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第1章:危険区域編
悩みと葛藤
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シエルは騎士団の野営地から離れ、灯火で真っ暗な洞窟を照らしながら奥へと進んでいた。
歩くたびにシエルの足音が静寂に包まれた洞窟内へ反響する。
背後から近づいてくる足音に気付いて、ゆっくり振り返るとフェリルが淡々と歩いてきた。
「騎士たちの側を離れてよかったのか?」
落ち着きのあるフェリルの問いかけが、湿気を帯びた空気の中で静かに響く。
「うん……ちょっと1人で、静かな場所で頭の中を整理したいの……」
ポツリと小さく呟いたシエルの声には、どこか迷いが浮かんでいた――。
「そうか……」
フェリルはそれ以上なにも聞くことはなく、シエルの後ろを黙ってついて行く。
洞窟内の湿った空気が一段と重くなり、どこか遠くから水の滴る音が聞こえてくる。
まるで深い闇の中へ誘うかのように水滴の音が響いていた。
「どこかに、水辺があるのかな……」
シエルは水音に導かれるまま進んでいくと、やがて開けた空間に出て足を止めた。
そこには天井から水が滴り落ちてできた小さな湧き水があった。
光球に照らされた湧き水がキラキラと輝き、岩肌から覗く青い鉱石に反射して幻想的なきらめきを放っている。
「綺麗……」
美しく儚げのある風景に目を奪われたシエルは、その場に腰を下ろしてポツリと呟いた。
「……私ね、この世界に来る前はずっと孤独で、1人ぼっちだったの……」
そう言ってシエルは転生召喚される前――前世の事を語りだした。
「3年前……14才の頃に両親を事故で亡くして、母方の叔父に引き取られたんだけど……母を死に追いやったのはお前だって罵られて部屋に軟禁は当たり前。部屋から出られるのは入浴時と学校に行く時だけ……食事もパンと牛乳だけが2日に1回、部屋の前に置かれるのが日常だったわ。」
「なっ……そのような不当な扱いをするなら何故お主を引き取ったのだ!」
フェリルが威嚇しながら声を荒げる。
「……遺産よ。あの人たちは、母が遺した莫大なお金目当てで私の後見人になったのよ……」
前世のシエルがおかれていた壮絶な人生に言葉が出ないようで、フェリルは黙って話を聞いている。
「学校では悪魔に魂を売った死神だってウワサが出回っていて、陰口を言われたり無視されるのが当たり前の毎日だったわ……そんな中でも1人の子が私のことを気にかけてくれてね、一緒に登下校したり庇ってくれたりして初めて友達ができたと思っていたんだけど……」
悲しげな表情で過去を語るシエルはいったん口を閉ざし、一呼吸おいてから静かに口を開いた。
「結局はその子も、他の子と同じだった……罰ゲームで私と関わっていただけで、陰では私をあざ笑っていたのよ……」
今にも泣きだしそうになるのをぐっとこらえながら、シエルは少しずつ言葉を紡いでいく。
「だからかな……人を信じるのが、怖くて……」
そう言ってシエルは膝を抱えて顔を間にうずめた。
「……騎士たちが悪い人じゃ無いことは分かってる。命を懸けて戦いに行く彼らを助けたいって思う気持ちは本物よ。でも……これまでのように酷い扱いを受けるんじゃないか、信じたところで裏切るんじゃないかってトラウマが邪魔をして、どうしたらいいのかわからないの……」
膝の間にうずめたシエルの顔からキラリと一粒の涙が零れ落ちる。
洞窟内に静寂が訪れ、ポチャンと水の滴る音が静かに響き渡る。
ひんやりとした湿った空気が身体にまとわりつき、シエルとフェリルの間に重たい空気が流れている。
「……騎士たちは国に忠誠を誓っておるゆえ、裏切ることはまずないであろう……」
ここまで黙っていたフェリルが耳をピクリと動かし、静かに口を開いた。
