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京介編
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麻布の邸宅に戻ると、尊はまだ帰って来ていなかった。
京介は、しなければならない仕事を思い出す。
(先ずは尊の書斎へ行って、犯罪の証拠となるそれらしき資料を探しだす事から始めるか)
誰もいない尊の書斎へと、京介はそっと足を踏み入れる。
尊の書斎は、ベッドルームと同じように、重厚なマホガニーの机とビジネスチェアが置かれただけのシンプルな部屋だった。
机の引き出しを開けてみるが、書類らしきものは何もなく、ペンやハサミといった文具類が何個か仕舞われているだけだった。
そうとなると、後は机の上に置かれたパソコンの中が怪しかったが、起動には生体認証が必要らしく、今ここでどうこう出来る代物では無かった。
捜査令状でもなければ、このパソコンの中身は見ることが出来なさそうだが、尊を捜査するための令状なんて物は永遠におりないだろう。
諦めて、ため息をつく。
その時ふと、尊のデスクの上に飾られた写真が目に入った。
恐らく、尊が4~5歳の時の写真なんだろうか。
濃紺の半ズボンに白シャツ、そしてピカピカに磨かれた革靴を履いた小さな男の子が、行儀よく背筋を伸ばして、黒い甲斐犬と一緒に並んで写っていた。
写真の中の尊は、幼いながらも、その圧倒的な美貌の片鱗を垣間見せていたが、一方で、表情はどこか固かった。
人の愛情など知らぬような、子供らしからぬ、冷ややかな二つの瞳。
その尊の写真に、京介は胸を掴まれる思いがした。
この頃の尊は、一体どんな事を考えているような子供だったのだろうか?
名門財閥の跡取りとして育った尊は、一般人の俺には考えも及ばないような苦労をしてきたのかもしれない。
京介は暫くの間、尊の写真を手に取り、思わずじっと眺め続けていた。
気がつけば、かなり時間が経っていたらしい。
外でバタンと車の扉が閉まる音がして、ハッと我に返る。
尊が帰って来た!
京介は手にしていた写真を元の場所に戻すと、慌てて尊の部屋を飛び出して、玄関まで出迎えに行く。
玄関先の車寄せには真っ赤なフェラーリが止まっていた。
尊は運転席に座っている男と何か二言三言、会話していたが、やがて車は派手な爆音を響かせて走り去って行った。
京介は、窓越しにチラリと見えたドライバーの顔を見て驚く。 彼は誰もが知っている有名な映画俳優だった。
女性だけでなく男性でも、この有名な俳優に会えれば皆、悲鳴のような喜びの歓声を上げるのに、車を見送る尊は眠そうに欠伸を噛み殺すような顔をしていた。
「お帰りなさい。社長」
京介が声をかけると、有名俳優を見送っていた時の退屈そうな顔とは打って変わって、満面の嬉しそうな顔を尊はこちらに向ける。
「京介さん、ボディーガードの話を受けてくれたんですね!」
きらきらと輝くような尊の笑顔に京介の心もなぜか弾む。
「そうです。暫くあなたにまとわりつきますよ」
冗談めかして言うと、尊は口元に上品に手を当てて、クスクスと笑う。ふわりとした、優しい空気が二人の間に流れた。
「ところで、今のは?」
好奇心で思わず聞くと、
「あぁ、俳優の弓光輝さんです。次にうちで撮る映画に彼を主演で使う話が出ているので、その接待でした。彼、気に入った脚本でないと、幾ら大金を積んでも出てくれないので、交渉は結構大変でしたよ」
如何にも疲れたと言うように、尊はうーんと腕を伸ばす。
高貴なシャム猫のような、しなやかな尊の身体。
歩き出した尊の後を追いながら、京介の目は、尊のうなじに思わず釘付けになる。
少し酔っている尊の肌は、ほんのりと茜色に染まっていて、香り立つ色気で包まれていた。
無意識に京介の喉がゴクリと鳴ると、京介の前を歩いていた尊が不意に立ち止まり、くるりと顔をこちらに向ける。
自分の下心を見抜かれたのかと、京介は一瞬、動揺する。
振り向いた尊は、真剣な瞳で京介の凛々しい顔を覗き込む。
「京介さん、これは絶対命令です。 決して僕のために命を落とさないで下さい」
形のよい唇でそう言って、京介の男っぷりの良い武骨な手を取りぎゅっと握り締める。
