27 / 27
第26話 そして私は――
しおりを挟む
「リセ!」
応接室を出て廊下を歩いていると、廊下の向こうから私を呼ぶ声と、ぱたぱたと走ってくる音がした。
天井のライトが反射して輝く角。短く整えられた髪の毛に浅黒い肌。青く輝く瞳。間違いない。見紛うはずもない。
「パーシヴァル様!?」
「よかった、アヤメの間からいつの間にか姿を消していたから、どこに行ったのかと探していたんだ」
パーシヴァルさんだ。私の前で足を止めて、呼吸を整える。どうやら私を探していたらしい。
そういえば彼もさっきのパーティーに出席していた。私の姿も見ていただろうから、いつの間に姿を消して焦ったことだろう。申し訳無さを覚えながら、頬をかきつつ私は答えた。
「ええ、その、ちょうど今しがたまで王様と王子様とお話を……」
「えっ……」
その言葉に、彼は絶句した。まさしく絶句した。
言葉を失った様子の彼を上目遣いで見上げていると、パーシヴァルさんが額をとんとんと叩き始めた。しばらくそのまま考え込んで、ようやく情報の整理が出来たらしい。息を吐きながら私を見下ろした。
「ん、なるほど、なるほど。君は直接切り込んだわけか。全く、すごいな」
「いえ、現行犯でやらかされたのを見ていましたので」
彼の言葉に、肩をすくめて笑う私だ。正直あの現場で、一番近くに居たわけだし。すぐに対処できて事を大きくせずに済んだのはラッキーだった。
私の様子を見てパーシヴァルさんもようやく表情をほころばせた。そうして私の肩に手を置きながら言う。
「そうか……それで、どうだった」
「……ふっふっふ、ドンピシャでしたよ」
その端的な言葉に、指を一本立てながら私はニヤリと笑った。パーシヴァルさんが今回の話をお膳立てしてくれたのだ。結果を報告しなくては申し訳ない。
「王宮のメイドさんから、覚醒者の方の書かれたそういう趣味の本を教えてもらい、それからおハマりになられたんだそうです。そのメイドさんに何かしら罰を与え、今後はそういう行動を取らないこと、と確約させました」
「そうか……そうか」
私が話した内容に、パーシヴァルさんは深く息を吐いた。二度、そうかと繰り返して零した彼の表情が、くしゃりと笑みの形を作る。
「すごいな。君はとうとう、王家とも繋がりを作ってしまったわけか」
「いやー……ははは。私もまさか、王様から同伴の依頼をいただくとは思わなくて」
そのお褒めの言葉に苦笑する私だ。私自身、さっきの王様からの申し出は信じられない。今でも空耳か聞き間違いだったんじゃないか、と思ってしまうくらいだ。
私は今や、ラム王国の様々な貴族だけではない、王家の人々からも請われる人材になった。そういう人達に、共に酒を飲み交わすことを求められる人材になったのだ。
私の吐き出した言葉に、パーシヴァルさんがゆるく頭を振る。そしてその瞳孔が縦に長い瞳で、まっすぐに私を見た。
「いや、君はそれだけのことを出来る人だ。それだけの力を持つ人だ。心の強さ、意志の強さ、酒の知識、自分の言葉で語れるところ。それだけ出来る人は、きっとこの国にも何人も居ないだろう」
その言葉を聞いて、胸から熱いものがこみ上げてきそうになる私だ。ありがたい、ここまでちゃんと、はっきりと褒められることなんて、地球ではそうそう無かったことだ。
と、パーシヴァルさんが立ち上がりながら指先であごを触る。困ったように眉を下げながら、彼は数度あごに触れつつ言った。
「惜しいなぁ、君だったら酒場の一女中に収まっているより、近衛庁や法務庁でいい仕事が出来ると思うんだけど」
「いや、さすがにそこまでは」
彼の発言に慌てて私は両手を振る。私が国の機関に属して仕事をするなんて、そんなそんな。想像できないし、正直そこまで魅力に感じない。
だって、私は。私は今の仕事が、今の職場が、職場で一緒に働く皆が好きなのだ。それを素直に、私の言葉にする。
