【R18】拳銃と犬 〜御曹司とボディーガードの淫らな関係

瀬能なつ

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京介編

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 少し疲れた様子の尊と、尊を出迎えた京介は無言で歩きながら自室まで来る。

 尊は眠そうな顔で、「おやすみなさい」と京介に挨拶をし、パタンと部屋の扉を閉めた。

 尊には色々と聞きたい事があったが、明日にするかと、京介も尊の隣の部屋の自室へと戻る。

 隣室ではシャワーでも浴びているのだろうか、監視モニターからは水音が鳴り響いて来ていた。

 やがてそれも止まり、濡れた髪をタオルで乾かしながら、バスルームから尊が出て来る。

 その姿は、上半身に少し大きめのパジャマを羽織っただけの格好で、スラリと伸びた生足は妙に生々しく、モニター越しに尊の様子を覗いていた京介は、段々と妙な気分になって来る。

(監視対象の男相手に俺は何を考えているんだ。 いかんいかん……!)

 京介は雑念を振り払うかのように、頭を振る。

 それでも、気がつけば尊の様子をモニターで食い入るように見つめている自分に思わず苦笑する。

 ベッドに入った尊は何やら手探りでごそごそとしていたが、やがて毛布の中から何か物体を引きずり出した。

 それは黒い色をした犬の縫いぐるみだった。
  
 その縫いぐるみを尊はギュッと抱きしめると、スヤスヤと寝息をたて始める。

 暴かれた尊の思いも寄らない行動に、京介は一瞬、クッと吹き出すが、尊の抱いている縫いぐるみが、尊が幼少の頃に飼っていた甲斐犬と良く似ている事を思い出し、尊の心の中に、何か埋められない寂しい思いがあるのだろうかと、同情の思いを馳せる。

 今すぐ尊の部屋に行って、この腕の中で尊を温めてやりたかったが、その一線を越える事は、自分には決して許されない事は、十分に分かっていた。
  
 目と鼻の先の近くにいながら、決して手の届かない相手。 

 それが、一之瀬尊だった。

 京介は他の防犯カメラに映る映像もチェックをして、異常が無いことを確認すると、今日の任務はここまでだなと、伸びをして立ち上がり、ゴロンとベッドに横になる。

 目を閉じても、脳裏に浮かぶのは、尊の事ばかりだった。

 老獪な大人達に囲まれながらも、総裁としての手腕を存分に発揮する明晰な頭脳と、美少年の面影を残す、どこか憂いを帯びた表情… 

 世間の穢れなどまるで知らぬかのような、楚々と聖らかな雰囲気を纏う尊のその身体を、自分の手で開いて弄び、エロティックな声で鳴かせてみたい……

 あぁ、こんな事を考えるのは止めよう!

 ベッドの上で淫らに乱れた尊の喘ぎ声を思わず想像した京介は、再びブンブンと頭を振って疾しい妄想を追い払う。

 自分が自制心のある人間で良かった。

 さもなければ、すぐにでも隣室を繋ぐドアを蹴破ってでも尊を襲っていただろう。

 高ぶった感情を無理矢理に鎮めるように努めると、ようやく京介は眠りについた。



 結局、あまりよく眠れなかった京介は、朝早くに目が覚めると、目覚めのコーヒーでも飲もうかとキッチンへと向かう。

 すると、そこにはコーヒーメーカーと、京介が普段愛飲している種類のコーヒー豆が既に並べて置いてあった。

 良くもまぁ俺の事を細かく調べてるものだ……

 京介はコーヒー豆の袋を手に取り思わず苦笑する。

 コーヒーメーカーに豆と水をセットしてスイッチを入れると、やがてコポコポとコーヒーの落ちる音がして、辺りに香ばしい良い香りが漂う。 

 その香りにつられるようかのように、パジャマ姿の尊が起きてきた。

 「お早う、京介さん。早いんですね」

 「おはようございます。社長」

 昨日想像していたやましい下心を尊に気がつかれないよう、冷静な声で挨拶をする。

 尊は、うーんと伸びをしてから、
「僕にもコーヒーを一杯頂けますか?」
 と、京介に向かって微笑む。

「勿論ですよ」

 尊のスラリとした艶かしい肢体を視界に入れないようにしながら、京介は返事をする。

 京介からマグカップ一杯のコーヒーを受け取った尊は、キッチンに隣接したプライベートスペースのリビングのソファに座り、目の前の低いガラステーブルに置かれた今朝の経済新聞に手を伸ばして広げる。
  
 尊のその様子を眺めながら、京介もマグカップを手に、尊の向かい側に腰を下ろそうとすると、
 尊は読んでいた新聞から顔を上げて、自分の隣に座るよう、ポンポンとソファを叩いた。

