない。
喘ぎながら、そんな事を考えていると、不意に体勢を変えられて、ドサッとソファーの上に仰向けに倒される。
「尊、俺だけを見ていろ。俺だけを感じていろ」
まるで、考え事を見抜いたかのように、嗣春の強い瞳がこちらを覗き込む。
「お前は余計な事は考えなくていい。必ず俺がお前を守ってやる」
嗣春は尊の唇を貪るように奪うと、舌を差し込み、蜜を吸い上げる。同時にペニスもぐいっと再び差し込む。
「ああっ……」
稲妻のような痺れが全身に走る。
嗣春が与え続ける快楽が思考をどこかへと追いやった。
上と下から熱く犯されて、尊は真っ白な喉を仰け反らせる。
「ひ……あぁっ……」
グリグリっと嗣春の腰が抉るように動く度に、尊の意識は途切れ途切れになる。
嗣春を咥えている部分は焼けるほどに熱く、それが痛みなのか快楽なのか、もはや分からなかった。
快楽よりも、痛みが欲しいーー
この身体に流れる罪を罰するような、痛みが欲しい。
けれど、その願いは叶うことはないのだ。
嗣春が最後に与えるのは、いつだって気を失うほど圧倒的な快楽だけだった。
いつの間にか、尊の瞳からポロポロと涙が零れ落ちていた。嗣春は腰を深く抉るように動かしながら、その涙を唇で吸い上げる。
「あ、ああっ……」
ズプリ……ズプリ……と淫らな音が響き、尊の身体は弓なりになり、本革のソファーに沈んだ尊の腰は、びくんびくんと震えた。
「もう……イきそう……」
すすり泣くような尊の声に、嗣春は素早く尊のシャツを胸元近くまで捲りあげてやる。
そしてグイッと力いっぱいに嗣春の腰が突き上げた瞬間、尊のペニスから白濁液が吹き出し、尊はガクリと果てて気を失った。
嗣春はズルリとペニスを引き抜くと、胸ポケットから出したシルクの真っ白いハンカチーフで尊の身体を丁寧に拭いてやり、衣服を整えてやる。
そして、意識を失っている尊の美しい顔をそっと眺めた。
ーーお前が欲しいと思ったものならば、俺は何でも手に入れてやる。お前の抱える孤独の闇が少しでも埋まるのならば、車でも絵画でも、"男"でも、何でも与えてやる。
ただし、全て俺の腕の中でだ。例え他の男に抱かれようとも、尊、お前が戻る場所はただ一つ。この腕の中だけだ。
嗣春は眠っている尊を起こさないようにしながら、ルビーのような真っ赤な唇にキスを落とす。
尊の身体の全ては、まるで絢爛の宝石が埋め込まれた王笏のようだった。いつまで眺めていても飽きる事のない、輝きがある。
嗣春は今度は尊の首筋にそっとキスをする。
その時、嗣春の胸ポケットの携帯が鳴った。
尊との親密な時間を邪魔された事に少し苛ついたように舌打ちしながら出てみると、若い声が響いた。
「もしもし、早川です」
警察庁の早川からだった。彼もまた、一之瀬の息がかかっている人間だった。
「今朝、お送りした資料に目を通していただけましたでしょうか」
「あぁ」
嗣春は緋色のカーペットの上に散らばっていた、さっきまで尊が読んでいた資料を拾い上げる。
「近々、ウチの局長が動きます。恐らく実行犯はその資料にある田中京介という人物になるかと思います。局長が用意した拳銃の弾は予めこちらで空砲に変えておきますが、念のため警戒をお願いします」
早川はテキパキと事務的にそう伝えると、声を少しひそめる。
「あ、あのそれから……」
「なんだ?」
「その……田中京介という男なんですが、僕の先輩で……その……決して悪い男では無いんです……。恐らく、妹さんをダシに使われて本人の意志とは関係なく、そちらに向かうと思うんです……なので……その……何とか穏便にしていただけませんか……?」
最後は懇願するような声に早川は、なっていた。
「それは田中京介という男次第だな。こちらで判断して決める」