「私は今の、女中の仕事が好きですし。そりゃ確かに、裏の部屋での仕事もしないとならないですし、今のところそういうテクニックは私にはないですけれど……それでも、いろんな方と分け隔てなくお話できる、今の仕事が楽しいです」
「……そうか」
私の想いを聞いて、パーシヴァルさんが目を細めて笑った。
彼も、私を求めてくれる客の一人だ。ありがたいことにいろいろと気にかけてくださっている。そしてそれは、今後もきっと変わらないのだろう。
「分かった。私もお酒を飲んでいる時のリセを見るのが好きだ。あんまり変に高い地位に収めて、動きにくくしてしまうのも良くないだろう」
「分かってらっしゃる」
私の肩に手を置きながらパーシヴァルさんが話す。まさしくそうだ。今のぐらいの立場の方が動きやすくていい。
笑みを返してうなずく私の手を、パーシヴァルさんの手が掴んだ。そのまま彼は、王宮の外に向かって走り出す。
「さあ、外に出よう。タニア達はもう『紅眼の鷲亭』に行ってしまったよ」
「あっ、いけない! 打ち上げがあるんだった、急がなきゃ!」
そうだった、そうだった。皆はもう仕事を終えて、パーティーに興じているはずだ。私がそこに行かないわけにはいかない。
パーシヴァルさんに手を引かれて、私は走っていく。熱を持つ頬を、柔らかな風がかすめていく。
そうして私は、明日へと……また明日から始まる、お貴族様や大商人様、はては王様王子様との、酒を交えて楽しむ日々へと、全力で駆けていくのだった。
~おしまい~
Copyright(C)2021-八百十三
応接室を出て廊下を歩いていると、廊下の向こうから私を呼ぶ声と、ぱたぱたと走ってくる音がした。
天井のライトが反射して輝く角。短く整えられた髪の毛に浅黒い肌。青く輝く瞳。間違いない。見紛うはずもない。
「パーシヴァル様!?」
「よかった、アヤメの間からいつの間にか姿を消していたから、どこに行ったのかと探していたんだ」
パーシヴァルさんだ。私の前で足を止めて、呼吸を整える。どうやら私を探していたらしい。
そういえば彼もさっきのパーティーに出席していた。私の姿も見ていただろうから、いつの間に姿を消して焦ったことだろう。申し訳無さを覚えながら、頬をかきつつ私は答えた。
「ええ、その、ちょうど今しがたまで王様と王子様とお話を……」
「えっ……」
その言葉に、彼は絶句した。まさしく絶句した。
言葉を失った様子の彼を上目遣いで見上げていると、パーシヴァルさんが額をとんとんと叩き始めた。しばらくそのまま考え込んで、ようやく情報の整理が出来たらしい。息を吐きながら私を見下ろした。
「ん、なるほど、なるほど。君は直接切り込んだわけか。全く、すごいな」
「いえ、現行犯でやらかされたのを見ていましたので」
彼の言葉に、肩をすくめて笑う私だ。正直あの現場で、一番近くに居たわけだし。すぐに対処できて事を大きくせずに済んだのはラッキーだった。
私の様子を見てパーシヴァルさんもようやく表情をほころばせた。そうして私の肩に手を置きながら言う。
「そうか……それで、どうだった」
「……ふっふっふ、ドンピシャでしたよ」
その端的な言葉に、指を一本立てながら私はニヤリと笑った。パーシヴァルさんが今回の話をお膳立てしてくれたのだ。結果を報告しなくては申し訳ない。
「王宮のメイドさんから、覚醒者の方の書かれたそういう趣味の本を教えてもらい、それからおハマりになられたんだそうです。そのメイドさんに何かしら罰を与え、今後はそういう行動を取らないこと、と確約させました」
「そうか……そうか」
私が話した内容に、パーシヴァルさんは深く息を吐いた。二度、そうかと繰り返して零した彼の表情が、くしゃりと笑みの形を作る。
「すごいな。君はとうとう、王家とも繋がりを作ってしまったわけか」
「いやー……ははは。私もまさか、王様から同伴の依頼をいただくとは思わなくて」