「京介さん、こっちに来て下さい」
「はい……」

 京介は緊張しつつも、表情は努めて平静を装って、尊の隣に座る。

 隣に並ぶと、尊の髪からシャンプーの甘い香りが漂ってきて、京介の理性は早くもふっ飛びそうになり、必死でそれを押さえ込んだ。

 京介の懸命の努力など全く気がついていない尊は、京介の鍛えられた筋肉質の体に、より密着させるように近づくと、京介の目の前に今読んでいた新聞を広げて、写真を指差す。

「この社長の顔と会社名、それから、同じく、こちらの社長の名前を頭に入れておいて下さい」
  
「わかりました……」

 京介は尊を意識しないよう視線を半分宙に泳がせながら、応えるようにコクコクと頷く。

「それから、時間がある時で結構なので、後でこの記事にも目を通しておいて下さい」

 尊が指差した政治面の記事を京介は熱に浮かされたように半ば放心状態で頭に入れる。

「京介さん、具合、大丈夫ですか? 汗、かいていますよ」

 顔を赤くして、額や鼻の頭に玉のような汗が吹き出している京介を心配して、労るように尊は手を京介の膝の上にそっと置く。

 尊の体が発する甘い匂いに包まれた京介の理性はもう限界だった。

 自分の両手をギュッ握りしめ、この手が尊を押し倒そうとしないよう、ギリギリのところで必死で堪える。

「だ……大丈夫……だっ!   ッ ……です」

 動揺して敬語がおかしくなった京介を、尊はクスリと笑う。

「体調が良くないのであれば、あまり無理をしないで下さいね。それから今日は僕は大学なので、警護は必要ないです」

「大学……?」

 京介が思わず聞き返すと、

「僕の身分は一応、学生ですから」

 尊は微笑む。


「しかし、警護は必要なのでは……?」

 他人が自由に出入り出来る大学こそ、危険ではないのか。 

「大丈夫です。うちの大学の研究棟はセキュリティが厳しいんです」

  尊はそう言うと、コテン…と頭を京介の肩に乗せて、持たれ掛かる。

 不意の尊の行動に、京介の心臓は再びバクバクと跳ね上がり、最早、理性を押さえ込むのも限界が来そうだった。
  
  「しゃ、社長…!  お、大人を、か……からかうのもいい加減にして下さいッ」

 悲鳴のような声をあげると、

「京介さん、僕はからかってなどいませんよ」
  
 尊は真面目な顔でそう答えてから、目を閉じて、まるでキスでもねだるように、スッと顔を京介の方へと向ける。


 さっきまで辛うじて留まっていた京介の理性は完全に何処かへと飛び去っていた。


 林檎の実のように、真っ赤な尊の唇。

 密に濡れた禁忌の舌。

 決して食べてはならぬ、魅惑の禁断の甘い果実ーー

 

 最早、京介に抗える術は無かった。

 ふらふらと、京介の唇は尊の方へと吸い寄せられる。

 あと僅か数センチで二人の唇が重なりそうになったその瞬間、背後で執事の実野の声が響いた。

「尊様、そろそろお支度のお時間でございます」

 京介は慌ててガバッと体を起こす。

 お、俺は今、一体何をしようとしてたんだっ?!

 激しく動揺する京介とは反して、落ち着き払った尊は、

「もう時間ですか」 

 と、澄ました顔で立ち上がる。

「申し訳ありません、京介さん。朝食をご一緒したかったのですが、この後、Tホテルで朝食会のミーティングが入っているので、これから出なくてはなりません。朝食は京介さんのお好きな物を用意させますので、ごゆっくりと召し上がって下さい」

 それでは失礼します、と頭を下げて、尊は軽やかにその場を立ち去った。

 呆然としている京介に、別の使用人が近づき、和食と洋食のどちらを用意するか尋ねてくる。 

 京介はまだ放心状態から抜け出せないままに、生返事で、“和食”と答えると、更に魚の種類や調理法、挙げ句に味噌汁の味噌の種類まで細かく選ぶよう言われ、15分後には、全く希望通りの完璧な和朝食が、豪華なシャンデリアのぶら下がったメインダイニングに用意された。
  

 温かい味噌汁を口に運ぶと、だんだんと京介の頭にも理性が戻ってくる。 

 さっきは尊に不意討ちを喰らったが、次は場の雰囲気に流されないぞ、と心に誓う。

 尊は簡単に手を出してはいけない相手だ。仕事上の警護対象者ならば尚更だ。

 その時、胸ポケットに入れていた携帯が鳴る。 

 出ると、後輩の早川だった。

「お疲れ様です。先輩、今日は本庁に寄られますか?」

「どうした? 何かあったのか?」

「それが、ちょっと困った事になりまして……」

 京介は早川の話を聞くと、驚いて立ち上がり、慌てて麻布の邸宅を飛び出した。
  
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