嗣春がそう言うと、
「どうかよろしくお願いします」
と何度も繰り返して、早川は電話を切った。
ーー田中京介か……
尊といい、早川といい、随分と執着するところを見ると、どうやら、この男とは何かしらの縁がありそうだ。
嗣春はソファーの上でまだ眠っている尊の滑らかな頬にキスを落とすと、手にしていた資料をピンと指で弾く。
来いよ、田中京介。
お前が本物の男かこの目で見極めてやる。
嗣春は社長室の窓の外の眼下に広がる霞が関のビル群を眺めながら、不敵に笑った。
終
不意に頭の上から声が降ってきて、嗣春はゆっくりと目を開ける。
眩しい光と共に、視界に尊の怪訝そうな顔が飛び込んできた。
嗣春は社長室の応接の黒い革のソファーに寝転び、スーツを着た尊の膝枕でウトウトしていた。
相変わらず、尊の膝は心地よい。
「お前を初めて抱いた日の事を思い出していた」
そう言うと、尊は美しい眉を少し寄せる。
「あぁ、あの時は本当に痛かったです。今でもあの時の傷、痛みますから」
その言葉に、嗣春は驚いたようにガバッと身体を起こす。
「本当か?!」
「冗談ですよ」
澄ました顔の尊。
「全く、お前でもそんな冗談言うんだな……」
安堵したように嗣春は再び身体を投げ出して尊の膝の上に頭を乗せる。尊の身体からは甘く良い香りがしていた。午前中の会議ラッシュが終わり、昼食を食べた後に、二人きりの社長室で尊とこうして寛ぐひと時は、何よりの至福だった。
このまま尊を押し倒したいところだが、グッとそれを堪える。
「それよりも、義兄さん。僕、彼をボディガードに欲しいのですが」
尊はそう言いながら、読んでいた資料を膝の上で寝転んでいる嗣春に差し出す。
「お前からボディガードを欲しがるなんて、珍しいじゃないか。いつもは監視がつくのを嫌がるのに。一体どういう風の吹き回しだ」
そう言いながら、受け取った資料を見て、嗣春は驚く。
それは左上の隅に目立つようにマル秘と赤スタンプが押され、タイトルに『要注意対象者リスト』と表記されたものだったからだ。
「尊、この意味が分かってるのか?」
「ええ。彼、僕の命を狙う人物なのでしょう?でも、彼は彼自身の意志で僕を狙うような人ではないと思うんです。何とかこの彼を手に入れられませんか?」
尊は微笑みながら無邪気に答える。口調はまるでクリスマスプレゼントでもねだるかのように。
嗣春は資料を改めてまじまじと見つめる。
そこには、『氏名:田中京介』 とあり、顔写真と全身写真、そして詳しいプロフィールが書き連ねられていた。素人とは違う、相当な凄腕である人物なのはその資料から見て取れた。
確かにボディガードとしては何の不足もないようだが、彼自身は完全に敵としてこれから尊の前に立ちはだかる予定の男だ。
「何でこの男を気に入ったんだ?」
そう訊ねると、尊は
「彼、どこか僕の虎徹に似てるんです。その真摯な黒い瞳とか」
頬を薔薇色に染めながら少しうっとりとした顔を見せる。
「お前、それ本人の前で言うなよ……」
「どうしてですか?」
「飼い犬に似ていると言われて喜ぶ人間なんて、いないからな」
嗣春の言葉に尊は
「虎徹は非常に優秀な僕のパートナーでしたよ……?」
と、きょとんとした顔で答える。
やれやれ、この天然のお坊ちゃまは……と嗣春は深いため息をつく。
無邪気さも、時には人を傷つけることだってあるのだ。
「それよりも、尊。欲しいものがあった時のねだり方を前に教えただろ?」
身体を起こしながら嗣春がそう言うと、今度は尊が眉を顰める。
「え……アレをやるんですか?」
「どうした? やらないんなら、手に入れてやらないぞ」
嗣春は、煽るように言いながら立ち上がり、イタリア製の艶のある生地のジャケットを脱ぐと、ソファーの上にバサッと放り投げる。