シエルはそっと顔をあげてフェリルを見つめる。
「――フェリルの言うとおりだ」
背後から低く、凛とした声が聞こえてきた。
シエルは涙をぬぐって勢いよく振り返る。
そこには腕を組んで洞窟の壁に寄りかかっているノクターンの姿があった。
「……盗み聞きとは、いい度胸ね。どこから聞いていたの……?」
シエルは自分の正体を知られたのではないかと内心ヒヤヒヤしていた。
「お前たちの姿が見えないからフェリルの気配を辿ってきた。盗み聞きするつもりは無かったが……話しかけられる雰囲気ではなかったからな。人を信じるのが怖い、あたりから聞かせてもらった。すまない……」
「そう……」
ほとんど最後の方で正体が分かるような話題ではなかったことにホッとするシエル。
「……お前の過去に、何があったかは分からないが……ひどい扱いをすることも、裏切ることもしないから安心してほしい」
ノクターンの一言を聞いたシエルは心の中のわだかまりが溶けていくのを感じた。
「……聞かないの?昔の私に、どんな事がおきていたのか……」
何も聞いてこないことが気になったシエルはノクターンに尋ねる。
「気にならないと言えば噓になるな。だが、お前が話したくないのであればそれ以上の深掘りはしない」
「話したくない訳じゃないけど……今は、まだ言えない。」
シエルの発言を聞いたノクターンは、話せる日が来たら教えてほしいと伝えた。
「そうか。お前が話したいと思ったら教えてくれ。」
「……ありがとう」
シエルはノクターンに小さくお礼を言う。
「そろそろ野営地に戻るぞ。皆、お前たちを待っている」
ノクターンはシエルに手を差し伸べる。
「騎士たちが……?」
ノクターンの言葉にシエルは不思議そうな顔で差し伸べられた手を見つめる。
「一時的とはいえ、討伐隊のメンバーになったんだ。お前たちを歓迎したいそうだ」
「……そう。改めて、よろしくお願いします」
シエルはノクターンの手を取って騎士たちが待つ、洞窟の入口付近にある野営地へ戻っていった――。
歩くたびにシエルの足音が静寂に包まれた洞窟内へ反響する。
背後から近づいてくる足音に気付いて、ゆっくり振り返るとフェリルが淡々と歩いてきた。
「騎士たちの側を離れてよかったのか?」
落ち着きのあるフェリルの問いかけが、湿気を帯びた空気の中で静かに響く。
「うん……ちょっと1人で、静かな場所で頭の中を整理したいの……」
ポツリと小さく呟いたシエルの声には、どこか迷いが浮かんでいた――。
「そうか……」
フェリルはそれ以上なにも聞くことはなく、シエルの後ろを黙ってついて行く。
洞窟内の湿った空気が一段と重くなり、どこか遠くから水の滴る音が聞こえてくる。
まるで深い闇の中へ誘うかのように水滴の音が響いていた。
「どこかに、水辺があるのかな……」
シエルは水音に導かれるまま進んでいくと、やがて開けた空間に出て足を止めた。
そこには天井から水が滴り落ちてできた小さな湧き水があった。
光球に照らされた湧き水がキラキラと輝き、岩肌から覗く青い鉱石に反射して幻想的なきらめきを放っている。
「綺麗……」
美しく儚げのある風景に目を奪われたシエルは、その場に腰を下ろしてポツリと呟いた。
「……私ね、この世界に来る前はずっと孤独で、1人ぼっちだったの……」
そう言ってシエルは転生召喚される前――前世の事を語りだした。
「3年前……14才の頃に両親を事故で亡くして、母方の叔父に引き取られたんだけど……母を死に追いやったのはお前だって罵られて部屋に軟禁は当たり前。部屋から出られるのは入浴時と学校に行く時だけ……食事もパンと牛乳だけが2日に1回、部屋の前に置かれるのが日常だったわ。」
「なっ……そのような不当な扱いをするなら何故お主を引き取ったのだ!」
フェリルが威嚇しながら声を荒げる。