「あ、あぁ……」
尊の美しい瞳に見つめられた京介は、ファム=ファタールに魅入られた男達のように、ただ惚けて頷くしか出来なかった。
京介は、しなければならない仕事を思い出す。
(先ずは尊の書斎へ行って、犯罪の証拠となるそれらしき資料を探しだす事から始めるか)
誰もいない尊の書斎へと、京介はそっと足を踏み入れる。
尊の書斎は、ベッドルームと同じように、重厚なマホガニーの机とビジネスチェアが置かれただけのシンプルな部屋だった。
机の引き出しを開けてみるが、書類らしきものは何もなく、ペンやハサミといった文具類が何個か仕舞われているだけだった。
そうとなると、後は机の上に置かれたパソコンの中が怪しかったが、起動には生体認証が必要らしく、今ここでどうこう出来る代物では無かった。
捜査令状でもなければ、このパソコンの中身は見ることが出来なさそうだが、尊を捜査するための令状なんて物は永遠におりないだろう。
諦めて、ため息をつく。
その時ふと、尊のデスクの上に飾られた写真が目に入った。
恐らく、尊が4~5歳の時の写真なんだろうか。
濃紺の半ズボンに白シャツ、そしてピカピカに磨かれた革靴を履いた小さな男の子が、行儀よく背筋を伸ばして、黒い甲斐犬と一緒に並んで写っていた。
写真の中の尊は、幼いながらも、その圧倒的な美貌の片鱗を垣間見せていたが、一方で、表情はどこか固かった。
人の愛情など知らぬような、子供らしからぬ、冷ややかな二つの瞳。
その尊の写真に、京介は胸を掴まれる思いがした。
この頃の尊は、一体どんな事を考えているような子供だったのだろうか?
名門財閥の跡取りとして育った尊は、一般人の俺には考えも及ばないような苦労をしてきたのかもしれない。
京介は暫くの間、尊の写真を手に取り、思わずじっと眺め続けていた。
気がつけば、かなり時間が経っていたらしい。
外でバタンと車の扉が閉まる音がして、ハッと我に返る。
尊が帰って来た!
京介は手にしていた写真を元の場所に戻すと、慌てて尊の部屋を飛び出して、玄関まで出迎えに行く。
玄関先の車寄せには真っ赤なフェラーリが止まっていた。
尊は運転席に座っている男と何か二言三言、会話していたが、やがて車は派手な爆音を響かせて走り去って行った。
京介は、窓越しにチラリと見えたドライバーの顔を見て驚く。 彼は誰もが知っている有名な映画俳優だった。
女性だけでなく男性でも、この有名な俳優に会えれば皆、悲鳴のような喜びの歓声を上げるのに、車を見送る尊は眠そうに欠伸を噛み殺すような顔をしていた。
「お帰りなさい。社長」
京介が声をかけると、有名俳優を見送っていた時の退屈そうな顔とは打って変わって、満面の嬉しそうな顔を尊はこちらに向ける。
「京介さん、ボディーガードの話を受けてくれたんですね!」
きらきらと輝くような尊の笑顔に京介の心もなぜか弾む。
「そうです。暫くあなたにまとわりつきますよ」
冗談めかして言うと、尊は口元に上品に手を当てて、クスクスと笑う。ふわりとした、優しい空気が二人の間に流れた。
「ところで、今のは?」
好奇心で思わず聞くと、
「あぁ、俳優の弓光輝さんです。次にうちで撮る映画に彼を主演で使う話が出ているので、その接待でした。彼、気に入った脚本でないと、幾ら大金を積んでも出てくれないので、交渉は結構大変でしたよ」
如何にも疲れたと言うように、尊はうーんと腕を伸ばす。
高貴なシャム猫のような、しなやかな尊の身体。
歩き出した尊の後を追いながら、京介の目は、尊のうなじに思わず釘付けになる。
少し酔っている尊の肌は、ほんのりと茜色に染まっていて、香り立つ色気で包まれていた。
無意識に京介の喉がゴクリと鳴ると、京介の前を歩いていた尊が不意に立ち止まり、くるりと顔をこちらに向ける。
自分の下心を見抜かれたのかと、京介は一瞬、動揺する。
振り向いた尊は、真剣な瞳で京介の凛々しい顔を覗き込む。
「京介さん、これは絶対命令です。 決して僕のために命を落とさないで下さい」
形のよい唇でそう言って、京介の男っぷりの良い武骨な手を取りぎゅっと握り締める。
「あ、あぁ……」
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