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幼児編

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それからは急にバタバタと家中が慌ただしくなった。
使用人の人達は交代で僕につきっきりだし、夏はオロオロするし、翔兄さんと直兄さんは僕を寝かしつけるのに必死だし、母さんと父さんは僕に少しずつ食べ物を食べさせるし…。
「…も…いらない」
「じゃあ水分は?お水?お茶?」
「みず…つめたいの」
「じゃあ持ってくるよ。…頑張ってね」
父さんは僕を撫で、部屋を出ていった。
「…か…さん」
「ん?」
「…なんでも…ない」
僕は口元まで布団を持ってきた。
「よく眠るのよ。そして元気になりなさい」
「…かあ…さん。…かあさんは…どうして…とうさんと…けっこん…したの?」
「お父さんのことが好きだったからよ。好きで好きで好きで仕方なかったの」
「…しゃべり…かた…は?」
「これは…昔に存在していた『女性』がこういう話し方だったの。お母さんの遠い祖先がその方でね。代々、男性に嫁ぐ人はそんな喋り方にするように教育を受けるの」
「…ふぅん」
母さんの喋り方の謎が解けた。
そういう一族なのか。
…というか昔は存在してたって…今はいないの?
女性。
「柚、雫。水持ってき…2人とも何話してたの」
「何も?」
「…ひみつ」
「もう、意地悪なんだから。…はい、お水。匂いあるとダメかなって思ったからただのミネラルウォーターだけど…」
「ううん…ありがと…そのほうが…いい」
僕は水を受け取り、母さんの助けを借りながら少しだけ口にした。
「ふぅ」
「…もういいの?」
「うん…」
「…で、そこの3人は入るなら入る。入らないなら入らないで遊んできなよ」
父さんはドアをいきなり開けた。
「…だって僕の役割母さんに取られそうだし」
「俺の役割でもあるし」
「…なつ、なにもできないし」
「今はいいから夏は向こうで兄さん達に遊んでもらいな」
「…ゆず、げんきになる?」
「なるから」
「じゃあなつ、いっぱいあそぶ!!で、ゆずがげんきになったときにいっしょにそれであそんであげるの!!」
「じゃあ柚が知らない遊びやらなきゃね」
「…柚が知らないのなんて…あるのか?」
夏達は3人でどこかへ去っていった。
「…嵐のように過ぎ去っていったね」
「えぇ…」
「…なつ…」
「さ、柚は寝ましょう?」
「沢山食べて沢山寝て、元気になって夏達に会うんだろう?」
「うん」
父さんと母さんは僕を軽く抱きしめ、2人で両側から頬へキスをした。
「「おやすみ。柚」」
「おやすみ…なさい」
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