「……遺産よ。あの人たちは、母が遺した莫大なお金目当てで私の後見人になったのよ……」
前世のシエルがおかれていた壮絶な人生に言葉が出ないようで、フェリルは黙って話を聞いている。
「学校では悪魔に魂を売った死神だってウワサが出回っていて、陰口を言われたり無視されるのが当たり前の毎日だったわ……そんな中でも1人の子が私のことを気にかけてくれてね、一緒に登下校したり庇ってくれたりして初めて友達ができたと思っていたんだけど……」
悲しげな表情で過去を語るシエルはいったん口を閉ざし、一呼吸おいてから静かに口を開いた。
「結局はその子も、他の子と同じだった……罰ゲームで私と関わっていただけで、陰では私をあざ笑っていたのよ……」
今にも泣きだしそうになるのをぐっとこらえながら、シエルは少しずつ言葉を紡いでいく。
「だからかな……人を信じるのが、怖くて……」
そう言ってシエルは膝を抱えて顔を間にうずめた。
「……騎士たちが悪い人じゃ無いことは分かってる。命を懸けて戦いに行く彼らを助けたいって思う気持ちは本物よ。でも……これまでのように酷い扱いを受けるんじゃないか、信じたところで裏切るんじゃないかってトラウマが邪魔をして、どうしたらいいのかわからないの……」
膝の間にうずめたシエルの顔からキラリと一粒の涙が零れ落ちる。
洞窟内に静寂が訪れ、ポチャンと水の滴る音が静かに響き渡る。
ひんやりとした湿った空気が身体にまとわりつき、シエルとフェリルの間に重たい空気が流れている。
「……騎士たちは国に忠誠を誓っておるゆえ、裏切ることはまずないであろう……」
ここまで黙っていたフェリルが耳をピクリと動かし、静かに口を開いた。
シエルはそっと顔をあげてフェリルを見つめる。
「――フェリルの言うとおりだ」
背後から低く、凛とした声が聞こえてきた。
シエルは涙をぬぐって勢いよく振り返る。
そこには腕を組んで洞窟の壁に寄りかかっているノクターンの姿があった。
「……盗み聞きとは、いい度胸ね。どこから聞いていたの……?」
シエルは自分の正体を知られたのではないかと内心ヒヤヒヤしていた。
「お前たちの姿が見えないからフェリルの気配を辿ってきた。盗み聞きするつもりは無かったが……話しかけられる雰囲気ではなかったからな。人を信じるのが怖い、あたりから聞かせてもらった。すまない……」
「そう……」
ほとんど最後の方で正体が分かるような話題ではなかったことにホッとするシエル。
「……お前の過去に、何があったかは分からないが……ひどい扱いをすることも、裏切ることもしないから安心してほしい」
ノクターンの一言を聞いたシエルは心の中のわだかまりが溶けていくのを感じた。
「……聞かないの?昔の私に、どんな事がおきていたのか……」
何も聞いてこないことが気になったシエルはノクターンに尋ねる。
「気にならないと言えば噓になるな。だが、お前が話したくないのであればそれ以上の深掘りはしない」
「話したくない訳じゃないけど……今は、まだ言えない。」
シエルの発言を聞いたノクターンは、話せる日が来たら教えてほしいと伝えた。
「そうか。お前が話したいと思ったら教えてくれ。」
「……ありがとう」
シエルはノクターンに小さくお礼を言う。
「そろそろ野営地に戻るぞ。皆、お前たちを待っている」
ノクターンはシエルに手を差し伸べる。
「騎士たちが……?」
ノクターンの言葉にシエルは不思議そうな顔で差し伸べられた手を見つめる。
「一時的とはいえ、討伐隊のメンバーになったんだ。お前たちを歓迎したいそうだ」
「……そう。改めて、よろしくお願いします」
シエルはノクターンの手を取って騎士たちが待つ、洞窟の入口付近にある野営地へ戻っていった――。
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