そのお褒めの言葉に苦笑する私だ。私自身、さっきの王様からの申し出は信じられない。今でも空耳か聞き間違いだったんじゃないか、と思ってしまうくらいだ。
私は今や、ラム王国の様々な貴族だけではない、王家の人々からも請われる人材になった。そういう人達に、共に酒を飲み交わすことを求められる人材になったのだ。
私の吐き出した言葉に、パーシヴァルさんがゆるく頭を振る。そしてその瞳孔が縦に長い瞳で、まっすぐに私を見た。
「いや、君はそれだけのことを出来る人だ。それだけの力を持つ人だ。心の強さ、意志の強さ、酒の知識、自分の言葉で語れるところ。それだけ出来る人は、きっとこの国にも何人も居ないだろう」
その言葉を聞いて、胸から熱いものがこみ上げてきそうになる私だ。ありがたい、ここまでちゃんと、はっきりと褒められることなんて、地球ではそうそう無かったことだ。
と、パーシヴァルさんが立ち上がりながら指先であごを触る。困ったように眉を下げながら、彼は数度あごに触れつつ言った。
「惜しいなぁ、君だったら酒場の一女中に収まっているより、近衛庁や法務庁でいい仕事が出来ると思うんだけど」
「いや、さすがにそこまでは」
彼の発言に慌てて私は両手を振る。私が国の機関に属して仕事をするなんて、そんなそんな。想像できないし、正直そこまで魅力に感じない。
だって、私は。私は今の仕事が、今の職場が、職場で一緒に働く皆が好きなのだ。それを素直に、私の言葉にする。
「私は今の、女中の仕事が好きですし。そりゃ確かに、裏の部屋での仕事もしないとならないですし、今のところそういうテクニックは私にはないですけれど……それでも、いろんな方と分け隔てなくお話できる、今の仕事が楽しいです」
「……そうか」
私の想いを聞いて、パーシヴァルさんが目を細めて笑った。
彼も、私を求めてくれる客の一人だ。ありがたいことにいろいろと気にかけてくださっている。そしてそれは、今後もきっと変わらないのだろう。
「分かった。私もお酒を飲んでいる時のリセを見るのが好きだ。あんまり変に高い地位に収めて、動きにくくしてしまうのも良くないだろう」
「分かってらっしゃる」
私の肩に手を置きながらパーシヴァルさんが話す。まさしくそうだ。今のぐらいの立場の方が動きやすくていい。
笑みを返してうなずく私の手を、パーシヴァルさんの手が掴んだ。そのまま彼は、王宮の外に向かって走り出す。
「さあ、外に出よう。タニア達はもう『紅眼の鷲亭』に行ってしまったよ」
「あっ、いけない! 打ち上げがあるんだった、急がなきゃ!」
そうだった、そうだった。皆はもう仕事を終えて、パーティーに興じているはずだ。私がそこに行かないわけにはいかない。
パーシヴァルさんに手を引かれて、私は走っていく。熱を持つ頬を、柔らかな風がかすめていく。
そうして私は、明日へと……また明日から始まる、お貴族様や大商人様、はては王様王子様との、酒を交えて楽しむ日々へと、全力で駆けていくのだった。
~おしまい~
Copyright(C)2021-八百十三
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(14件)
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白かったです
感想ありがとうございます。
面白いとのお言葉、とても嬉しいです。
お灸据えた、一応終了…?
感想ありがとうございます。
一応、これで終了となりますね。作品としても7/14時点の更新分で完結となります。
どうもありがとうございます。
王子に、合法的に仕掛けに行った!
第一コング!なりました!
感想ありがとうございます。
王子は尻尾に手を出した!
リセさんは首に手をかけてこれまた合法的にキメにいった!
さあどうなる!