そして、ネクタイを外し、黒曜石で出来たカフス釦を外す。その嗣春を見て、逃れられないと察した尊は、しぶしぶとスーツの上着を脱ぎ、ズボンのベルトを外す。
じりじりと、少し恥ずかしそうに下着と共にずり下げ、真っ白な臀部を嗣春の目の前にさらす。そしてそれから意を決したように深呼吸すると、上目遣いで、
「お兄ちゃん、欲しい……です……」
と恥ずかしそうに小さな声で呟いた。
それを見て嗣春は思わず、クッ…クッ……!と吹き出す。
腹を抱えて笑い出した嗣春を見て、尊は気分を害した表情で、
「もう、いいです」
とズボンを戻そうとする。
嗣春は慌ててその手を押さえると、
「まぁ、待て。尊、欲しいんだろう? お前の欲しいものは、全てこの俺が与えてやる。何もかも」
と、尊の耳元で囁く。
傲慢な台詞だったが、嗣春にはそれが出来るだけの力があった。
嗣春は、尊をソファーの上に膝立ちにさせると、背もたれの部分に手を掴ませる。そして、後ろから覆い被さると、キュッと閉じた後孔にそっと指を這わせる。
「忙しくて最近挿れてなかったからな。また固く閉じてるな」
ゆっくりと嗣春の長い指が入ってくると、
「あっ……」
と小さな喘ぎ声が尊の唇から漏れる。
最初は確かめるように、そしてそれから、深く深く差し込まれては、ずぷり……と出て行く嗣春の指に、それだけで敏感に反応した尊のペニスもゆっくりと勃ちあがる。
尊は勃ちあがった自身のソレをそっと握りしめると、嗣春の指のリズムに合わせて、上下に擦りあげる。
「あ……んん……」
社長室に甘く淫らな声が響く。
「そのまま足を広げてろ」
嗣春に言われるままに、足を開き、腰をやや突き出しながら、尊は美しい指先で己のペニスを弄び続ける。
トロリとした蜜が先端から零れ出すと、それを指に絡めてより強く擦りあげる。
「んんっ……ああっ……」
瞳を閉じて心地よい快楽に身を委ねていると、やがて、ピタリと熱い嗣春の大きな陰茎が内腿に当たる。
ビクン……と尊の身体が震えた。
嗣春は真っ白な双丘をぐいっと広げると、張り詰めたペニスをねじ込むようにして、侵入させる。
「あっああっ」
思わず尊が仰け反ると、その背中を後ろから嗣春が抱きしめる。嗣春の腰は止まることなく動き続けた。
その度に体を貫くように走る快楽。
堪えきれず、女のような喘ぎ声が漏れないよう尊はキュッと唇を歯で噛み締めて、懸命に口を閉じた。
啼き声がどこか母の声と似ているのが嫌だった。
ーー淫乱。僕の身体には父を裏切った淫婦の母の血が混じってる……
尊は喘ぎながら苦しそうに呻く。
嗣春のペニスに貫かれる度に、我を忘れて嬌声をあげる度に、体の中に巡る己の"血"をまざまざと思い知らされた。
快楽で果てる度に、誰かが"裏切り者の血"と耳元で囁いた。その夜は決まって悪い夢を見た。
黒く巨大な得体の知れない獣が己の身体を引き裂いて喰らいつくす夢だ。
けれど、あの穢れのない真っ直ぐな瞳を持つ男ーー田中京介の腕の中なら、また違った夢を見れるのかもしれない。
喘ぎながら、そんな事を考えていると、不意に体勢を変えられて、ドサッとソファーの上に仰向けに倒される。
「尊、俺だけを見ていろ。俺だけを感じていろ」
まるで、考え事を見抜いたかのように、嗣春の強い瞳がこちらを覗き込む。
「お前は余計な事は考えなくていい。必ず俺がお前を守ってやる」
嗣春は尊の唇を貪るように奪うと、舌を差し込み、蜜を吸い上げる。同時にペニスもぐいっと再び差し込む。
「ああっ……」
稲妻のような痺れが全身に走る。
嗣春が与え続ける快楽が思考をどこかへと追いやった。
上と下から熱く犯されて、尊は真っ白な喉を仰け反らせる。
「ひ……あぁっ……」
グリグリっと嗣春の腰が抉るように動く度に、尊の意識は途切れ途切れになる。
嗣春を咥えている部分は焼けるほどに熱く、それが痛みなのか快楽なのか、もはや分からなかった。
快楽よりも、痛みが欲しいーー
この身体に流れる罪を罰するような、痛みが欲しい。
けれど、その願いは叶うことはないのだ。
嗣春が最後に与えるのは、いつだって気を失うほど圧倒的な快楽だけだった。
いつの間にか、尊の瞳からポロポロと涙が零れ落ちていた。嗣春は腰を深く抉るように動かしながら、その涙を唇で吸い上げる。
「あ、ああっ……」
ズプリ……ズプリ……と淫らな音が響き、尊の身体は弓なりになり、本革のソファーに沈んだ尊の腰は、びくんびくんと震えた。
「もう……イきそう……」
すすり泣くような尊の声に、嗣春は素早く尊のシャツを胸元近くまで捲りあげてやる。
そしてグイッと力いっぱいに嗣春の腰が突き上げた瞬間、尊のペニスから白濁液が吹き出し、尊はガクリと果てて気を失った。
嗣春はズルリとペニスを引き抜くと、胸ポケットから出したシルクの真っ白いハンカチーフで尊の身体を丁寧に拭いてやり、衣服を整えてやる。
そして、意識を失っている尊の美しい顔をそっと眺めた。
ーーお前が欲しいと思ったものならば、俺は何でも手に入れてやる。お前の抱える孤独の闇が少しでも埋まるのならば、車でも絵画でも、"男"でも、何でも与えてやる。
ただし、全て俺の腕の中でだ。例え他の男に抱かれようとも、尊、お前が戻る場所はただ一つ。この腕の中だけだ。
嗣春は眠っている尊を起こさないようにしながら、ルビーのような真っ赤な唇にキスを落とす。
尊の身体の全ては、まるで絢爛の宝石が埋め込まれた王笏のようだった。いつまで眺めていても飽きる事のない、輝きがある。
嗣春は今度は尊の首筋にそっとキスをする。
その時、嗣春の胸ポケットの携帯が鳴った。
尊との親密な時間を邪魔された事に少し苛ついたように舌打ちしながら出てみると、若い声が響いた。
「もしもし、早川です」
警察庁の早川からだった。彼もまた、一之瀬の息がかかっている人間だった。
「今朝、お送りした資料に目を通していただけましたでしょうか」
「あぁ」
嗣春は緋色のカーペットの上に散らばっていた、さっきまで尊が読んでいた資料を拾い上げる。
「近々、ウチの局長が動きます。恐らく実行犯はその資料にある田中京介という人物になるかと思います。局長が用意した拳銃の弾は予めこちらで空砲に変えておきますが、念のため警戒をお願いします」
早川はテキパキと事務的にそう伝えると、声を少しひそめる。
「あ、あのそれから……」
「なんだ?」
「その……田中京介という男なんですが、僕の先輩で……その……決して悪い男では無いんです……。恐らく、妹さんをダシに使われて本人の意志とは関係なく、そちらに向かうと思うんです……なので……その……何とか穏便にしていただけませんか……?」
最後は懇願するような声に早川は、なっていた。
「それは田中京介という男次第だな。こちらで判断して決める」
嗣春がそう言うと、
「どうかよろしくお願いします」
と何度も繰り返して、早川は電話を切った。
ーー田中京介か……
尊といい、早川といい、随分と執着するところを見ると、どうやら、この男とは何かしらの縁がありそうだ。
嗣春はソファーの上でまだ眠っている尊の滑らかな頬にキスを落とすと、手にしていた資料をピンと指で弾く。
来いよ、田中京介。
お前が本物の男かこの目で見極めてやる。
嗣春は社長室の窓の外の眼下に広がる霞が関のビル群を眺めながら、不敵に笑った。
終
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